【書名】未来ビジネス図解 新しいDX戦略
【著者】内山悟志
【発行日】2021年7月1日
【出版社等】発行:エムディエヌコーポレーション
【学んだ所】
・現代社会は、VUCA(ブーカ)の時代と呼ばれている。⇒VUCAは、Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の4つの特性を表しており、社会や経済を取り巻く環境が複雑性を増し、将来の予測が困難な状態を指している。⇒デジタル化は、このVUCAの度合いを増長させ、変化のスピードに拍車をかけており、社会システムや産業構造の急速な変化に追従できずに取り残される恐れが、どの業界にも横たわっている。
・組織カルチャーや意識の変容は、DXの推進においては技術そのものよりも重要であるものの、難易度が高く、多くの日本企業にとってネックとなっている。⇒組織や制度を変えたり、技術を導入したりすることは、その気になればすぐにでも実行できる。しかし、全社員の意識や行動様式を変えたり、組織カルチャーを変容させ、それを根付かれたりするには、長い時間と大きな労力を要する。⇒また、経営者やさまざまな現場のスタッフを含む企業に属するすべての人々の価値観に大きな変容が求められることでもある。
・DXがうまく進まない大きな要因の1つは、組織カルチャーの根底にある「変化に対する人の抵抗」⇒変化に対する抵抗は、現状肯定と将来不安から形成されている。⇒従業員一人ひとりの心の中にある現状肯定や将来不安を打破することができなければ、いかに経営者が旗を振り、DX推進者が奮闘しても、会社全体を突き動かすことはできない。
・過去に下した決定や経験した出来事によって、その後の決定が方向づけられてしまうことを、社会科学や経済学では「経路依存症」と呼ぶ。=過去の現象が、現在でも物事を想定していると無意識のうちに理解しようとしたり、過去の現象がもはや現在の状況や制度を適合しないとわかっているにもかかわらず行動を変えられなかったりする状態を表している。⇒多くの企業で見られるDX推進の停滞の原因の多くは、まさに経路依存症の罠にはまっていることによるものと考えられる。
・デジタルは今後「手段」から「前提」に変わり、DXの本質は「デジタルで企業に変革する」のではなく、「デジタルに適合した企業に丸ごと生まれ変わらせる」ことになる。=それは、働き方は社内の業務プロセス、意思決定や組織運営の方法、顧客との取引や接点、ビジネスモデルなどあらゆる枠組みが、デジタルを前提として組み立てられている企業になることを意味する。⇒そして、その姿を獲得し、維持していくためには、デジタルを適合した組織カルチャーを手に入れることが求められる。=その組織カルチャーがDX推進の土台となる。
・組織カルチャーとは、企業理念や価値観・社風といった概念のことではない。具体的な仕事のやり方のことである。⇒その組織で観察される特有の行動パターンであり、行動を規定している組織規範を反映しているもの=仕事の作法とも言える。⇒すなわち、デジタル時代の組織カルチャーとは、デジタルを前提とした人々の行動パターンと、それに規定する組織規範を意味する。
・単に組織を改編したり、制度を作ったり、権限を付与するために社内規定を変更したりするといった表面上の社内環境の整備だけで、組織カルチャーを変えることはできない。⇒経営者から現場スタッフ一人ひとりに至るまで、すべての人が変革の必要性を理解し、しっかりと腹落ちするまで議論を深めることで、「人の変化に対する抵抗」を取り除いていかなければ、組織カルチャーを変革することはできない。
・「自社の常識が他社では非常識」といわれるように、会社での日常の何気ない営みに組織カルチャーは映し出される。そしてこれが旧来型の組織カルチャーであると、DXの推進が阻害されかねない。⇒自社では当たり前のように行われていることの中にも、旧来型の組織カルチャーに縛られて、変革の推進を妨げている要因があることに注意しなければならない。⇒デジタルに適合する組織カルチャーを手に入れるには、DXを促進させる制度を新規に採用することと、阻害する既存社内制度を緩和することの両面からの変革が求められる。
