「パンッ!」
なんて無く蚊を仕留めた。
手の平にぺちゃんこになっている蚊を見ながら、ティッシュに手を伸ばそうとした時、突然自責の念に襲われた。
今思えば潰す瞬間、蚊はヘロヘロだった。
自分の部屋は、良くて三畳の想像を絶する狭さであり、窓は申し訳ない程度にあり、普段は閉め切っている。
記憶を辿ると、この蚊はおそらく一週間前から自分の部屋で徘徊していたのだ。
一週間前に自分の部屋で見付け、仕留めようと決起したものの早速見失ってしまい、それ以降、見つけては見失う、を繰り返していた。
ただ不思議な事に、同じ部屋で過ごしているのにも関わらず、この一週間その蚊に刺される事がなかった。
となると、その蚊はこの一週間、糧となるはずの血をずっと吸っていなかったのだ。
その蚊の命の灯火としてはギリギリだったはず。身体が思うように動かず、俺が仕留められやすかったのはそのせいだ。
血を吸うことの喜びも知らぬまま、消えかかりながらも必死に生きようとする蚊の命を、私は無情にも奪ってしまったのだ。
それを悟った私は、後悔と自責の念に苛まれ猛省した。
『一回でも血を吸わせてやれたらよかったのに…』
私が、アルバイト明けで倒れる様に眠った時も、仕事で上手くいかずに落ち込んでいる時も、撮り溜めしていたビデオを観てほくそ笑んでいる時も、姪っ子とゲームで一喜一憂している時も、ずっとその蚊は同じ部屋で一緒にいてくれたのだ。
血も吸えずに意識朦朧としている蚊には、いっその事仕留めてやるのが優しさだ、と言う私の中の言い訳はとっくに過ぎ去り、自分の軽卒な行動と不甲斐なさに悔しささえ覚えていた。
もうこれ以上同じ過ちを繰り返したくない。
貴方の死は決して無駄にはしない。
「いかなる場合でも、一度は血を吸わせる。」
私の償いとして、必死に生きようとしたその蚊に対しての弔いとして、私はそう誓った夏の出来事だった。
しかし、くるぶしカユい。