朝目ざめて窓を開けるといつもの見慣れた光景なのだが、なにかがおかしい。車や人の姿などはふつうなのに。また山や建物などの動かないものもそのままなのに。杉山知は、気持ちがイライラしてきた。ひょっとしたら、自分の仕事と関係があるかもしれないと思った


知は、超小型加速器で「陽子崩壊」の実験を行なっている。それは、宇宙や我々を構成する最小単位レベルの原子核のなかに中性子と一緒に入っている。その寿命は10の34乗年とされているので、ほぼ永遠の命を有している。ふつうに考えると、その時期が来たら「宇宙は消滅する」ことになると予想される。人類にとっては、まったく心配することはない。ただ彼は陽子崩壊という現象に個人的に興味があることにくわえて、民間レベルでの国家機関への実験許可証は取得している


じつは数日前に実験レベルでの「陽子崩壊」現象の確認に成功している。それは崩壊後の理論的素粒子が検出されたことでもって、実証された。これについてはデータ整理後、国家機関に報告予定である。厳重に遮蔽された加速器内での現象なので、周辺になんらかの影響を与えることはないと考えていた。だが付属の真空冷却装置の一部に不具合を生じていて、未知の素粒子が漏れているのに気がついていた。その封鎖には、計算上「DNA攻撃性」を確認できているので「粒子抑制装置RYS」もすでに作製済みである


未知の素粒子を浴びていた知は、体も心ももわもわしている。恋人の朝比奈町子が遊びにやってきた。彼女は仰天した。彼の人体である部分は、明るいグレー色の丸っこいもわっとした形になっているではないか。露出した頭や貌、首や手足などがきちんしたものになっていないのだ。彼女は彼に駆けよったら、すぐにRYSを持ってきてくれと言われた。辺りをキョロキョロ見まわすと、データ処理コーナーにそれはあった。落ちついて吸入したら、もとに戻った。二人ともドッと疲れが出たものの、少し落ちついている。彼はこの未知の粒子についてのデータ整理も行なって追加報告を行った


その後二人は、巴里のサン・クレール教会で互いに一生を誓った。そして知は、ド・ソード県にある加速器センターで「重力崩壊」の研究を新しく始めることになっている





◾️憩いの準動画


シャンゼリゼ







◾️出典:Wiki、いらすとや







◾️お楽しみいただきまして、ありがとうございました。次回作は暇がかかるかもしれません