『忘れ得ぬ“ツアーファイナル”までを記憶の限り綴る』【前編】/ 伊藤美保 | Eins:Vier Official Blog

『忘れ得ぬ“ツアーファイナル”までを記憶の限り綴る』【前編】/ 伊藤美保

蘇るツアーファイナルへの道。BANDやろうぜ編集部、現在フリーランスの編集・ライターである伊藤美保さんからまたまた激熱なレポートが届きました! 忙しい日々の中、コツコツと書き綴ってくれました。ありがとうございます!! とくとご覧あれ♪

 

『忘れ得ぬ“ツアーファイナル”までを記憶の限り綴る』【前編】

 ツアー“Searching For You”が行われていたのは2018年3月からのわずか2か月弱、12公演(イベントを含めても13公演)のことだったが、長い人生の中で何か不思議な、特別な時間だった。ステージに立っている演者のみならず、1箇所でも参加した人、また参加は叶わず想いを寄せるのみだったファンにもスポットライトが当たるような、温かで明るい時間だった。

 その残り火は今も胸に灯り、これからの人生を支えてくれそうな気がする。いつかまた会えるであろうという、見えない絆でつながっている。

 参加しはじめた箇所、また“覚醒した”箇所は人によって様々だったと思う。現に「このツアーの意義を本当に感じたのは地方に行ってからだった」というメンバーもいる。その話はのちに触れるとして、まずは、前回書いた大阪公演のその後を追っていく。

 

 4月14日、15日。聖地・大阪ミューズで2日間ライブをすることによって、自らの原点や地元との絆を再確認した一行。それから1週間後の4月21日、22日福岡DRUM SON疲労が蓄積していく身体と反比例するように精神は昂っていき、ツアーの地方ラストであるここ福岡で一つの到達点を迎える。Lunaは最後ステージにへたり込んでしまうほど力を出し切ったという。本当の“旅”という意味でのツアーを九州で熱く締めくくった。

 4月29日、下北沢GARDEN。イベントZERO CRASHは笑顔の多いアインスフィアに会えた。オープニングにValentine D.C.が登場し、2番手にGARGOYLEともに大阪時代からしのぎを削った同志たちとの競演は、和気藹々としながらも皆、勝負の演目で迫る。

 GARGOYLEの5曲目「BALA薔薇VARA」で突如、上半身裸の男が乱入。胸に新たなタトゥーを加えたHirofumiであった。VoKIBAもびっくりのテンションでコーラスマイクを奪い“C’est La Vie”“BALA薔薇VARA”など叫ぶHirofumiそれぞれのバンドのファンは、過去に3バンドとも見たことのある人が多いと思うが、このサプライズには皆が拳を上げ大いに盛り上がった。乱入に人一倍驚き、狼狽えてみせたKIBAのひと芝居も見事だった(笑)。

 じつはこの日“初めてアインスフィアのライブを見る”と楽しみに来場していた筆者の友人ミュージシャンがいたのだが、“初めて生で見たHirofumiさんがあの上半身裸での乱入”で、心底驚いたそうである。あ、今あんなに刺青でああいうテンションの人なんだ!?と。そう言われてみれば、このイベントでアインス初体験だった人はまず「BALA薔薇VARA」で洗礼をうけてしまったのだな、と思うと今でもちょっと笑いがこみ上げてくる。ただし、胸のタトゥーはシールだったと後にHirofumiが告白。シリアスな曲調、緻密な演奏でとても刺激的なセッションだったのだが、笑いの精神(?)まで挿んでくるあたりはさすが関西発のエンターテインメント。怒濤のGARGOYLEを終え、いよいよトリでアインスフィアが登場する。