・日本企業の特徴の1つに同質性の高さがある。⇒基本的に新卒一括採用で入社した正社員が中心メンバーであり、役員クラスまで昇進する人のほぼすべてが生え抜きの社員、しかも50歳以上の日本人男性という企業がほとんど。=中核を担う人材のプロファイルがあまりにも似通っており、ダイバーシティが欠如していることは、デジタル時代においては欠点として捉えられる。⇒同質性は、大量生産時代の事業モデルには非常に適合していた。⇒しかし、不確実性と変化の著しいビジネス環境においては、間違いを犯しやすく、またそれに気付きにくく、さらに修正が困難となる傾向が強まる。
・今後、組織はトライブ化(何らかの共通の興味や目的を持ち、互いにコミュニケーションの手段があることを緩やかにつながっている集団)していくと予想される。⇒一般社会や消費者市場では、デジタル化の進展に呼応してすでにトライブ化が始まっている。⇒これまでは相互につながりを持たなかった人々が、インターネットやSNSなどを通じて自由につながり始めており、そのつながりは大きな力を持ち始めている。⇒このようなトライブ化の流れは、企業組織にも波及しつつある。
・これまでの組織は、基本的にピラミッド型の階層構造で成り立っており、情報の流れは上位下達、意思決定はトップダウン型、上位と下位の情報格差は大きい、ほかの組織は見えない、といった特徴を持っていた。=成熟した事業を円滑かつ安定的に運営するには、この構造が向いていたといえる。⇒一方、トライブ化が進行した企業組織は、所属するメンバーが固定的でない、情報の流れや指揮命令系統がいわゆる上意下達ではなく対等で縦横無尽である、部署や会社という枠を超えた協調や交流が実現されている、といった特徴を持つ。⇒そうした組織で遂行される業務(主に知的業務)は、社内外を問わずそれぞれの得意領域を持ったメンバーによって組まれたチームでプロジェクト型で遂行され、成果が分配されるようになる。⇒その結果として企業と個人の関係は、「雇用と就労」から「場の提供と貢献」に変わる。=つまり会社は、目的やビジョンを共有した個人が、集って成果を出すための環境を提供し、集まった個人は、その目的やビジョンのために仕事をすることで貢献し、成果に見合った報酬を得る、ということ。
・組織カルチャーの6つの要件:デジタルに適合した企業に丸ごと生まれ変わらせることがDXの本質であるとすれば、その姿を獲得し、維持していくためには、その土台として組織カルチャーをデジタルに適合したものに変容させていかなければならない。=旧来型の組織カルチャーから脱却し、制度や権限を変革しながら新たな価値観を企業全体に浸透させていくことが求められる。⇒デジタル時代の組織カルチャーとは、デジタルを前提とした人々の行動パターンとそれを規定する組織規範であり、その要件は、6点に集約される。
- DXの本質と変革の必要性が理解されている。:経営者や現場スタッフは、ITやデジタル技術の専門家や担当者ではないので、実務上の詳細な知識が必要なわけではない。⇒しかし、デジタル化がもたらす本質的な価値と無限に広がる可能性については、誰もが理解していなければならない。⇒まずは、なぜDXが必要なのか、自社がDXによって目指すべき先はどこなのかを、組織の階層を問わず全員が腹落ちするまで議論し、思いを共有することが求められる。⇒デジタルが浸透した世界では、DX推進部門やITの担当者だけでなく、誰もがデジタルを前提にビジネスや業務のあり方を考えなければならないため、組織全体のデジタル感度を向上させることが重要。⇒デジタルを駆使したビジネスを推進している先進的な企業や、デジタルによって業務や組織運営を変革している企業から学ぶことが重要。⇒とくにこれからは、同業他社だけでなく異業種や新興企業の動きにも注目することが求められる。
- 創造的な活動が自由に行えて、それが支持される。:誰もがテクノロジーの価値と可能性を理解したうえで、デジタル技術の活用を前提にビジネスや業務のあり方を考え、新たなビジネスを創出したり、業務を抜本的に変革したりしていくためには、日常の業務に埋没することなく、新たな価値の創出のために何らかの行動を起こすことが必要。⇒そして、それは誰かからの指示や命令によってではなく、自発的に行われることが望ましい。⇒このような創造的な活動を自由に行うことができ、経営者や周囲の人たちからも支持され、協力を得ることができ、そしてそのような活動の成果が称賛されるような環境を持つことが求められる。⇒また、それを実現するためには、自分で時間をコントロールする権限、予算を執行できる権限、組織や人的リソースを動かす権限などが、一定の範囲内で委譲されている必要がある。⇒GoogleやAmazonのようなデジタルネイティブ企業は、まさにこれを実践している。
