そんな表現がぴたりとはまるくらいに私の目の前でこいつは着地に失敗した。

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雑巾がけで忙しい手を携帯に持ち変えて写真を撮った。
その間は起き上がってほしくなかったが、そんな心配を他所にただただももがいていた。


はは・・・アホなやつだ・・・


と、暫く様子を見ていたが、
羽を激しく振動させてもどんなに足をバタつかせても起き上がる事が出来ないようだ。


こいつは自力では起き上がれない・・・

風が吹けばどうだろう?

鳥が見付けて持って行くかも・・・



しばらくすると、バタバタと慌ただしかった手足に力がなくなっていき、
諦めたように足をお腹の前にすぼめたまま動かなくなった。








私は思い出す。

以前、交通事故の「当て逃げ」を目撃した私は警察に通報した。
逃げられた側の女性の狼狽ぶりを見て、いたたまれなかったからだ。
私の説明は完璧だったが、何故か被害届けは出ていなかった。

「参考にしますんで」
と、明らかに訝しげな雰囲気で私のプロフィールを探る警察に何故か強烈に苛立った。
私の名前や住所や電話番号が、いったい何の参考になるのだろう・・・







さぁ、選択の時だ。

助けるべきか、否か。

もしかしたらこいつは、私が差し出した手をブスッと刺すタイプの人かもしれない。
私の助けたい気持ちを事務的に
「あ、触られたんで当然刺しますけど何か?」
と、自分の職務を全うするタイプの人かもしれない・・・



きっと、ありがとうとは言われないけど、
それでも私はそっとつまんで空に放った。

すると私の放った黒い点は、
空に不規則な弧を描いたあとすぐに視界から消えた。



見上げた空は驚くほど青く澄んでいた。
遠くに見えるはっきりした輪郭の雲は何故あんなにも白いのだろうか。
まだ傾きかけの太陽が眩しくて、少しだけハハハと笑った。



「うん!」


と言って私は掃除を続けた。