【炎の意志】





 走れ、走れ。肺が破れても良い、誰よりも速く駆け抜けろ。



 大切な者を取り戻す為、小さな獣はコンクリートに覆われた大地を、火花を散らして駆け抜ける。彼が駆け抜けた場所は、その美しい体毛と同じ橙色の輝きが軌跡を描いて夜の街を色づかせた。



 二つの山を越え、一つの街を抜けてきたが、それでも走り続ける。彼は焦っていた。「これじゃ間に合わない」と。



 あの時、自分が怯えてしまったから。自分より体の大きな相手と対峙して、足が震えて動けなくなってしまった。



 (あの時、恐怖に打ち勝つことが出来ていれば…………)



 もう遅すぎる。そう分かっていながらも、止まってしまった時間を取り戻す様に彼は全力を越えて走り続ける。目尻に涙を溜めつつも、それをこぼすまいと鋭い犬歯を食いしばって耐え忍ぶ。



 そうして走り続けていたが、体力は無限に続いちゃくれない。想いに反して酷使された体は震えて限界を訴え続けてくる。そんな状態であったが、ありったけの意志を焚べて走る。が、一瞬、意識を振り絞るために目を閉じたと同時に、草地に隠れた盛り土に足を取られた。

 受け身も取れないまま顎から草地に放り出される。

 瞬間、これまで必死に抑えていた疲労が猛々しい警報となって鳴り響く。上手く呼吸が出来ず、無我夢中で肺に酸素を取り込もうと情けないくらい舌を伸ばす。それでも、心臓の鼓動はうるさいくらいに鳴り続ける。

 朦朧とする意識の中、視界の端で何かが光る。

 視線だけをそちらにやると、首にかけていたペンダントの紐が千切れて、自分と同じく無造作に転がっていた。さっき転んだ時に千切れてしまったのだろう。咄嗟にペンダントを拾おうとするが、体は言うことを聞かず一歩も動けなかった。少しだけ持ち上げた首がまたしても地面に落とされる。大した高さでもないのにやけに視界が眩んだ。



 (もう十分頑張ったよな)



 遅すぎると分かっていながらここまで走ったんだ。もう十分だろ。こんなボロボロの体で行っても何の役にも立てない。ならばもう頑張っても仕方がないじゃないか。今はゆっくり休もう。


 自分が頑張ったことを認めると、ここで立ち上がらなくて良い理由が沢山湧いてきた。「そうだよなぁ、頑張ったよな」自分を許す理由に抱かれて意識を手放そうとした瞬間、闇夜に浮かぶ雲の隙間から月明かりが彼の鼻先を照らした。



 月光がゆっくりと彼の体を満たしていき、次第にその光輪は大きくなった。







 
 彼は再び立ち上がった。月明かりに照らされた、淡く燃えたぎる様に光ペンダントを咥えて。




 ここで諦めたら一生後悔する。

 何の為にここまで走ってきたんだ。

 あんな想いはもう二度と味わいたくないだろ。






 震える身体を叱咤し、後ろ足を引き摺りながら、それでも前に進む。彼の胸中を様々な想いが駆け巡っていた。抑えきれない感情達が涙となって溢れかえっていた。もう何がなんだか分からないけど、地に伏せっていたくはなかった。じっとしていられない想い達が全身を駆け巡る。











 「貴方は、どうしたいの?」





 抑えきれない感情達を抱えたまま地べたを這いずる中、不意に、そんな言葉がどこからともなく聞こえてきた。前にもこんなことあったけな。








 それは、彼がこのペンダントを託された時のこと。まだ、世界に絶望していた時のこと。




 前の主人に捨てられ、彼は生きる理由を見失っていた。心の傷が癒えぬまま今の主人達に迎え入れられたが、誰にも心を開かず部屋の隅に小さく丸くなって息を潜めていた。そんな彼を、彼女達は力強く外に引っ張り出してくれた。
 
 「世界はそんなに悪くないよ」

 そう言って笑う少女に、彼は次第に心を開いていった。少女の家族達に、返しきれない程の愛を注いでもらった。世界に絶望していた自分に、世界の美しさを教えてくれた。
 そんな彼らに、どうにかして「愛」を、この「恩」を返したかった。








 でも、無力な自分に何が出来るだろうか?






 力の無さで見限られた自分に、いったい何が出来るというのだろうか?






 自分を無力だと決めつけ、自身の無力さに打ちひしがれていたそんな彼に、少女の祖母は優しく問いかけてくれていた。











 「貴方は、どうしたいの?」









 


 少女によく似た慈しむ眼差しで見つめ、彼の白いタテガミを皺くちゃになった細い指で優しく解かしながら彼に問いかけていた。

 自分の中を駆け巡る想いを言葉に出来ず、何も言えずになさげなく泣くことしか出来なかった。

 そんな彼を「焦らなくて良いのよ。ゆっくりと自分の答えを見つければいいのだから」と、少女の祖母は優しく抱き上げた。

 ざわつく想い達が次第に収まっていく感覚に安堵を覚え、祖母の顔を見つめると、彼女はにっこり微笑みペンダントを首にかけてくれた。




 「いつか、貴方の願いの助けになりますように」
















 朦朧とする意識は次第にハッキリと熱を帯び始める。




 (今なら、あの時の問いに答えられそうだ)












 「貴方は、どうしたい?」






 三度、己の願いを問う問いが繰り返される。それを舌で確かめ、犬歯で咀嚼し、心で反芻する。










 (俺は……………………………)














 己の願いに応える時、炎の意志は赤く燃えたぎる。













 月下、一匹の獣が雄叫びを上げる。



 ペンダントの中で淡く輝く炎の意志を、ペンダントごと噛み砕く。瞬間、彼の全身を炎の渦が包み込む。彼の願いを薪に、力強く燃えたぎる。
 月夜の中にもう一つの太陽が現れるかの如く、眩い炎を纏って草原を駆け抜けた。
 大地を踏みしめ、徐々にその速度が加速する。それは千里を瞬く間に駆け抜けるほどだ。あまりの速さに彼は炎を置き去りにした。




 (問題ない)




 彼を温かく包み込んでいた炎を置き去りにしても彼に不安はなかった。躍動する四肢に携えた力強い鉤爪と、百獣の王を超える紅蓮の鬣がそれを証明していた。








 願いは、全て血肉に変えて体現した。
 

 











 
 彼は駆け抜けた。大切な者を守る為に。




















 





 以上「炎の意志」でした。如何だったでしょうか?



 今回は私が好きなポケットモンスターシリーズより、「ガーディ」というポケモンの話を書いてみました。初代から登場する根強い人気のあるポケモンですね〜。



 そんな人気ポケモンであるガーディの願いや進化を描いてみました😁





 ガーディが進化するとウインディというポケモンになり「神速」という馬鹿かっこいい技を覚えるんですよね。これがまた男心をくすぐるのなんの。

 とまぁ、まだまだ小さな種の状態ではありますが、いつかちゃんと物語にしていこうと思います😁






 『創造の種』では、物語となる前の「種」の状態のイメージを書いていきたいと思います。私自身作家としてはまだまだ未熟なため、まずはこの創造の種に水を上げる様に、小さなことからコツコツとやっていきたいと思います!




 霊能者のアトリエというYouTubeで活動しております、よろしければ遊びに来てください!