「又四郎かよく聞けよ」
お婆ちゃんにかわった。
「又四郎、お前はな初孫やったから、産まれたとき、嬉しかった、無事に産まれて、お婆ちゃんの家まで飛行機できたね、珍しい生き物みたいだった、お婆ちゃんの背中にずっと引っ付いていて見たくても見えなかったものが、とれて目の前に現れたようだったよ、そんな感じがした、親戚みんなが、かわいがっとっよ、婆ちゃんはな、かわいいというより、珍しい宝石みたいに見えた、たまに怖くない妖怪にも見えた、婆ちゃんの布団で一緒に寝てるときも、よく明け方まで眺めとったよ、夏休みは毎年一人で飛行機に乗ってきたね、ちっこい頃からね、ほんま、ようしゃべったね、口から産まれた子みたいやったよ、ほんま、おじいちゃんにも怒られたね、どつかれとった、あんた、イタズラばっかりしよったから、みんなにちょっかいだしとったもんね、ほんでえ、よう泣きもしたね、婆ちゃんそんとき怒っやろ、男が泣くのは、親が死んだときだけやって、あんた、よう嘘もついた、婆ちゃんまた怒ったやろ、嘘だけはつくな、泥棒になってしまうぞって、でも、中学生なってからは、静かな子になったね、婆ちゃんは寂しくなった、又四郎はいろいろ悩んどったんやね、いろいろ抱え込んだんやね、婆ちゃんが要らんこと言ったから、感情を出すのが下手になったんや思った、ごめんな、大人なって、婆ちゃんは、毎日、又四郎に電話できてほんま、幸せやった、自分の背中のような、一心同体のような、もっと声を聞きたかった、もっと、もっと、もっと、声聞きたかった、これからもずっと、でも婆ちゃんのほうが先にいってしまうんや、順番よ、又四郎、婆ちゃんが死んでも、頑張れよ、な、これまでは関係ない、これからはちょっとずつ頑張れ、泣いてもいい、嘘はあかんけど、ホラはふいていい、お前の中のギラギラしたものを外にだすんや、な、いい人生にするんやで、な、返事は?」
「うん、わかった!婆ちゃん、お休み、いい夢見るんやで、」
又四郎は力一杯大声で言った。