『忘れ得ぬ“ツアーファイナル”までを記憶の限り綴る』【後編】/ 伊藤美保 | Eins:Vier Official Blog

『忘れ得ぬ“ツアーファイナル”までを記憶の限り綴る』【後編】/ 伊藤美保

蘇るツアーファイナルへの道。BANDやろうぜ編集部、現在フリーランスの編集・ライターである伊藤美保さん激熱レポート第二弾到着!!ありがとうございます!!!!! 

 
『忘れ得ぬ“ツアーファイナル”までを記憶の限り綴る』【後編】

 

 5月12日、渋谷TSUTAYA O-WEST。……と、簡単に会場名を書きたくないほど、ここに辿り着くまで何百、何千のドラマがあったと思う。前売りチケットはじわじわと売れ続け、4日ほど前にソールドアウト。これまでの素晴らしいライブや音源はもちろん、口コミや、想いを寄せたすべての人が招いた結果ではなかっただろうか。万難を排してこの日だけは参加しようと遠方から始発で向かって来た人もいるかもしれない。自分が地方に住んでいて行きたいライブに行けなかった時はまるで祈るように“気持ち”を飛ばしていたものだ。

 天気予報はこの翌日から雨。晴れてはいるものの湿気の多い渋谷円山町には大勢の人の期待が渦巻いていた。GARGOYLE,ValentineD.C.からのお祝いの花や、チケット窓口のThank You Sold Out の貼紙を嬉しそうに写真に収める人々。前売りが買えずに余剰チケットを探していた外国人男性2人組は、無事会場に入れたようだ。

 さすがO-WESTステージのバックドロップはツアーでも使用していたEins:Vierのロゴのものだが、少々小振りに見える。客席フロアは本当に満員。当初2階席は開放しない予定だと聞いていたのだが、あまりに過密なため関係者は2階へ。筆者はいつも邪魔にならない範囲で客席後方で見させてもらうが、ペンとメモを持つほどのスペースの余裕もなく、今回も記憶だけで書かせていただいている。

 暗転し、秒針の音とともにツアー日時・場所がテロップで映し出される。皆で紡いできた時間、そのエンドロールのようにも見え、昂揚と感傷が入り交じる。

 オープニングは「In Your Dream」のMV。誰も屈まなくても後方まで見えるホール仕様で、やはり地方ツアーとは違った雰囲気だ。もちろん今日が初見の人も多数いて、あらためてSEで感嘆の声が漏れる。ここでの照明は燃えるような赤。これまでが幻想的な青だったので、ああ本当にファイナルなんだな、物語の一つの終わりなのかという複雑な気持ちも芽生えた。もう、早く演奏が始まってほしい!

 「Not Saved Yet」が奏でられると、心のもやは晴れてゆき、音のひとつひとつ、歌詞の一語一語に喜びを覚えてしまう。何なのだろう、この多幸感は。コーラス“Im Not Saved♪”部分の皆の振りや、「L.E.S.S.O.N.(この日のセットリストではだいぶ後のほうになるが)の指の動きも楽しい。何も考えずライブを楽しみ尽くしたい。そんな相互の集中力がかけがえのない時間を創っていく。すべてが名曲なので甲乙はつけられないが、ファイナルに至っての「The solitude song」「Just under way」「My only girlfriend」の流れはマニアも泣いた。(個人的にはここに「The Flush」も入れてほしい)

 特に、「今日のために新しく1曲合わせてきました」とHirofumiが紹介して始まった「Just under way」はソリッドなギタープレイに心が震える曲。こういった“蔵出し”をまだまだしてほしいし、なんなら再録アルバムの第2、第3弾だって作ってほしい。再プレスやチャートインも果たした『Searching Red Light』のヒットがリスナーの気持ちを表している。ファイナルだと覚悟してきたのにあれもこれもと欲が出てきてしまうではないか。そんなシュプレヒコールを頭の中で唱えながら、Yoshitsuguの奏でる印象的なアウトロまでを堪能した。細い脚に華奢なシルエット、クールさと華やかさを持ち併せ、ギターの位置からシェイプに至るまでギタリストはこうあってほしいという理想を絵に描いたような男がカミテで躍動する。憧れというより羨望に近い眼差しでこの完璧なギタリストを見つめる。

