オウジを乗せたイエローキャブが、

 

タイヤから煙を上げるほどにハイウェイをブッ飛ばしていた。

 

 

 

「いやっほ~~~~~ぅ」

 

 

 

飛ばし屋のドライバーは、それ系の映画の中に入り込んだように

 

ここぞとアクセルを踏み込む。

 

 

 

 

助手席の背もたれに身を乗り出して

 

フロンド硝子を覗きこむオウジの背後で

 

遠くマンハッタンのビル街は、まだ闇の中に眠っている。

 

 

 

前方に見えてきたのは管制塔だ。JFK空港は近い。

 

 

 

ユナイテッド航空の国際線ゲートに、キャキャキャッとタイヤ音を鳴らし

 

イエローキャブが停車した。

 

 

 

オウジはジェシーから受け取ったまま

 

その手に握りしめていたチップの札束を

 

無言でドライバーに手渡すと、ドアを開けて飛び出した。

 

 

 

 

「お、おいおいッ待てよ、兄ちゃん

こんなはした金で済むと思ってんのか!

 

随分飛ばしてやったんだぜぇーー

あと40ドル足りねえよッ!!」

 

 

 

 

怒鳴るドライバーに

 

走り出したオウジは、振り向きもせず答える。

 

 

 

 

 

「オレを乗せた1番街の13丁目に

居酒屋SHOCHANて店があるからよ、

 

残りはショウゴってオカマに払わせな!」

 

 

 

「はぁ? 何言ってやがんだ

オイっ 待てこの野郎ッッ!」

 

 

 

 

ドライバーがシートベルトを外し、車の外に出てきた時には

 

オウジの姿は人込みの中に見えなくなっている。

 

 

 

 

「乗り逃げ!! 乗り逃げだっ

チクショウ 覚えてやがれあのガキッ!」


 

 

 

などと叫ぶその声は、12月の朝の中に霧散する。

 

 

 

 

ロンドン行き・・ ロンドン行き6時半発・・!

 

 

 

そう呪文のように唱えながら、オウジはロビーに入り込み

 

搭乗口や案内標識のあっちに、こっちに目を凝らす。

 

 

 

明け方のJFK空港は、昼間ほどの人混みではないにしろ

 

旅立つ人々がそれぞれに大きなスーツケースを転がしていた。

 

 

眠そうに歩く観光客やビジネスマンをよけながら、

 

オウジは闇雲に走り回る。

 

 

 

 

ちくしょう、どこだ?

 

ロンドン行き・・ 6時半出発・・!

 

 

 

 

柱に設置されている簡素な丸時計の針は、5時26分。

 

国際線の乗客としてはもう搭乗ゲートに入っていてもおかしくはない。

 

 

 

 

言ってやるんだ、アンタなんかオレの人生になんも必要ねーよって。

 

ロンドン行って、あのジュードとかってド気障な

 

エロキス大魔王とヨロシクやれよって。

 

 

クソっ、どこに居んだよカイ・・!

 

 

 

 

 

と、荷物預り所の列の中にごちゃっと固まる集団が見えた。

 

 

髪の色やら服の色やらが極彩色の、やたらハデな一行だ。

 

ちょっと小太りなオトコと、その隣に立つスラリとした長身。

 

 

 

あ、あの美術室の石膏みたいな端正なツラ、

 

エロキス大魔王じゃねえか?!

 

 

その手前には、見慣れたグレーのツイードコート。

 

アップにして束ねた栗色の髪に一筋のシルバーメッシュが入ってる!

 

 

 

 

居た・・!   居た!!!

 

オウジの心臓が、はち切れそうに飛び跳ねた。

 

 

 

 

「カ・・  」

 

 

 

 

が、名を呼ぼうとして喉が詰まった。

 

同時に足もロックが掛かる。

 

 

 

 

 

何だ? 1歩も前に進めない。

 

 

 

 

 

集団のリーダーらしき小太りのオトコ、エロキス大魔王・ジュード、

 

そしてカイ。

 

周りを囲む色とりどりのカンパニーの面々。

 

 

 

彼等から醸し出される独特のオーラが

 

オウジを跳ね返している。

 

何か空気が異様、異質、別の世界に人間達なのだ。

 

 

 

 

何だってんだ?

