あれからお姉さんは全く話をしてくれなくなっていた。梅の花の中で話してから、2年は過ぎたと思う。私は毎日悶々と過ごしていた。どうして?私達は話しが出来なくなってしまったんだろう???外は、春の太陽が光っていた。そうだ、桜の花を見せてあげて無いから、きっとガッカリして、疲れて、呆れて話をする気力が無いのだわ。その頃は、今の様に桜の開花情報を簡単に知る事は出来なかった。どうしたら?見えない桜を見せる事が出来るんだろう???東京は開花まで後少し。でも、ただ見に行っても、目が無いのに見れないよね。普通の場所では絶対に見れないよね。ぼんやりと窓の外を見ていると、閃いた。そうだ、あの不思議な道の桜なら、もしかしたらお姉さんの為に、何か起きて見ることが出来るかもしれない。私は、開花情報も何も無いまま、車を飛ばして、湯河原まで飛んで行った。確か、ここから出てきた筈。そこは病院の駐車場で、病棟と駐車場と山とこんもりと生い茂った、雑木林と雑草だらけの行き止まり。でも、確かにこの駐車場にいきなり出た筈。私は植物だらけの緑の壁を見つめていた。突然お姉さんが、そうだ、やってみる。そう言った。何を???久しぶりのお姉さんの声を聞けて、嬉しくなった私は、涙が出そうになった。何を???するの???真っ直ぐ前を見て、前って???以前出て来た所を見て。想像して、そこは入れないんでしょう???でも、まあるいトンネルが出来て、中へ入れるかもしれないのよ。本当???そうよ、信じて、前を見て、やってみるから。トンネルが出来て中へ入る事を想像して。私達は、2人で、雑木林にトンネルができる事を映画の様に想像した。2人、同じ事が出来るのが嬉しかった。2人は、真剣に一緒に、私の目を使って、雑木林を見つめた。何分の時間が過ぎたのか、何十分なのか???出来た!!!出来たわ!!!お姉さんが叫んだ!!!何???見て!!!トンネルよ。私は生きた目で確かに見た。雑木林にまあるく不思議なトンネルが開いていた。見える???お姉さんは私に言った。見えるよ。見えるよ。お姉ちゃんは???見えるの???見えるのよ。本当に見えるのよ。さあ、あの中へ入って。不思議なトンネルは大きく開いていた。中は、森の中になっているのも見えた。早く、中に入って!!!車は???車ごと入っていいの???いいから、早く入って。閉まってしまうから。お姉さんはイキイキと私にそう言った。いいわ、今から入るわよ!車ごと中に入った。その中は一見はわさわさの森。でも、ノロノロ運転で走る車の中は、どう説明したら的確に伝わるか、言葉が見つからない。ドームの中をクネクネと走る感じ。植物のトンネルのドームの中をウネウネと車で走る感じ。植物の壁が次元が歪んでいるように、ウネウネと動いている様な感じ。何を書いても表現出来ない。そして、少し走ると普通に山道で、舗装の無いやっと車一台が走れる様な、大昔の山道となった。左は崖、右は大きな桜の木が山を埋めている感じの、誰も歩かない、誰も車でも入り込まない様な静かな山道。桜、咲いているのかな???桜の木が大き過ぎて、花が良く見えない。私はノロノロと車を走らせていた。突然、お姉さんが叫んだ!!!見える!!!見えるのよ!!!綺麗、本当に綺麗!!!泣いていた。やっと桜が見えたわ。約束を守ってくれたのね。嬉しい。ありがとう。綺麗な桜を見せてくれたのね。本当に綺麗な桜よ。私には良く見えなかったのは、桜はほとんどがトンネルとなって車を覆っていたから。でも、約束通りに、桜を見せてあげられて、私も運転しながら泣いていた。綺麗、綺麗、と姉はその道が終わるまで言っていた。その道はいきなり熱海の普通の道になった。そのまま帰ろうかと思っていると、だめ、今の道を戻って同じ所から出ないと、おかしくなるからと言われて、また、その道に入った。その道は熱海側からならば、普通に入って行ける、出る時は、凄いことになるかもしれないけれど、タイムトンネルが無くても熱海側からなら、入っては行ける。出れないかもしれないけど。私達は不思議な桜山の道を湯河原へと戻った。帰り道は山桜が全部こちらを見ている、美しい桜のトンネルがずーっと続く、天国の様な道だった。桜の美しさは、本当にこの世では無い程だった。車はゆっくりと道を降りて、桜は全部私達を見ていた。見える???見えるよ。私達は2人、同じ桜を見ている瞬間の奇跡を、味わって、もう、死んでも良いな、とお姉さんが言うから、もう、死んでるんじゃないの、と私。あ、本当だ。2人は笑った。その時、空から誰かの声がした。良くやった!!!声の主人は、誰でも神様とわかる声で、私はアポロンである。私は、それを2人にして欲しかったのだよ。良く、頑張った。2人はアキレスに会いたいのを知っている。必ず、アキレスに会わせてあげよう。今の声、聞こえた???聞こえたよ。見えるし、聞こえるようになったの???違う、お願いだから、私の為に頑張って。直ぐに寝ちゃうんだから、寝ないで、頑張って。うん、頑張るからね。やがて車は、病院の駐車場の中に出た。出る時は、藪を掻き分けて出て来た。お花見、した。私は、東京へ凄い速度で車を飛ばした。