 まず「In Your DreamのMVがステージ上のスクリーンに映し出されることがわかると、前方から観客が順にしゃがんでいくという恒例の配慮が。くまなく後方のファンにも見てほしいという気持ちが場内を優しい空気に変える。MVの後は、仄青いライトにいつものSE。白い綿毛のようなシルエットが上手から動いてきてLunaの登場がわかる。物語に導入させるような温かな低音は彼のプレイでしか、アインスフィアでしか堪能することができない。ギター、ヴォーカルも然り。以前より角が取れ、まろみを増した「Dear Song」が曲の世界へとわたしたちを招き入れる。さっきの「BALA薔薇VARA」とは別人の、きちんとシャツのボタンをとめ紳士然としたHirofumiにホッとするやらニヤニヤしてしまうやら。ただ、声がやや揺れている。地方ツアーからわずかな日数では声が復調しなかったのだろうか、と案じていると「さっきのガーゴの1曲で声、潰れた」とのMCが。それほどまでに本気の乱入だったのだ。しかしその揺れる声が「Kiss is sleeping pills」での“キス ミー プリーズ”などの台詞に迫真を持たせる。演奏もパフォーマンスも間違いなく進化している。前回フルで観た大阪公演とはまた違う凄みだ。5曲目「Passion」からは素晴らしいグルーヴに身を委ねるのみ。

 「どや、だいぶ逞しくなったやろ!」というLunaのMCは、久しぶりにアインスを見た人にはびっくりな“どや”振りだったのではないかと思う。「おれらに花を持たせて(出番をトリにして)くれたんやけど、Valentine D.C.GARGOYLE の“圧”がすごくて負けられへん」。−−いや、見ているこちらとしては、勝った負けたというよりも、よくぞこれだけ個性の強烈なバンドが1990年代の同時期に一緒のハコで育ち、よくぞこの2018年にまた集まってくれた、という感慨のほうが深い。その総意をLunaが代弁するかのように「この対バンだけは実現させたくて、今ほんまに幸せ」と笑顔を見せる。その上で、ツアーファイナルの「5月12日は何が起こるかわからんぞ。だから一人でも多くの人に見てほしい」と熱弁した。

 MC後のラスト3曲は問答無用だった。

 GARGOYLEが真っ赤な焰だとしたら、アインスの音は秘めたる闘志を体現する青い炎だ。(Valentine D.C.は青春の「ペンキ爆弾」色)。

 静かなる炎は「In a void space」で頭の中が真っ白になるまで沸々と燃え続ける。1コードのみで作曲された「ボレロ」(1920年代のラヴェル)か、2コードのみの「In a void space」(1990年代のLuna)か、人々を極限まで昂揚させる作曲の天才はどっちだ?……と、本当はそんなことを考える余裕もないほどこの曲の演奏中はトランスする。

 余韻を残したまま本編は終了。

 アンコールに応えて再び登場したLunaは、イベント名をZERO CRASHと考案したいきさつなどを話した。マイクに向かう口調は「でな、でなっ? うちのHirofumiGARGOYLEん時、出たらな?」といった、完全に身内に話し掛けるノリ。「んで、クラッシュしたのは俺の声だけやった」とHirofumiが自虐気味にオトす。こういった漫才のような会話を序の口として、GARGOYLEKIBAが登場、セッション曲名を告げたのだが、その「イン ユア ドリーム」の発音すら関西イントネーション。ステージ上の彼らは自然体かもしれないが、こちらはもうずっとお腹が捩れっぱなしだった。

 出演者全員が現れ、中でもValentine D.C.Ken-ichiの完全なる“Hirofumiコスプレ”は爆笑を誘った。掘りの深い顔立ちを真似て黒く陰影をつけたメイク、眉間を寄せた表情、歌い方やマイクのコードを操るアクションまで完コピ。Hirofumiが「やめろやぁ」と怒り笑い半々でKen-ichiに体当たりする。小中学生か。思わず笑ってしまいつつも演奏はクールなYoshitsuguの傍でそんな攻防が繰り広げられるかと思えば、シモテではいつの間にかCRAZY COOL JOE氏がベースを弾いている。そのサプライズな姿を囲んで嬉しそうにするLunaTOSHIJunのベーシスト兄弟たち。そんな全員の表情をいつまでも見ていたかったセッションはあっという間に終了、笑い疲れて満ち足りて下北沢の夜はハッピー一色に染まっていた。

 終演後の楽屋はカオス。

 多数の関係者も含めここは1996年の心斎橋か、という顔ぶれ。

 アルバム『Searching Red Light』のレコーディングに携わった由田直也(NaoyaValentine D.C.)はにこやかにアインス愛を語り、Ken-ichiは如何にHirofumiに似せようと努力したか熱弁を振るう。