 

 

奴らがロンドンやNYで絶大な人気を誇る成功者だから?

 

 

オレが、ただの路上ミュージシャンだからか?

 

 

 

背を向けて立つカイの向こうにいるジュードが

 

この世の愛おしさを全部集めたようなまなざしを

 

カイに送っていた。

 

 

 

 

 

ああ。

 

 

 

 

そうかコレだ、この目だ。 

 

 

 

カイやウィルと同じ。

 

 

自分のすべてを受け入れた者だけが持つ

 

覚悟と責任の確固たる目なんだ。

 

 

 

 

『 わかるさ、オウジ。

ボクの恋人も 男なんだよ。』

 

 

 

 

 

ついさっき、そう告白して来たウィルの

 

深く澄んだ眼差しが浮かんでは、さらにオウジを脅かした。

 

 

 

 

何処の誰かのモノではない、

 

ただ1人の自分に、彼らはたどり着いているのだ。

 

 

世界の道理が何だろうと

 

すべての人類が敵に回ろうと、

 

決してぶれない自分だけの真実に。

 

 

 

 

胸に鈍く刺さったままの氷が溶けてゆくようだ。

 

 

オウジの身体からは体温が奪われ

 

底の見えない闇に向かって

 

下へ、下へと墜ちてゆく。

 

 

 

 

 

ああ、動けない。

 

 

 

 

 

 

そうか、オレは怖いのか。

 

 

 

 

 

だって、オレはゲイじゃない。

 

エロキス大魔王とか、ショウゴとか、

 

あんなフザけたオカマとは違う。

 

 

アイツ等、ただの変態だろ?バカだろ?

 

オレは違う、そっちじゃない。

 

そっちじゃない・・!

 

 

 

 

じゃあなんでここに来たんだ?

 

カイに何を言おうって言うんだ?

 

 

 

 

オウジの脳裏で、ウィルがふたたび問いかける。

 

 

 

 

『オウジ、キミはカイが好きなんだよね?!

愛してるだろ?』

 

 

 

 

愛してる? カイを・・?

 

 

 

 

『友達って意味じゃないよ、恋のLOVEだよ?』

 

 

『オウジが止めなければ、カイはロンドンに行くよ。

キミ達の関係性は失われてしまうんだ、永遠に!』

 

 

 

 

 

オレは・・ ゲイなのか?

 

 

 

 

自分が知らない自分になって行く。

 

得体のしれない何者かになってゆく。

 

 

 

 

恐れがオウジを支配しようとして

 

じわじわと全ての細胞に広がった。

 

 

 

 

 

 

その時、ジュードが何か囁きながら

 

目の前に居るカイを抱擁した。

 

 

言葉が聞こえなくとも、

 

何かを懇願するかのように

 

ありったけの愛を彼に差し出し流し込み、

 

 

それはカイの許容量を超えて

 

世界に溢れ出ていた。

 

 

 

彼ら2人を包み込むジュードの愛のオーラがどんどん色濃く強くなる。

 

そしてオウジを圧し潰す程に、広がり押し寄せた。

 

もはや誰もが入れなくなるように。

 

 

 

 

 

 

「カイっっ!!!!」

 

 

 

 

自分でも驚くほど大きな声で、オウジは叫んだ。

 

 

辺りを見回すカイ。 が、こちらには気づかない。

 

 

 

オウジの居る方を向いているジュードだけが、

 

立ちすくんだまま叫ぶオウジを見つけた。

 

 

 

 

「カイっっ!!!」

 

 

 

 

もう一度呼ばれて、カイはやっと声の方向に振り向いた。

 

 

 

その時、オウジは飛び出した。

 

何かを突き破るように。

 

 

黒髪の少年がカイをめがけて走って来る。

 

 

 

 

「   オウジ君・・ ?」

 

 

 

 

 

ぽかんと開いた口が次に何かを発する前に、

 

駆け寄って来たオウジが

 

カイの腕をグイと掴んだ。

 

 

 