- すべての意思決定がファクトに基づいて行われる。:意思決定のあり方=誰が、どのような情報をもとに、どのようなプロセスを経て意思決定をするかは、組織カルチャーを左右する重要な要素の1つ。⇒日々テクノロジーを進化し、ビジネスの状況が目まぐるしく変わる時代において、組織における意思決定にはこれまでにないほどスピードが求められている。⇒このような状況下で、迅速かつ適正な判断を下すためには、客観的なデータに基づく議論が重要となる。⇒そのようなマネジメントはデータドリブン経営などと呼ばれているが、これを実現するためには、すべてのファクト(データ)が全社員から同一かつ透明に見えなければならない。⇒業績や成果を示す売上やコストなどの過去の定量的データだけでなく、それらの先行指標となるあらゆる業務活動の進歩や経過、今後を左右する市場や観客の状況を含む外部環境に関する情報などがリアルタイムに収集され、可視化されていることが求められる。⇒どの階層でも現在の状況(最新の詳細データ)や先行指標を参照でき、即時に意思決定がなされて、即座に実行されなければならない。
- 人材の多様性と組織のトライブ化に対応できている。:自社で持つべきコアの能力と外部の力を借りるべき能力を峻別し、自前主義と脱自前主義のメリハリを付けた組織運営をしていかなければならない。⇒これまで国内の大企業は、自社で生産設備や販売網を持つなど、自前で強みを構築してきた。他社と連携を組む場合でも、系列などにより強固な垂直統合を指向してきたといえる。⇒しかし、外部と協調的なトライブ型組織を運営していくには、まず捨てるものと残すものを明確に示すことが求められる。そして、そのためには自社のコアとなる領域をゼロベースで見つめ直す必要がある。その際に、結果として強みとなった能力が、本質的なコアであるかどうか問い直すことが重要。
- 個人の組織への貢献が可視化され、正当な報奨が与えられる。:人材が多様化し、組織がトライブ化するに従って、従業員の在籍、所属組織、場所などがより流動的なものとなる。それにより、組織に対する帰属意識や、評価と報酬に対する考え方にも変化が生じることになる。⇒企業と個人は「雇用と就労者」という関係ではなく、ビジョンと目的を共有し、約束事に基づいた緩やかな共同体のような関係になっていく。⇒企業は、個人に対して成長や挑戦の場と機会を提供し、個人は、顧客や組織内の他者に対して何らかの貢献を果たすことで報酬を得ることとなる。=報酬は就労していた時間に対して支払われるものではなく、貢献の度合いで評価されることとなる。
- リスクが許容され、失敗から学習できる。:リスクを取って新しいことにチャレンジするためには、失敗に重きを置く文化も重要であり、リスクの捉え方も組織カルチャーの重要な要素。⇒従来の企業では、ほとんどのプロジェクトは成功させなければならないと考え、そのために綿密な計画を立て、実現性や効果について事前に十分に審議する。そのため、往々にして不確実性が高い領域にはチャレンジせず、リスクが大きそうなプロジェクトは実施しないという判断が下される。=結果として、経験豊富な領域に集中投資する傾向が強まる。⇒しかし、不確実性の高いビジネス環境で、新しい取り組みにチャレンジするには、行動するリスクと行動しないリスクとを比較し、ポートフォリオで管理しなければならない。⇒ポートフォリオ管理とは、1つひとつの案件を個別に評価するのではなく、その集合でのバランスを考慮に入れて検討し、合理的な取捨選択や優先順位を導き出して、最適な意思決定を図るマネジメント手法のこと。⇒成功するプロジェクトは全体の2割、失敗するものは8割などと想定して、未知の領域に分散投資することもある。失敗したら、その失敗から早く立ち直り、それをもとに学習すれば良い。
・組織カルチャーが「仕事のやり方」であるとするならば、それを変えるためには「仕事のやり方」を支える仕組みを変えることが有効なアプローチとなるはず。⇒企業の仕組みを、デジタルを前提としたものに抜本的に変更するには、意識・組織・意思決定・人材に関する4つの施策が考えられる。
