このままじゃいけないことくらい洋もわかっていたが、脱出の糸口がみつからないのだ。

和江もまた祈り続けていた。

合えない時間、二人はスカイプで夜な夜な会話するようになった。


「和江、やっぱり、今日、休職願い出しちゃった」

「マジで?本気で言ってたの?」

「どうしても和江とは結婚したいから、いろいろこれからのこと考えるにもいい機会だと思って・・・それと、神経内科も念のため予約してきたんだ。専門家の意見も聞きたいなと思ってさ。」

「・・・・」

和江は絶句した。

結婚したい人間がすることなのか?

婚約するって時に神経内科?

改めて洋の結婚観、人生観が和江にはわからなくなったのだ。


「ねえ、今度一緒に祈ってみない?」


「祈るって、そんなことですむ問題じゃない」

結局、こんなときも宗教かよ。こっちは神経内科にまで通うって言ってんのに!

「今日はもう、疲れたから、また」

洋はむっとしてそのまま切ってしまった。

実際、和江の宗教にもややうんざりしていたのだ。


数日後、二人はリフレッシュも兼ね、ジムへ行った。


「一ヶ月のオフっていいもんだな~」

和江はこの返事には正直何も言えなかった。

これから、結婚して、子どもできたりして、もっと大変なことだってあるのに、この人は何を考えているんだろう?

「1ヶ月後は会社に復帰できるの?いじめはおさまらないよ、周りを変えたいなら自分が変わらなきゃ」

「だから、リラックスして考えてるじゃん。」

「考えてるの?将来のこと?今のこと?上司のこと?どうやって今の状況変えるの?」

ストレッチを早々に終えた洋は一人、バスケットボールを持って体育館へ行った。

どうしていいかわからなくなったのだ、何度シュートを打っても何を考えたらいいのかわからないのだ。

和江に言われた言葉が理解できそうでできない自分が居るのだ。


「俺、情けないね、こんなんじゃ結婚できないかな?」

「ごめん、ちょっと言い過ぎた、結婚したければできるよ、二人で頑張ろう」と和江。


といったものの洋は和江が何を考えてるかもわからなくなってきたのだ。

これを機に、自分は情けない人間だと次第に思うようになっていった。


和江もまた、ここが勝負と会社ではセクハラとパワハラに立ち上がったのだ。

和江の会社は大手だが、大手だからこそ立ちはだかる壁も大きかったのだ。


まずは会社に設置してある苦情ボックスに部長のことを書いてポストした。

そうすることで会社の調査委員会が動くということを小耳にはさんだのだ。

しかし軽率な行動はとれない、部長の首もかかるかもしれない大事、一人の人を退職に追い込むようなことをするのは和江も心苦しかったが、今までの女子社員に対するセクハラに加え洋とのことも許せなかったのだ。

和江は慎重かつ大胆に行動を起こした。



「実は俺、今、仕事きついんだ。」

「どうしたの?」

「部長の佐藤さん、知ってるよね?なんか俺たちが付き合ってること気に入らないみたい」

「関係ないじゃん、そんなの。なんかうちの部長もほえてるけど、無視だよ。」


でも、洋はそういうわけにいかなかった、どうせ、和江は派遣、結婚すればやめるだろうし、そこまで仕事にたいしての責任なんてないし。

洋はこの会社とはずっと付き合うつもりで入社している、今更、やめたくもない。

和江とは結婚したい、でも上司にいじめられている、先のことが不安でたまらなくなってきた。


一方、和江も部長からパワハラとセクハラを受けていた。

パワハラとは洋とのこと。


「うちの大事な女子社員に手出すなんて許せないな~頼みますよ、佐藤さん」

「うちのにはよく言ってあるんで、勘弁してくださいよ~」


潔癖な性格の和江はこの会話に我慢がならなかった。

しかも、社員たって派遣だし。


部長のデスクに詰め寄った和江、


「私のプライベートに口出すのやめてください、私の自由です。」

「どうせ、わかれるんだから、そのたびに会社辞められたらこっちだってたまんないんだよ、悪いことはいわない、やめときな。」

「大きなお世話です、そうやって彼の会社に圧力かけるのもやめてください、続けるなら私も考えます」


派遣の身でよく言ったものだと、同僚たちはあっけにとられていた。

まして、考えるってなんだ?

