◎自作バックロードフォーンスピーカーボックスの遍歴

 

 オーディオのスピーカーユニットに、数十年前、フォステクスのFE103Σという10㎝径のフルレンジがあった。故・長岡鉄男がこのユニットを使ったバックロードフォーンのスピーカーボックスをベニヤ板で自作して、その音質のすごさをオーディオ雑誌で紹介した記事を、何度となく見てきた。吾野緒濫人はずっとこのスピーカーユニット、FE103Σのスピーカーボックスを作ることを夢み、形こそ違えトールボーイ型のボックスを自作したのは、30年ほど前のことだった。
 しかし、その憧れのユニットは、当時高額で手が届かず、安価なユニットで代用した。2~3年くらい使ってから、やっと念願のFE103Σを買い、20年近く使ったと思う。が、さすがに布や紙などでできているスピーカーの振動板は、経年劣化したり塗料がコーンに滲んできたり、エッジもヘタッて音質も劣化した。
 もう使えない……というころには、時代の変化で件のスピーカーユニットは、製造が止まり、入手できなくなっていた。高価であったので、あったとしてもすんなりとは買えない。とりあえず、安価な、一見よさ気に感じたフォステクスの8センチフルレンジに買い換えた。
 口径が小さいので、高音は高能率だが、低音は弱いと想像したが、意外にも、箱の共鳴効果のせいか低音はよく出た。が、高音の音質は、小さいのによくはない。全体的にも、箱との相性はよくなく、なんとなくボワンとした音に慣れるまで、我慢して使ってきた。
 自作用のスピーカーは、フォステクスブランドが最高だと思っていたが、たぶん10年ほど前に、ジュラルミン素材の10㎝フルレンジスピーカー、ALPAIR 7Aの評判がよいということを知った。価格はちょっと高かったが、吾野緒濫人は、欲望を抑えきれず、秋葉原でみつけると、衝動買いして、付け替えた。

 


 結果、音質が大幅に向上した。オーケストラがとてもきれいに聴こえる。弦楽器が美しく響く。そして低音がものすごく豊かに押し出してくる。壮麗な美しい音響で満足して聴いてきた。この装置は、これでいいかも……と思うようにもなってきた。不満はないわけではない。何が不満かというと、音質はきれいなのだが、押し出しは弱い。低音は、出すぎるほどで、一部ブーミーさもあった。それは、セッティングを少し前に出したりして、ある程度は解消できた。こうして、もうこれ以上すぐれた音質はないだろうと思うほどになった。
 ところがである。

 

◎幻の最強ユニット


 数年ほど前、フォステクスの10㎝フルレンジに、FE108solというユニットが登場し、すごい評判だった。YouTubeで、エア録音したこのユニットの音質を聴いたが、そこでわかるほど、このユニットの音は、すごくよく聴こえた。低音も出る。なんといっても、生き生きとした音の印象がした。が、このユニットは、限定生産品であり、すぐに購入できなくなった。
 その限定品の評判は高く、ついに昨年、再製造されて、限定販売された。評判がすこぶるよかったので、買えるうちに入手することにした。はたして、今はほぼ満足をしているユニットと交換したら、もっとよくなるかには、疑問もあった。
 そしてついに、高級器を上回る音質と評判のFE108solが、吾野緒濫人の掌に届いた。

 


 新しいスピーカーユニットを手に入れたのは、もちろん数年ぶりのことだ。オーディオというニッチな趣味の世界のマイナーな話題だが、やはり新品のユニットを手にする喜びは、小さくはない。
 待ちきれず、ユニット交換をはじめてしまった。
 が、大きな問題が発生した。
 FE108solには、かなり大きな径の磁石がついていて、重量も重い。問題は、この大きな径の磁石部分がユニット開口径にぎりぎりで、隙間がわずかしかない。接続したケーブルが太いので、ユニットが収まらない。
「ど、どうしよう。取り付けられないぞ、このままじゃ」
 取付側のユニット用の穴の径の一部を数ミリ広げないと、新品のユニットを取り付けることができない。

 


 気づいたときには、ノミを取り出して、ユニットの穴の一部を削りだしていた。吾野緒濫人の粗野な性格そのままに、意外と早く、穴は広がり、なんとか、やっつけ仕事で、強引に新品のスピーカーユニットが、無事取付が完了した。
 はたして――どんな音か――

 


「でかい。するどいぞ!」
 圧力の強い、しかも強烈な鋭い響きで吾野緒濫人の耳は、ぶんなぐられたほどの衝撃にハッとした。
「これだ、これだ、これがフォステクスの音だ……」
 押し出しの強い強烈な刺激は、フォステクスのかってのFE103Σの特質である。が、今回のsolは、次元が一つ上であった。高音が圧倒的に伸びきって出ている。細かい、音と音に埋もれていたと思われる微細な音が、聴こえてくるのだ。ヴァイオリンの音色の倍音が、もっすごくたくさん聴こえてくる。弦楽器の合奏が、こんなにリアルに目の前に飛び出して聴こえてきたことはない。その意味で、初めて聞く音質かもしれない。
 ヴォーカルもリアルだ。目の前に飛び出してくる。しかし、けっしてうるさくはない。きれいに透明な歪みのない音質なので、頭のもやもやが一掃されるほどの響きがする。管楽器も鮮烈だ。
 つまりは、かなりのハイ上がりというバランスになったのかもしれない。まだ、スピーカーのエージング前である。エージングが進むと、音質はもっと繊細にやわらかさを増すはずだ。
 ただし、低音はバランス的に高くはなっていない。そのため、やや低音不足に感じる。
 実際に、低音はちゃっと出るのかどうか、PCでAudacityを起し、サイン波を入れてみた。60㎐、50㎐、40、30と入れてみた。出る、出る、ちゃんと出る。
「30㎐、ちゃんと聴こえたな? 前のユニットでかなり音圧が下がったけど? ウソみたいに出る」
 試しに25㎐を入れてみた。出るではないか。ブルブルいって倍音か? 20㎐はさすがに無理だろうと思ったが、ブルブルと鳴る。ウソではない。さらに15㎐……出てしまった。いったいこのユニット? バケモノか?
 確かに70㎐、80㎐としあたりは、かなり共鳴的にたっぷりと鳴る。110㎐くらいはちょこっと大人しいが、つまり、低音はきちんと出ている。ということは、高音が出すぎているということになる。しかもこのユニットの高音は、極微小な音まで目が覚めるほどの解像度で鳴り響く。その響きは、耳の奥深くの蝸牛をシンシンと刺激する。その心地よさ、ヘッドフォンでも体験できないほどの痛烈さである。その心地よいことと、この上ない。
 はたして私の耳は、このユニットからどこまで聞き取ることができるのか? 6000㎐OK、8000㎐OK、9000㎐もいける。そして10000㎐、なんとか聞こえている。そして11000㎐……なんとか、聞こえている。12000㎐……? 聞こえない。11500㎐……なんとか聞こえた。これが74歳の吾野緒濫人の限界と知った。

 さて、まだまだ全然ヘタッてない、ALPAIR 7A、何に使おうか? スーパーウーファー用にでも転用しようか?