幼い私は時々、ヒョコタコと歩いて1人で森の中に入っては石に腰掛けて眠っていた。多分背後には木の幹でもあって眠るのには快適だったのかも知れない。幼い頃の時間は一時間が大人の一年以上の価値のある時間。森の中には、不思議な花が咲いていた。今思えば蘭だと思う。百合の花も咲いていた。そよ風が吹き、木々の青い香りと百合の花の香りが混ざって、本当に良い香りがした。地面には所々、かすかに流れのある湧水のようにすきとうった水が光っていた。眠い、そう思えば次の瞬間にはもう寝ている。ぐーぐー、ぐーぐー、ふと起きたら、何かが?ぐーぐー不思議な音を立てている。森の木々を下から眺めても何も見えないけれど、イビキは上から聞こえてくる。誰かが寝ているんだという事は、3歳の私にもわかった。少しいびきを聞いていると、何かは起きたようで私に言った。一緒に寝ようよ。寝ようよ。
寝たいの?一緒に寝よう。寂しい。寂しい。だから一緒に寝ようよ。良い?良い?不思議な声はとても不思議な声で私にそう話しかけてきた。うん。私が良いと頷くと不思議な声は、嬉しい、嬉しいと、大喜び。ずっと1人で寝ていた。ずーっと誰かと一緒に寝たかった。嬉しい。嬉しい。不思議な森の住人は幼い私が自分を老人と思う程、子供の様に喜んだ。又来て。うん。明日来て。夜になって一回寝たら直ぐに来て。不思議な声の何かは一途 に私にそう言った。忘れないで、寂しい、ずっと誰も一緒に此処で寝てくれなかった。忘れないよ、明日来るから待っていて。そう伝えて私は森の直ぐ近くの木の家に帰った。