『高め合い、現在が過去を凌駕する奇跡』/伊藤美保 | Eins:Vier Official Blog

『高め合い、現在が過去を凌駕する奇跡』/伊藤美保

大阪2daysを観に来てくれていた元[BANDやろうぜ]編集部、現在フリーランスの編集・ライターである伊藤美保さんから、Day1に続きDay2のレポートが届きましたのでご紹介させていただきます。これまた熱量ありまくりです!ありがとうございます!!

 

『高め合い、現在が過去を凌駕する奇跡』

 

 4月15日、大阪ミューズ。皆、疲れていないといえば噓になるだろう。有給休暇などを取って全国から駆けつけているであろうオーディエンス。筆者やその友人らも仕事を強行で終わらせ心斎橋へ。そして誰よりも、アインスフィアのメンバーは、今日は地元ショップのインストアイベントのため午前中から稼働している。昨晩の終演後、喉を温存していると言いつつ「遠くまでようこそ」と笑顔で迎えてくれたHirofumiの声は復活しているだろうか。初日以上に人口密度が増したフロアで開演を待ちながら、様々なことを思い返す。

 昨日の終演後の客席で、おそらく10数年ぶりに再会したと思われるファンがお互いの姿を見つけて抱き合っている光景を見た。来れてたの!? よかった、会いたかった! またアインスのライブで会えるなんて夢みたいや! そういって盛り上がる彼女たちは、先のオリンピックで銅メダルの大ジャンプを見せた直後の高梨沙羅選手と伊藤有希選手のようだった。国宝級の抱擁だ。皆の青春がアインスフィアとともにあった。

 大阪初日の晩は、熱々のお好み焼きをつつきながら、当時アインスのスタッフをしていた男子たちと語り合った。すでに音楽から離れ一般的な仕事に就いている男子が多いもののアインスが再始動となれば必ず集まり、今でも「何かお役にたてれば」という熱き後輩たち。そんな彼らが、なんでHiroさんはいまだにあんなカラダ引き締まってるんやろ。とか、Lunaさんはあんなキレイな金髪にしてて髪が多すぎるの奇跡やないか?などなど好き勝手に“アインス愛”を語る。かと思えば「花の声」であつお(Yoshitsuguさんがコーラスするところがとても好きだとか、ギターの手元のみならず、当時は足で音のスイッチングするのが華麗だったとかマニアックなアインス談義も。いま使っているのはJohnny MarrThe Smiths等)と同じJaguarというギターでスイッチシステムの進化により足元の操作がシンプルになって……と延々続く熱烈トークは、レポートとは別で書き下ろしたいほどだ。

 そういえば、筆者も興奮のあまり楽屋でこう口走ったことを思い出した。「曲がすべて素敵すぎる。素敵だからかつて雑誌でそう書き続けていたんだけど、こんなに素敵だって自覚しながら当時も演奏してました?」と。Yoshitsuguは「え??わからん」と言ってくしゃっと笑った。片手にSAPPORO黒ラベル。「ギターが! ギターがすごい変わってる。音作りも、プレイも」と拙い言葉で続けると、「うん、成長したでしょ」とニッと口角を上げた。成長どころの騒ぎではない。成長しましたね、なんておこがましくて言えない。それほどまでに成熟した音楽がリスナーを包み込み、高みへと連れていく。

 大阪2日目のオープニングは「Not Saved Yet」だ。かつての思い出に、早くも昨日の興奮が重なる。こうして我々と音楽は一日一日、一緒に生きていく。続く「碧い涙」も皆が口ずさめる代表的なシングルナンバーだった。懐古主義というわけではなく新しい音楽とて刺激的で楽しい。が、青い時代に聴いた青い歌詞、それがこんなにも人生を支えてきたとは。以前よりも前向きに聞こえるその歌を噛みしめる。

 観客席の左右には、ギターやベースの手元を凝視する男性客も複数見られる。だがベースに関してはLunaのあれほど動きまわるステージングでピッキングのテクまで盗むのは至難の業だろう。それと特筆すべきは今回のドラマー岡本唯史氏について。彼を含めた4人のサウンドはまぎれもなくEins:Vierであり、長年聴き慣れたリスナーに1ミリの邪念も起こさせない。むしろ「ぶっちゃん(Atsuhitoのフレーズすごく良かったんだな」と昨晩の飲みの席であらためて感服していたほどで、現在の岡本氏の頼もしく愛あるドラムには感謝しかないのである。

 セットリストの3分の1ほどが初日には演奏されなかった曲で、中でも「街の灯」はとびきりロマンティックに会場を盛り上げた。雰囲気の良い照明や細やかな会場運営にいたるまでミューズからアインスへの愛情も感じられる。そんな恵まれた空間で音に没頭できるためか、この曲が発表されたころ彼らはあんな衣装を着て、自分はあんなコートを新調して冬のライブに行ったなどという記憶まで蘇ってきた。不思議だ。今は人生100年というが、これらの曲が作られたのは彼らにとっての四半世紀(20代なかば)頃で、現在は約半世紀。まだまだ折り返し地点ではないか。ここで終わってほしくない…。すでに“懐かしさ”から、このままずっと聴いていたい、という気持ちに変わっている。

 楽曲の表現力は20代の彼らを凌駕しているが、Hirofumiの魂はいつでも剝き出しだ。哀しい歌は胸を射抜くほど切なく、強いメッセージはまっすぐ届け、希望の歌ではわたしたちを鼓舞する。時に、ひりつくほどの魂の歌がダイレクトに飛び込んでくる。

