【書名】一冊で哲学の名著を読む
【著者】荒木清
【発行日】2004年5月15日
【出版社等】発行:中経出版
【学んだ所】
「経済学・哲学草稿」マルクス
・マルクスは、20世紀に最も影響をあたえた思想家である。それも学問の分野においてだけでなく、人びとの生活に大きな影響をあたえた。近代生活の歴史、社会学、哲学さらに芸術に衝撃をあたえ、社会主義社会の成立と崩壊を経験している。しかし、マルクスの思想の原点は、人間疎外からの解放にあった。
・(概要)マルクスはこの著書で、国民経済学者アダム・スミス、セイ、シュルツなどの叙述を紹介し、国民経済学者の目をもって、マニュファクチャ以降の労賃・資本利潤・地代などをのべ、そこにはかれらは労働を単なる営利活動としてしかみていないことを指摘する。同時に、「人間疎外」という概念を論述する。
・マルクスの思想形成
- マルクスの思想を語るとき、三人の哲学者・経済学者を抜きにすることはできない。=ヘーゲル、フォイエルバッハ、アダム・スミス
- ヘーゲルは、「精神」の実在を一つの普遍的な霊魂=絶対知とした。⇒そして、一人の人間の個人的精神は、普遍的「精神」から外化あるいは疎外されている。⇒しかし、個人の精神は、自己の統一を徐々に認識しながら、大きな自由=絶対精神に向かって発展し、また、発展しなければならない、と説く。⇒この自己認識の過程が「弁証法」だった。
- 弁証法とは、まず最初の概念と肯定的に「定立」する。⇒それに対して、反対の概念によって反駁=反定立する。⇒しかしこの対立は、二つの立場のうちにある理性的なものを保存・結合して、つまり「綜合」のうちで、新しい基盤を定立するという、正・反・合という過程をたどりながら、動的に進展するという方法。
- 弁証法を受け継ぎながらも、ヘーゲルの「絶対知」や「精神」を退けたのが、フォイエルバッハ。⇒フォイエルバッハは「精神」の代わりに、人間や人間の意識を根底におく。⇒そして、労働・生産・売買・貨幣経済に結びついて発展する社会的関係こそが、人間の歴史を規定する力だ、と唯物論的に考えるようになる。
- 「生産力」の複合関係が、社会の経済構造をつくり上げている、というフォイエルバッハの思想を、批判的に受け継いでいったのがマルクス。⇒マルクスはさらに、国民経済学者アダム・スミスの「国富論」のマニュファクチャ当時のデータと分析を引き継ぎ、紹介したあと、スミスの理論を論駁してゆく。⇒マルクスの視点には、アダム・スミス理論の批判が基盤にある。
・労賃・資本の利潤・地代について
労賃
- 「労賃は、資本家と労働者との敵対的な闘争を通じて決定される」という「国富論」の有名な叙述の引用で、第一草稿ははじまる。⇒つづけて「(その闘争で)資本家が勝つ必然性(はどこにあるか)」という問いを立てる。⇒その答えとして、「資本家は、労働者が資本家なしで生活できるよりも長時間、労働者なしで生活できる。資本家たちのあいだの団結は慣習となっており、効果のあるものだが、労働者たちの団結は禁止されている」とある。このことは「労賃」への致命的影響をあたえる。
- (労賃についてのアダム・スミスの考え)労賃は、労働期間中の生活を維持できるという最低の線に設定される。⇒いいかえれば、労働者が家族を扶養し、死滅しない動物的生存がギリギリの労賃となる。⇒これに対してマルクスは、国民経済学者(スミスなど)は、労働をただ営利活動としてしかとらえていないと批判する。
資本
- 大資本を相続するひとは、そのことによって、ものを買いとれる力であり、他人の労働に対する、また市場にある生産物にたいする命令権である、というスミスのことばを引用する。=資本は、労働による生産物にたいする支配権であり、購買する権力であるので、資本とは、貯蔵された労働であるといい、「資本の利潤」はどのように算定されるのか、という問題にふれる。
- 資本の利得の最低率は、偶然的な損失を償うに必要な額よりも、つねにいくらか多くなければならない、とし、秘密に保持されている。
地代
- 「地主たちの権利はその起源を略奪に発している」(セイ)、「地主たちは、すべての人間と同じように、種をまいたこともないところで収穫することを好み、そしてその土地の自然的生産物にたいしてさえ地代を要求する」(スミス)と、痛烈なことばを引用する。
(地代についてのアダム・スミスの考え)
- 地代は、独占価格である。借地農が損をしないで可能な限り提供できるのに比例する。
- 地主階級は、収入をえるのに労働も配慮も必要ではなく、収入をひとりでに入手し、そのために何の企図も計画もおこなわない階級である。
- (位置について)地代は、土地の生産物がどのようなものであろうとも、その豊かさによって、変化し、また豊かさがどうであろうと、その位置によって変化する。
- 地代は人口とともに変化する。
- 社会状態のあらゆる改良は、直接にか間接にか地代を高める。
- 借地農(土地を借りて、人出を使って農業を営む)が支払う労賃が少なければ少ないほど、地主は借地農から多くに地代をとりたてることができる。
- あらゆる社会的改良は、大土地所有にとって有利である一方、小土地所有にとっては有害である。⇒こうした改良は小土地所有にますます多くの現金を必要とさせるから。
- 借地農階級はプロレタリアートに転落せざるをえず、大土地所有者の一部は破滅し、必然的に革命へと向かう。
マルクスの結び
- 人間を信ずることを学ぶために、産業も独占という形態において、また競争という形態において、破滅しなければならなかったが、同じように土地所有は、その両方のあり方において必然的没落を体験する。
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