陰柔不正無応、漸むべき時のはじめに当って、力弱くしかも上で応じてくれる者もないので、つい思いためらう。鴻は行列の先後に順序があり、その往来も寒暑に応じて時あり、漸進の意味にかなうので、この卦の六爻はすべてたとえを鴻に取るが、してみれば初六は鴻が水際まで進み来って、さて陸にあがろうかどうか思いためらう象。人で言えば力弱く才の薄い小子(若者)であるから、進もうとしても危険である。しかし慎重にかまえて漸進することを心がければ、たとえ他から多少の非難はあっても咎なきを得る。義理の点では咎のないことである。陽剛居下無応、地位が卑しく正応がないということは、帰妹の際に正夫人として嫁ぐべき身ではないことを意味する。しかし陽剛の徳すなわち常に変らぬ貞正の徳があるだけに、正夫人に従う娣(介添役の婦人)として嫁げば、びっこの人がまがりなりにも歩行することができるように、どうにか婦道を尽くして夫に仕えることができる。従って行けば吉である。身分の卑しく正応のない女の常道。それが正夫人の意志を体していくことだからである。陰柔居初、事いまだ済らざる卦のはじめにいて、しかも自己の才力が乏しいことも考えずに妄進するのだから、川を渡ろうとして失敗しその尾を濡らす狐にたとえられる。吝である。自分の才力の限界を知らない。家道の初めに当り、剛毅果断の態度をもって我が家の人々の過失に陥る事を防ぐように心がければ家道が乱されるという悔いもおのずから消え去る。家人の志がまだ悪に変ぜぬうちに防止する。