どうやって東宮殿まで帰って来たかも、よく覚えてはいない。
気づいてみれば、俺は読んでもいない小説を手にソファーに座ったまま、ただぼ~っとしていた。
今さら何を考えたって、昼間の彼女との最悪な出会いを覆せるはずもないのに…
今の俺には、自嘲気味に笑ってみせる他に為す術もない。
そして、そんな状況であるにもかかわらず、あの時彼女が見せた怒った表情にさえ愛しさが募り、最早つける薬もないほど『恋』に翻弄される自分自身にただ呆れ返るばかりだ。 「魂が抜けたような王子の顔を拝みに来たよ。」
ユルが突然やって来て、挨拶代わりにしては痛い一言を投げかけてきた。
「どれどれ…あ、本当だ。 顔色が良くありませんね。 殿下、如何なされましたか?」
俺の機嫌など見れば解るだろうに、ユルは神経を逆撫でするように笑いながら内官風の口調で話しかけてくる。
ついムッとして思い切りギロリと睨んでやった。
気づいてみれば、俺は読んでもいない小説を手にソファーに座ったまま、ただぼ~っとしていた。
今さら何を考えたって、昼間の彼女との最悪な出会いを覆せるはずもないのに…
今の俺には、自嘲気味に笑ってみせる他に為す術もない。
そして、そんな状況であるにもかかわらず、あの時彼女が見せた怒った表情にさえ愛しさが募り、最早つける薬もないほど『恋』に翻弄される自分自身にただ呆れ返るばかりだ。
ついムッとして思い切りギロリと睨んでやった。
「煩い! 何しに来た?」
「シン、どうしたんだ? 何かあったのか? コン内官や内人たちも心配してたぞ。 シンが学校から帰って来てからずっと様子が変だって。 食事もほとんど摂ってないって?」
今度は心配そうな瞳で覗き込まれ、そのせいか張り詰めていた気持ちがプツンと切れてしまい、俺は思わず弱音を吐いた。
「ユル…もうおしまいだ。 俺は…完全に嫌われた。」
「どういうことだ? まさか…チェギョンと話したのか?」
「話すも何も…出会った瞬間玉砕したよ!」
「何だよ、それ。」
不思議がるユルに、俺は自分の馬鹿さ加減を一気にぶちまけた。
なのに…
別に慰めて欲しかった訳じゃないが、話を聞いたユルが同情するでもなくいきなり笑い出したのにはさすがに頭に来た。
なのに…
別に慰めて欲しかった訳じゃないが、話を聞いたユルが同情するでもなくいきなり笑い出したのにはさすがに頭に来た。
「何だよ、人がこんなに悩んでいるのに!」
「…ああ、悪かったな。 だけど、こんなシンを見たのは初めてだから…お前にも人並みの感情が残っていたんだと思ったら何だか可笑しくて…でも安心したよ。」
「俺にだって感情はあるんだ。 人をサイボーグみたいに言うなよ。」
「サイボーグみたいだったよ。 いや…『氷の王子』だったな、お前の別名。 でもさぁ~お前がそんな風に感情を露わにするなんて、初めてのことじゃないか? それって、チェギョンのせいだろう? だったらチェギョンとシンて、やっぱり何か運命的なものがあるんじゃないかな?」
「ユル…下手な気休めは止してくれ。 あんな最悪な第一印象なんだ、もう挽回の余地もないさ。」
たとえ運命的なものがあるかもと言われたところで、素直に喜べる心境じゃなかった。
もしも運命があるとするなら、彼女と俺は永遠に結ばれない星の下に生まれたんだ。
考えるほどにネガティブな気持ちが心を支配し、身動きが取れないほどに苦しかった。
もしも運命があるとするなら、彼女と俺は永遠に結ばれない星の下に生まれたんだ。
考えるほどにネガティブな気持ちが心を支配し、身動きが取れないほどに苦しかった。
「だからさ…シン、やっぱりあの作戦を試してみるべきじゃないか?」
唐突なユルの言葉に一瞬耳を疑った。
「あの作戦て…あれか? あの三流芝居じみた少女趣味の…」
