帰国子女のつぶやき -13ページ目

帰国子女のつぶやき

日本ではわからないことだらけ。日本は大好き。日本の文化も大好き。でも日本の社会は戸惑うことばかり。

 

その日、午前中、社長室でメールの処理をしてた。

社長が突然聞いてきた。

「エイコさん、トランプ大統領をどう思う?」

 

突然のことだった。

 

ちょっと不意を突かれたけど、私は普段から思っている自分の意見を言った。

「トランプさんですか? 教養もなにもない、単なるbullyとしか思えないですね。とても世界のリーダーたる地位にふさわしい人間とは思えないです。」

 

「ブーリー?」と、社長。

 

「あ、すみません。 いじめっ子のことです。」

しまった。 英語分からない人と知ってて英語を使うのは、なんかその人に対してすごく失礼だよね。 いつもやっちゃう。 

 

「なるほど。 いじめっ子か。 どうしてトランプは教養がないと思うんだ?」

社長が興味深そうに聞いてきた。

 

「彼の就任演説を聞いたんです。 使っている語彙、言い回しなど一般民衆に分かりやすいよう、簡単な言葉をわざと選んでいるのかもしれません。 でも、あまりにも教養を感じないんです。 まるで中学生のような言葉づかい。 いや、中学生でも私立の学校にいってる子なら、もっと品のある言葉を使うと思います。 ケネディー大統領の就任演説を読んだことがあるのですが、品格が違いすぎます。 ケネディー大統領の就任演説は人を感動させます。 彼の演説はそのまま詩になります。 それに比べ、トランプさんは、アメリカ・ファーストって言ってるだけで、人類にたいする責任感や思いなど全く感じられませんでした。」

 

私は、「英語」という単語が出かかるところを、かろうじて「言葉」という単語で置き換えて慎重に話した。

 

社長が、真面目な表情になった。

「ふむ。 エイコさんは、尊敬する世界のリーダーは誰?」

 

ちょっと考えてから、私は言った。

「現職ではいませんね。 過去であげるなら、ケネディ大統領は尊敬します。 あとは、マーティン ルーサー キング。 彼は政治家ではなかったですが。 それと中国のチョウエンライです。」

 

「マーチン...........キング?」

 

「マーティン・ルーサー・キングです。アメリカの公民権運動で”私には夢がある”と言った人です。 暗殺されましたけど。」

 

「そうか、聞いたことはあるな。 で、もう一人は中国の?」

 

「チョウ エンライです。 日本語ではどうやって発音するのか知りません。 奥様を自分の戦友と呼び、最後まで民衆に寄り添った中国の首相です。」

 

 

「そうか。 ありがとう。 私も勉強しよう。 チョウエンライ? どういう字を書くの?」

 

ポストイットに書いて、見せた。

「ああ、周恩来か。 田中角平と会った人だ。 日本との国交回復を実現させた人だ。 そうか、周恩来を知っているのか。 君とは深い話ができる。 非常に嬉しいよ。」そんなような事を社長が言った。

 

「ありがとうございます。」

私は素直に嬉しかった。

 

「そうだ、今日は、来客もないし、他に予定もないから、たまには昼ご飯でも付き合ってくれないか? 何が食べたい?」

 

(ラッキー!) 「お寿司!」

 

そんなこんなで、社長が自ら愛車のBMWを運転して、空港にあるお寿司屋へ連れていってくれた。 工場が建ってるところは郊外で田舎だから、あまり気の利いたレストランとかはない。 でも車でちょっと走れば空港があるので、そこに行けばなんでもある。

 

ランチをとりながら、社長からいろんなことを聞かれた。

とりわけケネディーのどういうところを尊敬するとかを聞かれた。

私は人間性があるところだと答えた。

人間性のない政治家が多すぎる。みんな崇高な志をもって、政界に進出したはずなのに、政界に身を置く時間に比例して、その志の崇高さは汚れていき、人間性を無くしてしまうように思える。

でも、ケネディーや周恩来は違う。

そんなようなことを言った。

社長はずーっと私のいう事を聞いていた。

 

その日の社長はちょっといつもと違ってた。なにか深く考えることがあるようだった。 私には到底想像もつかない世界なのだろうと思った。 顧客のクレーム? 本社からの圧力? きっとすごい重圧に耐えているんだろうなって思った。

こういう時の男ってすごく魅力的。 何か深い考え事をしているような時とか、何かとてつもない大きなものと対峙しているような時。

 

と、社長は突然聞いてきた。

「エイコさん、仮にもしも。 もしもだよ? ものすごくとてつもない大きな力が、自分の組織に不利になるような動きをしてきた場合、君ならどうする? その力は到底、君一人では太刀打ちできそうもない。そんな大きな力が組織を潰しに来たら、どうする?無理難題を吹っかけてきて、それに従わないと、取り崩される。 到底、納得できる話ではない、でもそれに逆らえば、組織を潰される。」

 

「社長。。。」

私は、あまり真剣な口調だったので、ちょっと怖くなった。

 

「あくまで、もしもだよ。君ならどうする?」

社長の表情からはとても仮の話をしているとは思えなかった。

 

「。。。 道理は通じないという相手ですか?」私は確認の意味で聞いた。

「そうだ。」

 

「。。。こちら側には味方はいないんですか?」

 

「組織の外に味方になってくれるような、いわゆる援軍はいない。」

 

「わたしなら。。。」

と、言って、ちょっと考えて答えた。

「耐え忍びます。」

 

「どんな難題を吹っかけられてもか?」

表情を変えないまま社長が言う。

 

「はい。そうしないと路頭に迷う社員が何百人も出るんですよね?」

ふっかけてみた。

 

「うん。まあそうだ。」社長は言った。

やっぱり現実に起こってることなんだ。

 

「耐え忍びます。」

 

「そうか。」

 

「社長。。」

 

「うん。心配するな。 うちの会社のことではないよ。」

 

(嘘だ。間違いなく、この会社がそういう状況に直面しているのか、直面しつつあるんだ。)

 

この日から、私はちょっと変わった。 社長が一人で背負っている重圧に比べたら、総務課女子からの無視とか、パンクのタンデムとか、ものすごく小さいことに思えた。

 

仕事には不満はなかったけれど、かといって会社のためとか、そんな思いはこれっぽちも持ち合わせていなかった。

もう少し、社長の力になろうと思った。

 

食事を終えて、社に戻った。

社長が工程をパトロールに行ったので、私は久しぶりにミキさんに連絡をとった。 メールはまずいから、ラインで。 

「お疲れ様です。 やっと仕事に慣れてきました! 近いうちにお会いできたらいいですね!」とだけ送信した。

ミキさんは本社勤務。 会うには新幹線に乗って行く必要がある。

だからあくまで社交辞令。 とにかく今はミキさんしか、糸口がつかめない。

何が起こっているんだろう。

ミキさんから返信は5時を過ぎてからだろう。

 

結局、その日は返信もないままだった。

モヤモヤした気分だった。