・意識に関する施策:デジタルな組織カルチャーを手に入れるためには、まず経営者を含む全社員の意識を変革し、デジタル技術に対する感度を高めなければならない。⇒そのためには、一人ひとりが生活や仕事の中で自己啓発的にデジタル技術に向き合うことだけでなく、デジタルの本質的な価値と無限に広がる可能性を理解するための機会や場を提供する仕掛けづくりも必要となる。⇒一般的に、人は日常的に目にし、触れているものには順応する。たとえば、ほとんどの人がICカードにお金をチャージして、駅の改札を当たり前のように通過している。⇒テクノロジーは、環境といえるほど浸透していれば、誰もが意識することなく活用し、恩恵を受けることができる。⇒つまり、テクノロジーを日常と感じられるような環境を企業内に作ることが、全社員のデジタル感度を高める早道となる。
・組織に関する施策:既存企業が新規事業を生み出し、育てていくためには、既存の組織と新規の組織の距離感をうまくコントロールしながら、最終的には融合させていくという、組織の段階的な進化が必要となる。⇒既存企業が新規事業を成長させるためには、「忘却」、「借用」、「学習」の3つの課題を克服しなければならない。⇒既存企業が新規事業を生み出し、育て、両立を図っていくには、少なくとも「忘却」「借用」「学習」の順でその壁を超えていかなければならず、場合によってはそのサイクルを何度かくり返す必要がある。⇒最終的に目指すべきは、既存事業を営む組織も、新規組織から新たな世界での成功の法則を学び取り、会社全体として継続的変化ができる企業の姿。
- 忘却:既存の組織はこれまでの成功体験や慣習に縛られがちだが、新規事業を興すうえでそれが弊害となることもある。⇒新規の組織は、既存の事業定義や戦略だけでなく、過去の成功体験や勝因もいったん忘れることが重要。
- 借用:俊敏で新しい組織文化を最初から具備するベンチャー企業に対して、既存企業の新規事業が唯一優位といえる点は、既存組織に蓄積された経営資源やノウハウを借りることができる点。⇒ただし、忘却と借用を両立させるには、絶妙な距離感が必要となる。
- 学習:新規事業において成功をつかむためには、事業成果の予測精度を高めることが重要となる。⇒実験的自己学習をくり返し、予測精度を高め、新しい世界での成功の法則を導き出さなければならない。
・意思決定に関する施策:企業の意思決定には大きく2つのタイプがある。⇒1つは事業事業の新規施策への取り組みや投資を伴う大きな意思決定。もう1つは日々の事業活動の現場で行われいる小さな意思決定。⇒これらに対する判断はこれまで会議や管理者の頭の中で下されていたが、今後はデータとデジタル技術を駆使した方法に転換することが求められる。⇒組織のトライブ化が進むと、従来のピラミッド型の組織階層や指揮命令系統が崩れ、意思決定の手法やプロセスにも高度化が要求される。
- 事業戦略、新規投資、業務変革といった大きな判断を要し、リスクを伴うような意思決定については、よりオープンで民主的な意思決定プロセスを取り入れていくべきとされる。⇒誰もが重要案件を起案することができ、その実行の可否や続行・中断の判断にも皆が参加できる。そして、個々の案件の企業における価値や重要性は株価や市況のように変動し、戦略や戦術はウィキペディアの記述を書き換えるように、その時点で最善と思われるものに軌道修正される。
- 現場における日常の小さな意思決定には、よりスピードが求められる。⇒これまでのように情報を収集して上位者に報告し判断を仰ぐというプロセスでは間に合わず、現場のスタッフが自律的に判断を下すようにしなければならない。
・人材に関する施策:従業員の主体性を大切にし、一人ひとりの能力を最大限に発揮できるようにするためには、評価や報酬、働き方、職場環境などに気を配ることが求められる。⇒従来型の企業では、従業員は管理すべきものだと考えがち。たとえば、在宅勤務などを認めたら「ちゃんと仕事をしているかどうか心配だ」、「目の前にいないとすぐに指示できない」などと管理職が考えるのは、従業員が創造的な仕事を主体的に行う状況とは正反対の状況を想定しているからにほかならない。⇒デジタル時代の組織カルチャーを持つ企業では、会社の描くビジョンや目指すべきゴールを明確に示し、それを全社員にしっかりと浸透させることに力を注ぐ。⇒個人は、そのビジョンの実現やゴールへの到達のために、仕事をすることで貢献する。⇒したがって、仕事の評価や報酬を決定する基準は、労働時間ではなくアウトプット、すなわち貢献の度合いである。⇒そして、組織がトライブ化しているため、それは社内の従業員だけでなく、社外のパートナーに対しても同様である。⇒したがって、企業は、企業全体、部門などの組織、そして個人のそれぞれの目標を明確化し、その進捗や達成度合いが誰からも見えるような仕組みを構築しなければならない。