 「俺とヒロちゃん、骨格からして全部違うやろ? メイクもすごい研究してな。家から自前のシャツを持ってきたけどそれが赤やって、あのメイクで着てみたら、これマイケル・ジャクソンやん?と。それでアインスのスタッフさんが“ヒロさんの黒いシャツ着ますか?”って貸してくれたんよ」と満足げ。

 Ken-ichiHirofumiのことを大好きなのは昔から知っていたがここまでとは…。SNSなどで見た人も多いと思うが、自作のHirofumiフィギュア2種を持参。打ち上げの際もそれをテーブルの上に置き話題をかっさらっていた。それを見て少し複雑そうに笑うHirofumi

 そのフィギュアを「これ本当に似てますね〜」と感心しつつスマホで撮影していたドラマー岡本唯史氏。もうだいぶビールを飲み過ぎてからになってしまったが(すみません)、彼に、アインスに参加することになった経緯などを聞いた。

 人づてにオーディションの話を受け、学生時代にアインスフィアの楽曲を聴いていた岡本氏は今回、まずCDから譜面をおこし完コピしたそうだ。見事、参加することが決まってからは、いま聴けるだけの音源をライブも含めすべて聴き、見られるだけのかつてのライブ映像を見たという。

 「AtsuhitoさんはCDではこう叩いてるけど、ライブではこういうフレーズも入れている。そういう細かいところまで、お客さんの違和感がゼロになるよう、とにかくAtsuhitoさんのプレイを完コピしました」と。このプロ根性には感服した。初見から思ってはいたが、プロ中のプロだ。ただ、フレーズは完全コピーでも、演奏には奏者の人格・気質などが色濃く出るものだと思う。見た目通りの“漢(おとこ)気”が岡本氏のプレイに感じられ、Lunaの(実は)漢気溢れるベースと相俟ってかなり骨太なアインスフィアサウンドが実現。リズム隊としてLunaの闘志も掻き立てたのではないだろうか。ふんわりとした見た目に反して芯の通った、真のリーダー気質であるLunaが力を尽くせるリズム隊。そして屋台骨が堅いからこそ安定して刻めるギター。華やかさが活きるリフ。

 前回のレポートでギターの仕様などについて多少書かせてもらったので、Yoshitsuguにそれが間違っていなかったか訊いてみたのだが「間違ってないよ。ただ、」……ただ? 「熱い。あつすぎる」。あのポーカーフェイス+微笑、の表情でそう言われたので、この日のレポートはここまで。往年のZEROISM酒豪部隊が2次会へと突き進んでいく姿を見送った

 

 5月6日、吉祥寺CLUB SEATA。アインスの出演イベントではないが、ここにHirofumiの姿があった。かつてFIRST BLOODでともに活動していたJOE氏が、Gilles de rais projectとして出演。そのラストナンバー「SUICIDE」でコーラスとして呼び込まれた。Hirofumiは最初、端のほうからステージの写真を撮るなどしていたが、のちにTwitterに投稿されたそのショットにはJOE氏が何ともいえない柔らかな表情で写っていて、友への愛を感じた。その日の豪華な出演メンバーなどが入り乱れ「スーサイ!」と叫ぶ、曲名にそぐわない笑顔のセッション。Hirofumi、呼び出されてステージに上がっていったものの、それまではずっと客席後方で観ていた。昨年、JOE氏が復帰した最初のライブの際もずっと客席から見つめていて、長丁場のイベントなので「転換時だけでもバックヤードのほうに行きませんか?」と声を掛けると「みんなの出番が終わるまでは行けへん。みんなを出演者として見届けたいから」と言って最後まで楽屋には行かなかった。とてもHirofumiらしい、人柄の出る言葉だったのでそれがずっと忘れられない。

 この5月6日のイベントでも、出演の終わった友人達に「あんまり喋らへんようにするから、帰るね」「お疲れさま、また12日にね」など笑顔で挨拶していた。この6日後は、ついに“Searching For You”ツアーファイナル。その時間が刻一刻と近づいていた。

 

※後編に続く予定。

 

writer,editor/伊藤美保)