第2話「情熱を選んだ男の10年後」
第2話
年収1000万を捨てた男が、10年後にたどり着いた本当の幸せ
高橋智也さん(当時30歳)は、誰もがうらやむ大手広告代理店の社員だった。高年収、都心のタワーマンション、充実した休日。SNSにはキラキラとした日常が並び、周囲からは「成功者」と見られていた。
だが、彼の胸の奥にはずっと、小さな火種のようなものが残っていた。
「本当は陶芸家になりたかったんだよな…」
美術大学に進学する夢を諦め、安定を選んでから10年。その“もしも”が、いつしか“今さら”に変わり、自分の気持ちにフタをしていた。
そんなある日、出張先で訪れた地方の工芸市で、一人の職人と出会う。皺だらけの手で土をこね、真剣な目でろくろを回す姿に、心が震えた。
帰りの電車の中で、彼は決めた。
「人生を“守る”ためじゃなく、“生きる”ために時間を使いたい」
会社を退職し、貯金で地方にアパートを借り、ゼロから陶芸の修行を始めた。家族には猛反対され、友人には心配された。それでも彼は、毎日土と向き合い、静かに、しかし確かに前へ進んでいった。
5年後、個展を開いた。来場者は数人だけだったが、その中にいた一人のバイヤーが、彼の作品を海外のギャラリーに紹介した。
そして10年後。高橋さんの陶芸作品は、パリやニューヨークでも展示され、独自の質感と温かさが高く評価されている。
「正直、お金も地位も、あの頃の方が上だった。でも、今の自分には、確かな“自分自身”があるんです」
そう語る彼の手は、以前よりもずっとたくましく、そして美しかった。
“成功”よりも、“情熱”を選ぶ人生がある。
今のあなたが本当に生きたい人生は、どちらだろうか?
次回は「余命3ヶ月と向き合った女性」の実話をお届けします。