やめる以外の手段なんてないだろうに。。。

やめるのか?


しかし、事態は悪化した。

洋への圧力はとどまることがなかった。

結婚を目の前にして、なんでこんなパワハラに?

俺が何をしたんだ?


「俺も失敗するのがわるいんだけど、部長のいじめが止まらないんだ、ちょっとしたことでも怒鳴られるし、俺も完璧にことを済まそうとすればするほど、失敗するし、会社に行くのが怖くなってきた。明日休もうかな?」

「何行ってるの?学校に行きたくない子どもみたい、大人なんだから、そんな理由じゃやすめないでしょ~、とにかく、あなたのために祈るわ」

祈るって・・・そんなんでことが収まるわけないだろう、いつもいつも宗教って、こんな時まで・・・

正直、彼女の宗教にもうんざりしていた。

彼女がやたらと強気なところも腹ただしかった。

今までこれといった試練のなかった二人、結婚を前にことが急展開し始めたのだ。

「私と付き合うには条件があるの」


と切り出した女、和江、27歳。


切り出された男、洋、28歳。


「条件・・て?」


「私ね、ある宗教を信仰してるの、で、それを理解してもらえないと付き合えないってこと、きっと活動ななどで週末も会えなかったりするかもしれないから、事前に了解してもらえたら、活動もしやすいしね」


「す、すごいな、付き合う前に条件提示してきた人は初めてだ」


洋はごく平凡に生きてきた男、和江とは会社の取引を通じて知り合ったのだ。

条件は宗教を理解すること、それを飲み込んでも付き合いたいほど和江はいい女に見えたのだ。

きりっと大きな目に知的な魅力を感じた。

もちろん、条件を提示するくらいだからよっぽどいい女なのだろうとも思ったのだ。


こうして出会い、会社での取引もあり仕事を通じてもよく会い、二人は結婚を前提に付き合うようになった。


洋は彼女の両親や家族ともすぐに打ち解けられた。


彼女のお父さんがまた、酒好きで性格のいい人だった。

お母さんはちょっとキツ目の性格をしていたがそれは和江の性格とも似ていた、親子なわけだ。


和江もまた、洋の実家によく遊びにいき、結婚を前提としたこのカップルはまるで、結婚前提のカップルのモデルのようでもあった。


もちろんその間、彼女が信仰している宗教というやつの話もした、和江は熱心な信者だった。

よく、会合などにも出かけていたし、それで日曜がつぶれることもよくあった。


しかし、そこは条件をのんで付き合った洋にとっては我慢しなければいけないところだった。


和江の家族も熱心な信者で、両親は幹部にもなっていた。


その家族が洋に信仰を薦めることは一切なかった。


付き合いが約2年に及ぼうとしたころ、いよいよ正式に婚約というところまで二人はきた。


洋はウキウキで指輪選びに余念がなかった。


一方、和江は結婚はしたいんだけど、洋のウキウキが理解できなかった。


結婚が一筋縄ではいかないことがよーくわかっていたからだ。


もちろん、大変だからという理由でためらっているわけでもなかった。


そう、引っかかっていたのは宗教だった。


付き合って約2年、理解をしてもらおうと本を買って渡したり、会合に連れ出したりといろいろ試みたがどうも洋の反応はいまいちだった。


和江にとってこの宗教って言うのは人生だった、これによってさまざまなことに助けられ、試練に向かわせ、挫折も乗り越えてきた、人に尽くしたり、感謝したり、勇気をもてたりと、深いものであった。

それを洋が理解できているのか不安だったのだ。


洋がなぜ和江を好きなのか、不安になったのだ。


エンゲージブルーなのか?