2日間チビ達のお相手をし、ぐったりして病棟に戻ると、廊下の向こうから馴染みの顔がやって来た。

「見たか、見たかー⁈」

初発時から、ずっと一緒に同じ病気で戦ってきているお友達のママだ。



「見てないなー、部屋見て!」

部屋に入ると実に美しい千羽鶴が。

初発時は色んな方から千羽鶴を頂いたものだが、
今になって、しかも同じく毎日子供の付き添いをしているママから…

「Yさーん!!(´༎ຶོρ༎ຶོ`)」

2つ隣の病室の戸を、ノックと同時にバーン!
…ご主人…。
し、失礼しました。

「こっち、こっちー!アハハー!」

後ろから明るい声が。

千羽鶴。Yさんと実のお母さんで折ってくれたらしい。Sちゃんの病気が良くなりますように、と。

鶴は縁起を担いで首が折っておらず、しかも表面をきちんとセロファンで囲ってくれていた。
白血病の子は部屋内を清潔に保つ為、洗濯、消毒しづらい物の持ち込みは極力避けている。
これだと細かい埃もつかないし、上からさっと拭くこともできる。
気遣いだ…

この人がすごい。とにかくすごい。
病棟のマザーテレサ、裏師長(笑)
困っている人、困ってない人、全ての人に声をかけ、気持ちを汲み、大体1日1人は病棟のママを泣かせている(脅してるわけじゃなくて)。

Yさんに背中を撫でられ言えなかった思いを吐き出しながら泣いているママを見ると、あぁ今日も1人救われた、とこちらも勝手に安堵する。

Yさんに初めて声をかけてもらった日をよく覚えている。
まだ慣れない病棟の給湯室でお茶を入れている時だった。

「お腹に赤ちゃんいるんやって?」

我が子が白血病と告げられ、ずっと下しか、病棟の廊下しか見てなかった私はハッとして顔をあげた。
何でも聞いて!と連絡先を教えてくれた。
それ以来、長い長い付き合いだ。

お互い足りない物を分け合ったりはもちろん
家族問題を解決に導いてくれたり…
妹を隣病棟で出産した時には、姉と偽って病室まで来てくれた。
人には言えないような事も言い合う、特別な関係だ。

子供の葬式の話もした事がある。
お互い明日をも知れぬ子供を看ている。
「誰呼ぼっかなーとか、遺影どうしようかなー、とか、…考えるよ。」
周りがギョッとするようなヘビーな話を、院内コンビニのコーヒーを飲みながら話す。

でも彼女は常に明るい。
びっくりするほど。
立場は同じだ。なのになんでそんなに明るいのか?
数えきれないエピソードがあるけど、泣いてすがる私と違い、彼女は私の前では泣かないのだ。
「泣いてますよ、結構。
Sちゃんママの前では泣かないだけで。」
と病棟スタッフ。
くそー、いつか私の前でも遠慮なく泣かせてやる!とへんな目標を心に秘める私なのであった。



今週末は我が子の体調がイマイチだった。
お盆休みでたくさんお兄ちゃんと遊ぶつもりだったチビ達はがっくり…
せめて会わせてやろうと、点滴を止めて、わずかな時間だが車椅子でデイルームまで出た。

「ボクが押すの!」
「あーたん!あーたん!」

弟妹でお兄ちゃんの車椅子を取り合う。

決して長くはない廊下を行ったり来たり。
鼻歌を歌いながら。スキップしながら。

テレビでお盆休みのプールや海の映像が写ると、

「ねぇ、Sちゃん帰ってきたら海いける?
一緒にプールも行きたいんだけど。」

お兄ちゃんへの果てしない愛。

弟妹よ、いつか行こうぜ!
お兄ちゃんを連れて!
お母さんお腹凹ませとくからさ!