我が子は毎日ほぼこれしか食べない。
紅しょうがを混ぜたおにぎりだ。
病室を訪れた先生や看護師さんに必ず、
「Sちゃん、これ何?ピンクのかわいいおにぎり。何が混ぜてあるの?」
と聞かれる。
そして
「紅しょうがなんです、珍しいでしょ。嫁ぎ先で初めて知って。うちの子供らはみんな大好きで。バーベQなんかにもさっぱりして傷まないし、おすすめでーす。」
と答える。多分15回は同じ説明をした。
元々炊き込みご飯なんかの味がついたご飯は好きじゃなく、白いご飯をひたすら食べていた子だが、抗がん剤や放射線、これだけキツイ治療をしてたら好みも変わってくる。
好みどころか移植の2ヶ月前からほぼ絶食だ。
再発ALLのプロトコールに沿ってお薬の反応も良く、色々ありながらもなんとか移植のメドがついていた矢先、突如、末梢血に芽球が現れた。
その日は移植計画について先生よりお話があるはずだったが、急遽プロトコールの変更についての話に変わってしまった。
寛解で移植に持ち込まなければ、再々発の可能性が高くなる。
もうこれ以上折れないと思っていた心はボキボキと音を立てて折れる。
変更された治療は前処置にも匹敵する過酷さだった。
いや、過ぎてみれば前処置よりもキツかった。
口からお尻の穴まで消化管はぜんぶただれ、10分おきに下痢、痛み、もちろん食事どころではなかった。
オムツ替えの途中でまた下痢をして痛がって泣く。急性膵炎のせいで背中からの刺すような腹痛。
吐くものが無いのに夜中も吐く。緑色の胆汁が出てくるまで吐いた。
食事どころじゃなかった。
一日に三度の食事があるというのは、生活になんとメリハリがつくことか。
食事は出ない、それでも薬は吐いてでも飲み直す。
一日中薬の事ばかり考えていたなぁ…
もう食べる事を忘れるんじゃないかと思うくらい食べない生活が続いた。
移植後、重湯を口にした我が子は
「おいしい。もっと」
と言った。理屈ぬきで涙がでる。
このままだんだん食欲も戻って、退院する頃には人の半分くらいは食べられるといいなぁ、ってぼんやり思ってた。
移植後5ヶ月。今でも二歳になる妹の3分の1も食べない。
私は3人の子に、もうー、あんたらよう食べるで追いつかんわー、と言いながら朝も昼も晩も大量のご飯を作るのが夢なのだ。
冷蔵庫には常に食材がいっぱいで、今日は何を作ろうかいつも頭の中はいっぱいで、ご飯で家族のお腹をいっぱいにする生活をしたいのだ。
たくさん食べさせてやりたい。ほんとに。
紅しょうがおにぎりから大分話しはズレたが、病院近くのスーパーに小量を個包装にした3つ入り115円の紅しょうががあり、大変お世話になっている。
紅しょうがって大概一度に食べきれない量を100円で売ってる。
化学治療をしている方ならあるあるの、食べきり個包装。
ヤマヒデ食品の開発者の方、ありがとう。
このおにぎりを教えてくれたお義母さん、ありがとう。
仕入れてくれたスーパーの人、ありがとう。
私がほとんど買い占めてます。