 

「行くなっっ!!!」

 

 

 

 

カイの周りに居たやたらカラフルな御一行様たちが

 

いっせいにオウジの方を振り向く。

 

 

 

 

「ロンドンなんか行くな!!」

 


 

 

「・・・・・」

 

 

 

 

辺りがシ~~~ンと静まった。

 

時が時間を失くした。

 

 

 

 

 

 

カイの目がオレを見てる。

 

オレだけを。

 

 

 

 

オレは文句を言いに来たんだ、一言言うだけだったんだ。

 

 

なのに。 

 

行くなって言ってる。

 

 

 

 

自分にいったい何が起きてるのか分からずに、

 

思わずオウジはキュッと口を結んだ。

 

 

封じられて行き場を失った言葉たちが、

 

何かに変わり、込みあげて

 

 

それは、オウジの瞳を潤ませた。


 

 

 

 

「・・・お、オレはアンタとは違う、

 

ショウゴとも、

そこにいるエロキス大魔王とも・・!」

 

 

 

 

カイの腕を掴むオウジの手が、小さく震えた。

 

 

 

 

「オレは好きなのはオンナだし、男と同じベッドで寝ても勃たねーし

う、後ろからカマ野郎に抱き着かれても悲鳴上げて逃げ出すしっ

 

と、と、とにかくオレは

男なんか好きんなったことはねーんだ、一度もねーんだ!

 

でも・・ でもアンタは、

 

アンタだけは・・」

 

 

 

 

声も震えた。 喉が詰まって何度も諦めそうになった。

 

 

 

 

だから目を瞑った。

 

勇気というものがあるのなら

 

ソレをオウジはふり絞った。

 

 

 

今この胸の中に在るこれだけ、渡そうと。

 

 

 

 

 

「・・オレはアンタのためにしか歌えない

 

アンタが居なくなったら

オレはまた歌を失う

 

 

命を失う・・」

 

 

 

 

「オウジ君・・」

 

 

 

 

「行くなよ・・っ」

 

 

 

 

 

 

ああ、文句を言いに来ただけなのに。

 

 

 

オレは何を言ったんだ。ダサすぎる。

 

 

 

 

 

カイの腕から手を放そうとするオウジの手を

 

今度はカイがそっと、掴んだ。

 

 

隣でジュードが、息をのむ。

 

 

 

 

 

「オウジ君、

ボクのこと好きだよね?」

 

 

 

「・・・・知るか  バカ。 」

 

 

 

 

カイの頬から微笑みが漏れた。

 

 

 

 

「ボクとキスしたい?」

 

 

「してーよ、バカ」

 

 

「じゃセックスは?」

 

 

「してーよバカ」

 

 

 

あああ 何を言ってんだオレは・・・。

 

 

 

「じゃあしようよ」

 

 

 

 

ふ、とオウジがカイを見上げた。

 

 

 

 

 

いつものカイの目がある。

 

 

セブンスストリートの部屋に居る時と同じ

 

ナンの飾り気もない、いつもの

 

ただオレを好きなカイが居る。

 

 

 

 

 

 

「アンタ・・   

オレとヤりてぇの・・?」

 

 

「ヤりたいよ? 知ってたよね?」

 

 

「だってロンドン・・」

 

 

「ロンドン?行かないよ? 

なんでそう思ったんだい?」

 

 

「 ・・ え?  !っ ?? 」

 

 

 

 

オウジの思考がそのまま止まった。

 

 

30秒、真っ白なままだった頭の奥から

 

やっと疑問が湧いてくる。

 

 

 

 

「・・LLから飛行機のチケット贈られたって・・

???

 

ショウゴがぎゃあぎゃあ泣いて・・ 

 

 えっ・・? えっ・・???」

 

 

 

 

「うん、そうだよ。 

LLからカンパニーにスカウトされたんだ。

 

昨日メッセ―ジ付きの花束と航空券を受け取ったんだよ。

 

だからちゃんと会ってお断りしようと思って

見送りに来たんだ」

 

 

 

「・・・  え   っ ??????? 」

 

 

 

 

飛び交うたくさんのハテナマークを気合で

 

オウジは押しのける。

 

 

 

 

「 い・・行かねぇの・・?」

 

 

 

「うん」

 

 

 

 

「セブンスストリートの

・・あの部屋に 帰るの・・?」

 

 

 

「そうだよ」

 

 

 

「 ・・だってショウゴが泣きながら・・!」

 

 

 

「ショウゴさんにはちゃんと話したよ?

