いつも待ち合わせる場所に、彼が来る。
急に呼び出したことを詫びながら、
そしてあたしは、彼に言う。
「あたしのこと、好き?」
唐突な質問に戸惑いながら、答えを曖昧にはぐらかそうとする彼を見て、
あたしは安心する。
「それなら、これから3ヶ月をあたしにくれない?」
彼の眼をまっすぐ見て、言ってみる。
「どうして?」
当然の問いかけに少し笑いながら答える。
「君はきっとあたしのことがそんなに好きじゃないとわかってたの。
あたしは好きだけどね。
でも君はあたしを別に嫌いでもないけど、特別な感情もないって。
多分、その方が良いと思うんだ。
3ヶ月、あたしと一緒に歩いてほしいんだ。
もちろん、君の人生の3ヶ月をもらう訳だから、それなりの対価は払うよ。
と、言ってもあたしが用意できるくらいだからたいしたものではないけど。
もし、あたしのことが好きならこれは頼めないの。
3ヶ月後の責任が取れないから。」
「だから、何で?」
予想通りの反応に、やっぱり少し笑ってしまうけど。
「あたしね、癌になったの。
このまま何もしなければ、普通の生活ができるのは3ヶ月。
いますぐ入院して、手術なりちゃんとした治療をすれば、助かる確率は9割。
そんな状態みたい。」
彼の持つタバコが微かに揺れていることは流してみる。
「すっごい考えたんだけどね。
あたしの人生、あと3ヶ月って言われて、どうかなって。
でも、治療するにはお金がかかるじゃない。
別にお金がない訳じゃないんだけど、そこで使った分が無駄じゃなかった、
という人生がそのあと送れるかなぁって。そしたらね、自信がなかったの。
それにあと3ヶ月ってことがあたしの運命なら、
それを素直に受け入れようかなって。
きっと、今まであたしがしてきたことの罰だと思うから。
あたしを想って大事にしてくれた人たちを、ことごとく裏切り続けた罰。」
まっすぐあたしを見て固まっている彼に、笑いかけてみる。
「あと3ヶ月。フルに使って生きようと思うの。それを手伝ってほしいんだ。
仕事は普通にできるだろうってことだから変わりなくするし、
特別なことをする気はないんだけど、
3ヶ月だけはあたしと付き合ってほしいなって。
申し訳ないなとは思うけど、頼めるのは君しかいなくて。
他の人は、こんなこと言える間柄じゃないか、あたしのことを好きだから。
君はきっと3ヶ月後にあたしがいなくなっても、
そんなに気にならないんじゃないかと。」
「周りの人には話したの?」
今日の君はどうしてそんなに正当なんだろう。
「上司兼親友ともうひとつ上の上司には、仕事があるから話したよ。
あたしがいなくなると大変なのはわかってるし、お客さんも困るから。
あとは親にも話した。
子供が先に死ぬことほど、親にとって辛いことはないからね。」
「そう。」
ほとんど灰になってしまったタバコを消して、君が小さく言う。
「そうなの。あと3ヶ月。できる限り普通の生活がしたいの。
だから、必要以上に周りの人にも言いたくないし、
親や上司には今まで通りのあたしでいたい。
でも、一人で立つのは辛くなると思うから。
それに耐えるために、君に支えてもらいたいなって思うんだ。
君がそんなに強くないことはわかってるんだけど、
やっぱりあたしのダメなところをこんなに知ってる人は他にいないから。」
「そっか。」
小さくつぶやいて君は、またタバコに火をつける。
もし、今現在実際に戦っている方がいたら申し訳ないなと思うのだけど。
これが現実だったら、あたしはこのときと同じ決断をするのでしょうか。
それとも、何が何でも生きたいと思うのでしょうか。