 楽曲への思い入れは人それぞれだが、「街の灯」で涙腺崩壊する人は予想以上に多い。

 この東京公演で再会した懐かしい人もたくさんいて、中でもメジャーデビュー時のレーベル、メルダックから3人もの元スタッフが来ていたことは胸熱だった。 レコード会社の人も暑苦しいくらいにアインスフィアを愛していた。そしてこの日、「街の灯のイントロが鳴った瞬間、号泣してしまった」という元ディレクターの言葉を聞き、関係者であれファンであれ楽曲への想いは一緒だったのだと再確認した。冬の澄んだ空気に鳴り響く鐘のような演奏、“恋人たち”を優しく描写する歌詞。遠征先の風景や人々との交流も愛おしんでいたメンバーの姿が目に浮かぶ。一方通行ではない、彼らを好きでいることに対する「肯定」がリスナーの気持ちを強く支える。

 この曲も好き、この曲も歌える、と興奮状態が続くと場内の空気が薄くなってくる。

 「Passion」で過熱したフロアで誰かが倒れ、一斉に周りの観客が手を挙げて知らせようとするが助けは来ない。見かねた屈強な男性ファンが倒れた女性を抱え、場外へ避難させた、よかった!と思ってよく見ると助けたのはか細い女性ファンだった。運び出す際にスペースを作ったり水を差し出したり、アインスのファンは皆、優しい。おかげで演奏を止めずに済んだし、直後に室温を下げたハコの配慮も嬉しかった。また、出入り口に分厚い幕が掛かっており、場内が満杯のためその幕の後ろにしか立てない人もいたのだが、ステージが見えるよう頭上に幕を持ち上げていたのも細腕の女性だった。このライブを皆で共有したいという思いが積み重なって素晴らしい空間が出来上がっていたように思う。

 思い入れ、という話に戻ると、筆者がこのツアーで1曲目に聴いた「Words for Mary」は以前よりさらに好きになった。何年か振りに生演奏で最初に聴く曲というだけでもインパクト大だし、聴いた土地の思い出なども加味される。いまセットリストの文字列を見ただけで、リスナー一人一人がそのとき目撃したシーンが蘇ってくるだろう。出来ることなら視点を変えて何度でもこのライブを見たい、という希望はDVD化で叶えてもらえることになった。

 本編ラスト4曲のブロックはまさに集大成。Lunaがピッキングした右手をそのままぐるりと回す「The Prayer」の暴力的セクシー。岡本氏のドライヴするリズムを中心に全員で高め合う「L.E.S.S.O.N.」。Hirofumiが上半身裸のパフォーマンスで宇宙と交信するかのような「In a void space」。Lunaの低音コーラスとHirofumiの“Please In a void spaceという渾身の叫びで本編を締めたとしても誰も文句を言わない。突き放されるもまた恍惚。だが、ここで終わらないのが今のアインスフィアだ。「Dear Song」で視点を“君たちと僕”に戻すこのメリハリ。圧倒的世界観の中のカリスマであることと、手を繋げる距離にあることの両極。わたしたちの心を掴んで離さない。温かい気持ちで本編を見届け、すぐにアンコールを求める声へとつながる。

 

 アンコールでLunaが述べたすべての人々への感謝のMCは、あらためてDVDで堪能できればと思う。堪能したいのでぜひ収録していただきたい。HirofumiYoshitsugu、岡本氏、スタッフ、すべてのファンにいたるまでそれぞれに最大の感謝を伝えた長く熱い言葉。メモを取れる状況でなかったこともあるが、これは記録より記憶にとどめておきたいと聞き入った。ありがとうというメッセージならば、言葉でなくとも十分感じ取っている。この日、入場時に急きょ配られたDVD然り。“特典をあげるからおいで”ではなく、チケットが完売してからの“ほんまありがとう!プレゼント用意したよ”なのだ。その内容は主に「In Your Dream」MVのメイキング映像で、最後に示された言葉は“Thanks for your love....”。この言葉のチョイスや余韻まで含めすべてが愛に満ちている。

