舛田の雷が落ちた。「いま何て言った!」
あおいの身体が凍りついた。
クランクインした撮影現場で、ふともらした一言が引き金だった。
「もう僕は、まな板の上の鯉だから」
烈火のごとき監督の叱声。
「『まな板の上の鯉』だと?ふざけるな!鯉にするかどうかは、これから俺が決めるんだ。覚えておけ!」
あおいは映画人では新人。包丁を入れる鯉ですらない。慌てて腰を折った。「すみません!」
厳しい演技指導がはじまった。尾
アクション映画で鳴らした舛田組。ささいなしぐさ一つにも叱咤が飛ぶ。
「カット!あおいちゃん、そこ、もっと力強く!」
舛田には「山本伸一」の明確なイメージがあった。
「清潔。無垢。青年独特の精神の力強さ。これがないと駄目なんだ」
鬼監督の心意気に、あおいも必死で応えた。19歳の役に合わせ、長かった髪もバッサリ。ジャニーズ時代に見につけた演技は捨てて、ありのままの地を剥き出しにした。
撮影終盤。舛田好みの、何ものかに飢えた目つきの、あおいがいた。