ジュードやLLを見送って来るって。」

 

 

 

 

と聞いた途端に、べ――っと舌を出して笑う

 

ショウゴとローズの大女優コンビが

 

オウジの脳裏に浮かんだ。

 

 

あんの野郎ぅうううううううううううううう!!!!!!

 

 

 

その場から走り出そうとするオウジの腰を、

 

ぐいと、カイが引き寄せた。

 

 

 

 

「するんじゃないの? キス?」

 

「えっ・・!!!」

 

 

 

 

オウジの耳までが、イッキに赤く染まった。

 

心臓が馬鹿みたいに弾んで

 

血液が身体中で暴れてる。 

 

 

 

 

「いや、あの・・っ

 

そそ、そういうワケでは・・」

 

 

 

 

カイの日本人にしては少し茶色がかった瞳が

 

更に柔らかな光を灯し、オウジを見つめた。

 

 

 

 

「オウジ君」

 

 

「えええ、な、何ですかっ・・」

 

 

 

 

カイの隣にナイトのごとく寄り添っていたジュードは、

 

ついに瞼を閉じた。

 

 

そして次の言葉が出てくる前にくるりと背を向け

 

搭乗口に向かって歩き出した。

 

 

 

カイを包んでいたジュードの愛のオーラが

 

次第に色を失ってゆく。

 

 

色とりどりの軍団も、ひとり、またひとりと

 

ジュードに続き歩き出した。

 

 

最後には気のよさそうな笑みを浮かべたLLが

 

ペロリと舌を出し、その場を締めくくる道化師の様にお辞儀をすると、

 

軽やかにゲートへと消えて行った。

 

 

 

 

 

オウジの髪をカイの指先が撫でる。

 

 

 

 

「オウジ君がノンケでもバイでもどうでもいいよ。

 

ドコに属してるかなんて、いいんだ、どうでも。

 

オウジ君とボクがしたいこと

すればいいんじゃない?」

 

 

 

 

 

ああ、  捕まった。

 

 

 

 

 

 

世界中の愛をダダ洩れさせた

 

カイのこの目を、何度オレは見ないことにしてただろう。

 

 

ずっとずっと、出逢ったその日から

 

コイツはこんな目でオレを見てたんだ。

 

 

そんで、ずっと言ってたんだ、愛してるって。

 

 

 

オレだって、答えてた。

 

 

昨日、舞台の上で

 

いや、もうずっと前からストリートの路上で

 

オレとアンタは

 

音と色でセックスしてたよな?

 

 

 

 


 

 

思考に行きつくまでの、

 

たぶん肉食獣とかそういうノリで

 

オウジはカイの唇に喰らいついた。

 

 

ガツリと、オウジの歯がカイの歯に当たる。

 

 

 

 

「痛てっ・・」

 

「ああああっ・・!!!」

 

 

 

 

ななな、何やってんだオレ!

 

キスを失敗するなんてありえねーー、ありえねえよ!!!!!

 

 

あわあわしているオウジの頬をカイの手が、そっと包み込む。

 

 

 

 

「ヘタクソだなぁ・・。

 

こうするんだよ、オウジ君」

 

 

 

 

カイのやわらかな唇が、オウジの唇を優しくついばんだ。

 

うっとりと小さな波がオウジの身体に流れ込む。

 

 

一瞬だ。

 

オウジは全身の感覚すべてをカイに奪われてしまった。

 

 

 

そのまま長いキスをした。

 

甘いキス。 

 

 

 

 

恋する人とする、

 

オウジにとって初めてのキスだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

---------------------------------To be continued!

 

 

※この物語は1987年のニューヨークを舞台にしたフィクションです。

 

 

 

 

このお話の第1話はこちら↓↓

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