 “希望の詩を今から作ろう涙はこらえて”。アンコール2曲目「after」の一節だが、Hirofumiに しか綴れない歌詞にわたしたちはずっと支えられてきたし、まさにこの瞬間も鼓舞されている。照明が明るめの時は、メンバーがファン一人一人の表情を確かめ て頷いているように見えた。“この曲もそんなに好き?おれらも大好き。ありがとうね”とその眼差しが語っているかのようだ。ファンが一緒に口ずさむのはもちろん、時折ドラマー岡本氏が歌いながらプレイしている様にも気持ちが一層温かくなった。

 まだまだ終わってほしくない……と貴重なアンコールの時間を慈しみながら、その楽曲が発表された頃や、個人的にライブで聴いた時のことなどを思い出し脳内で時空トリップも楽しんだ。

 筆者の記憶ではアインスが初めてこの会場でワンマンを行なったの1994年4月30日。アルバム『Risk発売ツアーのファイナルで、当時の会場名はON AIR WESTLunaが先のMCでも言っていたとおり、完売には至らずフロア後方には少々の余裕があった。筆者は今日と同じように客席後方に立っていて、右隣にFOOLS MATE東條氏がいた。本編ラストはLunaのMCに引き続きI feel that she will come」。当時いちばん好きな楽曲だった。“ほら、予想が当たった!”と歓喜のあまり東條氏に耳打ちしたのを憶えている。

 あの日と同じように、同じ会場で「I feel that she will come」の演奏が始まった。

 違うのはここに東條氏がいないということだ。でも、つぶやいてみた。「ほら、I feelだよ!」と。姿は見えなくとも共に聴いているに違いない。東條氏は、アーティストのみならずリスナーや読者の方々とも“あの曲いいですよねぇ”などと語り合うのが大好きだった。今日もきっと皆の笑顔をどこかで見つめている。

 あれから何人かの同士がこの世を去った。だからいま生きて、ここに集い、アインスと空間を共にしていることは“奇跡”だ。Hirofumiは最後「In Your Dream」で、“生きよう!”“共に生きよう!”と叫んでいたような気がする。想いがあふれ、まさに夢の中の出来事だったとすら思える。僕はあなたと死にたい、という歌詞は、年月を重ね“あなた達とこの生を全うしたい”との意味へ昇華したのかもしれない。

 “どうせ引き裂かれるのなら夢の間に…” これまでより大きく熱のこもった観客の合唱が響き渡る。永遠であれと願う夢の時間。しかし、やり遂げた−−という思いはファンの中にも芽生えたのではないだろうか。メンバー4人が手を繋ぎ会心の笑顔でジャンプするカーテンコールを、心からの拍手で見送った。

 

 客電がこうこうとフロアを照らしてもアンコールを求める拍手は止まなかった。多くの人が諦めずにメンバーを呼び続けていたが、完全燃焼したあのラストに納得する気持ちは誰しも持っていただろう。ただ、ここでしばしの別れとなることを受け入れ難かったのだ。

  終演を受け、その場で崩れ落ちる女性の姿があった。しゃがみこみ身体を震わせはじめた彼女に、思わず駆け寄ろうかと案じるより早く、他の観客達が咄嗟に声を掛けたり肩を叩いたりしていた。たとえり合いでなくとも、彼女の気持ちはここにいる皆が理解できる。この日のサプライズの中で一番大きなものが「6月2日にafter show party(アコースティックライブ)をやることにしました」いう告知で、“まだすべて終わりではない”という希望につながったのだが、泣き崩れた彼女にはこのファイナルに懸ける想いが並大抵のものではなかったのかもしれない。大人になるほど様々な事情を抱え、常時ライブに足を運べるとは限らないからだ。

 ほかにも涙で頬を濡らしているファンを見かけたが、多くは紅潮し満ち足りた表情で会場をあとにしていき、その姿に安堵した。また、2人組の外国人男性が興奮冷めやらぬ面持ちで、日本語ではない言語で盛り上がりながら出口に向かっていく様も見た。彼らの手にはアインスのグッズではち切れそうなビニール袋が握られていた。

 やがて関係者らが続々と2階席から降りてきて、また多くの再会があった。彼らが口々に“良かった”“最高だった”など興奮気味に発する言葉もすべて記憶に残るもので、その感動を分かち合える喜びにも酔いしれた夜だった。

 

writer,editor/伊藤美保)