内蒙古の女性歌手・徳徳瑪(ドードーマー)が、すーっと奈落に落ちるような眩暈に襲われたのは、市立宇都宮文化会館のステージでライトを浴びている時だった。
最後まで、最後まで、歌わなければ・・・・・。
先刻から息苦しかった。会場に酸素が少ないのかと思ったほどである。もう立っていられない。マイクに声を振り絞ったが、歌のエンディングとともに、記憶は遠のいた。
舞台袖に控えていた渡邉サト子は、いち早く異変を察した。地域の民音の中心者。ステージ上で徳徳瑪が、糸の切れたマリオネットのように崩れていく。
中国中央民族歌舞団の民音公演は、舞台裏で騒然となった。血相を変えた渡邉が駆け寄る。呼びかけても反応がない。「救急車!急いで!」
脳血栓で倒れた徳徳瑪を搬送する救急車が、済生会宇都宮病院へ吸い込まれていったのは、1998年(平成10年)4月2日の夜だった。
徳徳瑪が深い眠りから覚めると、病室の天井が見えた。
助かった・・・・・。
毎日、渡邉が見舞いに来てくれ、徐々に意思の疎通がとれるようになった。表情は冴えない。身体にマヒ。元のように舞台に立てるだろうか。もし歌えなければ、死の宣告に等しい。