このころから少しずつあたしの中のあたしが壊れていった。

でもそれは剛のせいでもかなわない恋のせいでもない。

そんなのきれい事なんて言ったらそれまでだけど、きっかけもなく、ただなんとなく。



食べた物をすべて戻し、戻しては食べた。

痩せもしないし太りもしない。

食べたいわけでもない。味なんてどうでもいい。

吐くとすっきりした。


ゴミで一杯のゴミ箱を空にしたときの爽快感に似ていた。

でも吐くと体内のカリウムの量が減るらしく、喉が乾いて、たくさん水を飲むから顔がパンパンにむくんだ。
喉を傷つけた事もあった。

辛い。

止められない。

助けて。


でも人前では笑った。
あたしはそうでなくちゃいけなかったから。


耐えきれず剛に一度だけ言ってみた。
それすらすごく怖い事だった。

「あたし食べ吐きしてるんだ」


「なんで!?」


顔をしかめて剛は言った。



胸ってほんとにキリキリする。



「うそだよ。だったらもっと痩せてるよ、どんな反応するか見たかっただけ」


笑って答えた。
やっぱりあたしはこうでなくちゃいけないんだ。


抱きしめてほしかったとか、慰めてほしかったとか、そんなこと期待してたわけじゃないんだよ。

ただ、そんなあたしも受け入れてほしかった。


受け入れてくれなくても、嘘でもいいから「辛いよな、苦しいよな」って言ってほしかった。

これはわがままな事なのかな?


ねぇ剛。

変わらない人間なんていないんだよ。

嫌でも変化を求められる時代じゃん。

そのままでいる事の方が強さがいるんだよ。


あたしはそのままでいる強さなんてないよ。


こんなあたしに1つでもいいから幸せな嘘をちょうだいよ。
剛は酔っ払うと決まってあたしに甘えてきた。

ある日あたしんちで飲み会があった。
剛はいつものように飲み過ぎてて、そのまま眠りこけてしまった。

朝目覚めると剛は寝たまま吐いていて、あたしは呆れながらも剛の嘔吐物を片付け、剛に帰るように言った。

剛は一人じゃ帰れないなんて、女の子みたいなこと言ってごねた。

あたしはしょうがなく剛を家まで送って行くことにした。

家に着くと剛はまた吐いて、すごく苦しそうだったからあたしはコンビニに走って水やら胃薬やら胃に優しい食べ物やらを買い込んで剛の家に戻った。

剛は大きな体を小さく折りたたんでベッドの上で寝ていた。

それを見た瞬間、

今までつながってたあたしの脳と体が急にバラバラになって、こらえきれずに右手が剛の頬に触れた。

そのまま髪をなでて、きついね、大丈夫だよって何度もつぶやいた。


剛は頭を枕からあたしの膝に置いてまるで子供のように甘えた。


この瞬間だけ時間なんて壊れてしまえばいいのに。


だけど、そんなことできやしない。


机の上に剛と彼女のプリクラが置かれていた。



彼女はあたしの大切な親友。


バラバラだった

脳と


体が


またつながって、

右手がゆっくり離れた。

ばかやろー


心でつぶやいて、


お大事にね、バイバイって言った。


帰り道、冬の朝、寒くて、剛の頬に触れた右手のぬくもりなんで一気に冷めた。


流れてくる涙の方があったかいなんて人間の残酷な仕組みにうんざりした。



ばかやろー


今度はハッキリ口に出た。
片思いしかしたことがない。

大学一年ん時に同じクラスの人と付き合ったけど一回もやらずにそっこー別れた。

すごく泣いたけど、それは悔し泣き。

そこからは片思いばっか。

最初の片思いは2年半続いた。
同じサークルで同学の剛。
剛はいわゆるイケメンらしいがあたしは全然そう思わなかった。

剛は真面目で優しい男だった。どんな相談にも乗ってくれるし、ちゃんと怒ってくれる。

あたしは中高女子高で、男の子との接し方がわからなくて、それでも剛と近づきたいからどんな事でもした。

家からたくさん届いたんだって嘘ついてりんごたくさんあげたり。

ノリがよければ笑ってくれるから落ちキャラになって笑わせたり。

飲み会を作ってあげたり。

そのうち剛には彼女が出来たけどあたしは全然悲しくなかった。


あたしは剛の彼女になりたいわけじゃなかったの。


彼女とか、そんなんじゃなくて、それ以外の女の中で剛の一番になりたかったの。


だからあたしは剛の他の女友達に嫉妬した。キャラ上それを出せなかったから事なきに終えたけどね。

その代わりに剛に心配して欲しかった。

スナックで働いて学校休んだり、元気ないふりをした。

その結果怒られただけなんだけどね(笑)

剛はあたしに、お前が悪いと言った。

「あんたが好きなんだよ!!」って半切れの言葉が喉の向こうで詰まって、その言葉が行き場を無くして液状化して涙になった。

それでもあたしは剛を諦めようとは思えなかった。