「酷いな、僕がお前のためにせっかく考えてやったシナリオを、三流だの少女趣味だのって…」
この期に及んで思いもよらないことを言われたから、つい思っていたことをそのまま口に出してしまった。
けれど、ユルは口ほどには気分を害した様子でもなかった。
けれど、ユルは口ほどには気分を害した様子でもなかった。
「悪い…つい口が滑った。 だけど今さらあんな小芝居をしたって、彼女に通用する訳ないよ。」
「大丈夫だよ。 僕に任せて! 今日のことだって、僕からチェギョンに上手くフォローしておくからさ。」
ユルの妙に自信満々の笑顔に、半信半疑ながらつい頼ってみたくなった。
どうせ最悪な状況なんだ。
何もせずにいるより、たとえ1パーセント以下の可能性でも試してみる価値はある。
どうせ最悪な状況なんだ。
何もせずにいるより、たとえ1パーセント以下の可能性でも試してみる価値はある。
「じゃあ明日の昼休みにでも早速作戦実行しよう。 嫌な印象は少しでも早く払拭しないとね。 まず僕がチェギョンにバスケを教えてあげるから…とか何とか上手く言って体育館に誘い出すから、シンはインたちと先回りしてバスケしててよ。 そして…ああしてこうするだろう? それから…」
そんなに都合良くいくもんか…
内心あまり期待していなかったが、とにかくユルの指示通りに動いてみよう…そう思った。
内心あまり期待していなかったが、とにかくユルの指示通りに動いてみよう…そう思った。
そして翌日の昼休み。
弁当を早めに食べ終えた俺は、予定通りインやギョン、ファンを誘って体育館へ行った。
バスケをしながらチラチラと出入口を窺っていると…
来た。 彼女だ。
シン・チェギョンは扉の近くで辺りをキョロキョロ見渡していたかと思うと、後ろから来たユルに気づいて
嬉しそうに微笑んだ。
俺には軽蔑に満ちた瞳を向けた彼女がユルには笑顔を向けているのにズキンと胸が痛み、一瞬動きが止まった隙にギョンが目ざとくユルを見つけて、手にしたボールをユルに向かって投げた。
弁当を早めに食べ終えた俺は、予定通りインやギョン、ファンを誘って体育館へ行った。
バスケをしながらチラチラと出入口を窺っていると…
来た。 彼女だ。
シン・チェギョンは扉の近くで辺りをキョロキョロ見渡していたかと思うと、後ろから来たユルに気づいて
嬉しそうに微笑んだ。
俺には軽蔑に満ちた瞳を向けた彼女がユルには笑顔を向けているのにズキンと胸が痛み、一瞬動きが止まった隙にギョンが目ざとくユルを見つけて、手にしたボールをユルに向かって投げた。
「おーい、ユル! 一緒にやろうぜ。」
あっ、馬鹿ギョン! それは俺の役なのに余計なことを…
「危ないっ!」
予想外の出来事に慌てていたら突然女の子の悲鳴が響き、次の瞬間ボールが振り向いた彼女の顔面を直撃した。
「キャ~~ッ! チェギョン!」
「チェギョン、チェギョンてば、しっかりしてっ!」
気づいた時には崩れ落ちた彼女に駆け寄り、心配そうに彼女を抱きかかえる友だちから彼女を強引に
奪い取り抱き上げていた。
無我夢中の俺…でも、驚いて飛んで来たギョンに一撃を加えることは忘れなかった。
奪い取り抱き上げていた。
無我夢中の俺…でも、驚いて飛んで来たギョンに一撃を加えることは忘れなかった。
「チェギョンにもしものことがあってみろ、ギョン、お前をぶっ殺してやる。」
蒼白なギョンを睨みつけた後、唖然とする周りの視線など構いもせずに、俺は気を失った彼女を抱いたまま昇降口へと急ぎ、公用車に乗せて宮へと連れ帰ってしまった。
つまり…
俺は彼女を公然と、俗に言う 『お持ち帰り』 してしまったんだ。
俺は彼女を公然と、俗に言う 『お持ち帰り』 してしまったんだ。
2010年 3月 4日 初稿(Yahoo!ブログ)
2019年10月31日 改稿