修復ということ
白のなかに隠されたこと
ここへ届いたとき
白くペイントされた
バルーンバックチェアで
深くて鮮やかな青の座面の
子だった
持った瞬間に
見た目の爽やかさとは
程遠い重さだった
最初の違和感
いつもとお同じ
一枚づつ
一つづつの古い鉄鋲を
ニッパーと手の感覚で
抜いていく
古くて破れていても
工程は同じ
のはずが
鉄鋲が
ことこどとく木から抜けない
二つ目の違和感
いつもの感覚だと
頭がとれてしまうから
いつもより2ミリくらい
深いところまで掴んで抜く
生地を外し
中生地を外し
麻布を外し
スプリングを止めている
大きな鉄釘を外していく
ベルトがすでに切れていたので
あっという間に
スプリングとベルトが
ここまで頑張って堪えていた
チカラをスッと抜いて
落ちた
ギリギリまで
ほんとうに
おつかれさまでした
ベルトを外しすと
すぐに
2脚とも両幕板のホゾが
折れていたのがわかり
しかもずいぶん前から折れていた
ようで埃も挟まっていた
何もしなくても
背もたれから
幕板が離れる
よく踏ん張ってくれていたのだと
わかる
ほとんどのホゾが折れていたため
古いホゾをカットして
溝を切り直して
雇いホゾを造作する
背もたれのヌキもアーチ型だ
テンションかかりながら
折れてしまっていたので
同じように
雇いホゾを造作
折れた木片を除去するときに
少し綺麗な香りがして
三つ目の違和感
分解に入ると
いつもの当て木を真ん中くらいの
硬さのを選び小突くと
跳ね返される感覚
いちばん硬いのを
再度選ぶとキーンという
少しカン高い音と手への跳ね返りが
強過ぎる
４つ目の違和感
そして
ホゾが全て外れて
埃や汚れを除去すると
違和感の意味が
繋がった
太くてしっかりとひた
ローズウッドだった
銅付きの部分だけ
ペイントされていないから
綺麗なローズウッドが見えた
クリーニングして
触れると艶と強さと美しさが
ここだけしか見ないけど
一気にこの椅子を想像させる
この子は
最初から白く塗られたのか
何箇所か折れた形跡があるから
それを隠すためにペイントしたのか
そのどちらでもないのかとしれないけど
ローズウッドのバルーンバックチェアを
少しの時間想像する
白いローズウッドは
今ここにいる姿もとても素敵で
この白なりになるまでの
長い時間もちゃんとわかる
素敵な椅子
抜け止めの
小さな楔まで
ローズウッドで
細部まで丁寧で
素敵
ホゾの調整で
少しだけ削ると
50センチ範囲だけ
ローズウッドの綺麗な
ほのかに甘い香りに包まれる
全てを
バラして
補強して
造作して
組み上げて
そして
ここにあった
古い赤の別々の布たちを
この子達に貼った
ローズウッドはまた
いつかのだれかまで
白のなかにしまいました
素敵なご依頼椅子との
出会い
@grenier_voyage さん
ありがとうございました
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