 「The Prayerからのクライマックスでは周囲に立つ人々の汗や体温の上昇まで生々しく感じられ、とてつもない熱気が聖地を震わせた。皆、高く手を突き上げ、声を嗄らす。我々はどこまで昇りつめてゆくのだろう。逆光のステージから放たれる「In a void space」の音の渦でより高くトリップしそうになる心を、「Dear Song」の温かさが地上に繋ぎとめる。本編16曲、すべてが宝物のような贅沢な時間。4人がステージから去るやいなや、さらに大きなアンコールが彼らを呼び戻す。

 

 いち早くステージに戻ってきたLunaは、そのまま客席に降りてファンにダイレクトに感謝を伝える。少なくともLunaは3回客席に降り、ハイタッチや握手を交わしていた。そしてステージに上がると、これまでに聞いたことのない強いトーンで語り始めた。

 「1990年、アインスフィアはここ大阪で結成しました。初ワンマンした時もめちゃくちゃ嬉しかったのを憶えていて、大阪ミューズに成長させてもらったように思います。結成から30年近く経って、また、みんながここを選んで来てくれたことが嬉しくて。ここにいる一人でも欠けたら同じライブにはならなかったっていうぐらいの奇跡だと思う。無理を承知で言うんやけど、今日この時間を共有してくれたみんなに、最後の渋谷O-WESTを見に来てほしい。アインスフィアの覚悟を見てほしい。今こちらを見ているその目が、ファイナルの瞬間にもあったら嬉しいです」

 アインスの歴史から語ったリーダーの言葉に、途中から感極まって泣きだしたファンもいた。「I feel that she will come」では皆、極限までステージに手を伸ばした。メンバーは極限までファンに近寄り一人一人を見つめ頷く。その目にももしかしたら光るものがあったかもしれない。“Love”“you”と繰り返すコーラスで、HirofumiYoshitsuguにまるで愛を告げるように何度も両腕を拡げる。Yoshitsugu はそれを横目で見てフッと笑みを返す。Lunaへは、“この頼もしいリーダーを見てくれ”と言わんばかりにオーディエンスへアピールする。ドラムのほうへ“Love you”を向けた時の岡本氏の嬉しそうな笑顔が忘れられない。その振りが最後、オーディエンスへ向けられるのだ。もちろんこちらの人数分のLoveがステージへと返される。昨日感じた恥ずかしさは、もう無い。大阪公演が2日間あってよかったと、心から思った瞬間だった。

 ラスト「In your dream」では会場くまなく、完全にひとつとなる。全フロアを煌々と照らす光の中でより一層大きな合唱が続き、Lunaは大きく両腕を広げる。音を介して我々はかたく抱擁し、笑顔で手を振った。

 昨日と同じ客席後方のスクリーンに、続けざまに「In your dream」のMVが流しだされる。と同時にスクリーン周辺のファンから徐々に腰を落としていき、全員が映像を見えるようにとの気遣いが。音楽に心洗われると皆、優しくなる。その“アインス王国”の愛情がまた感じられる光景だった。

 MVが終わると拍手が起こり、そのままダブルアンコールを求める大きなうねりへ。応えて登場したメンバーが最後に奏でたのは「イメージの川」。Hirofumiは「イメージの向こうに君たちの世界があるはずです」と言った。それならば……5月12日の先にも、アインスフィアの音楽とともにある世界をイメージしてはいけないだろうか。時を止めることはできないし、楽しい時間ほど川の流れのように速く過ぎていってしまう。いつも、とは言わないから、また会える“いつか”をイメージさせてほしい−−。やりきった、満ち足りた表情の4人が、ステージ上で手を繋いで一斉にジャンプ。会心の笑みを見送りながら、この瞬間がいつまでも続けばいいのにと誰もが思ったに違いない。

 

 この大阪2デイズで一時『Searching Red Lightの会場限定豪華版は売り切れとなり予約販売となっていた。Luna の初日のMC効果は抜群だ。通常版のほうも品薄と聞き、筆者も慌てて手に入れたが、5月12日ツアーファイナルのチケットも残りわずかになっているという(4月下旬現在)。

 2日目を終え、その感動やかつての思い出などを10数人で語り合える会があり、地元在住の元スタッフ男子などが「Lunaさんの覚悟に心動かされたから、東京までファイナルを観にいくことに決めた」と言っているのを聞いた。「おれら、メイド・イン・アインスフィアやから」と、大阪時代からこのバンドに関われたことを皆が誇らしく語りつつ、そういえばあの曲も聴きたかった! あのテッパン曲もまだ聴けてない!とさらなる欲も噴出。また、メンバーには聞こえないような小声で「今、新曲作ったらどうなるんやろ? 新曲も聴いてみたいなぁ」と激しく頷き合っているところも目撃した。“活動終了”というメンバーの覚悟は受け止めながらも、その気持ちを動かせるとしたら“メイド・イン・アインスフィア”なる我々の熱意がカギとなるのでは……などという密かな希望も語り合った。

 しかし20年前の彼らを知らなくても、思い出は今日からでも作れる。たとえばアルバム『Searching Red Light』を聴き、今の季節なら歩道脇の鮮やかなツツジを見ながらライブへ向かう。その光景もアインスフィアとの思い出になる。この春に出来たライブ体験もいつか懐かしく思い出されることになるのだろうが、それはできるだけ近い未来のほうがいい。寂しさや感傷ではない、そんな夢を抱きながら、ツアーファイナルの日を待ちたいと今は思う。

 

writer,editor/伊藤美保)