子どもの頃、はさみ将棋が好きでした。
知ってますよね、はさみ将棋。
 
将棋で最初に覚えるのは、はさみ将棋と山崩しが両巨頭ではないかなあ。

僕は、だんぜん、はさみ将棋でしてね。
せっかちなので、山崩しはなんとも、苦手。
 
はさみ将棋は、相手の駒をはさめば取れちゃうという簡明さが、ぴったりだったのです。
 
とにかく、相手のうっかりだけが、勝負の決め手だと信じ込んでいましたので、敵の気をそらすことを第一としていました。
 
具体的に言いますとね。
対局途中で、他の話をするんですよ。
 
たとえば、「昨日、巨人の星、見た?」とかね。
 
相手も子どもですからね。のってきます。
「見た見た、すげえなあ、花形。鉄球、鉄バットだもんな。」
 
こうなれば、しめたもの。
話に乗せれば、相手の凡ミスが連発し始めます。
 
子どもの頃から、そういう、卑怯(ひきょう)っぽいことが得意でしたので、はさみ強豪の一人となっていました。

ある日のことです。

近所のしもちゃんと呼ばれる兄ちゃんがやってきて、対戦することになりました。

兄ちゃんといっても2つ上です。

僕は、例によって・・。

「しもちゃん、今週号のあしたのジョー、読んだ?」

「ああ、読んだよ。力石、やせたよな。」

しもちゃんは、そう答えながらも、淡々と、一手一手を進めます。

なんだか、よくわからないんですね。

何やってるんだろう。

そんなんじゃ、はさめっこないよ。

それが、画像の盤面です。

はさみ将棋

しもちゃんは「歩」。僕は「と」です。

しもちゃんは、ななめにずらりと、駒を並べてきました。

楽勝楽勝、とたかをくくっていた僕でしたが・・。

あら不思議。
いつの間にやら、どの駒も動けなくなりました。

まったく、マジックとしか言いようがありません。

結果、気が動転し、うっかりを繰り返してまうはめになりました。

当然のように、惨敗。

しもちゃんは「うっかり戦法」に変わって「駒組み」という言葉を僕に残していきました。

やっぱ、卑怯は限界があるなあ・・。

やっと目が覚めたのです。

それから45年。

いまだに、ときどき卑怯ですが、いずれにせよ、将棋は、僕の人生に大きな影響を及ぼしているのです。

今年も、どうぞ、よろしくお願いします。