電力不足の混迷と「ロシアリスク」 | ニューノーマルの理 (ことわり) Powered by Ameba

電力不足の混迷と「ロシアリスク」

タイ政府が日本に火力発電設備を丸ごと貸してくれる、という報道 があった。世界的にも稀な出来事で日本国内で8月中の稼働を目指すという。しかも無償レンタル、という事になっている。


これらは工場プラント用の発電設備のようで、比較的小型。よって、設置から発電までがスムーズな見通しになっているのだろう。供給電力は、2基合計で、24.4万キロワットとの事。これは国内政府の杜撰な対応に絶望感が漂う中での、海外政府からの大変有り難い話になる。

で、国内において気になる情報としては、タイから送られてくるその設備同様、やはり火力発電所の復旧状態になる。 その理由としては、IEAが「石油火力発電で原発故障の電力不足を補える」、という声明を出しているからに他ならない。

という事で、29日(16時)発表の「東電プレスリリース 」を確認すると、原発以外の発電所状況は以下のようになっている。


【火力発電所】
・広野火力発電所 2、4号機 地震により停止中
・常陸那珂火力発電所 1号機 地震により停止中
・鹿島火力発電所 2、3、5、6号機 地震により停止中

【水力発電所】
・電気の供給については、すべて復旧済み
 (ただし、設備損傷箇所については、適時対応中)

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以上のように、水力発電所は全て復旧済み。 焦点の火力発電所は、上記3ヵ所の計7基が停止中となっている。


 ニューノーマルの理 停止中の火力発電所は、すべて中央火力事業所の管轄になるわけですが、立地的にも津波の影響がある事が確認できる。

今現在、広野・常陸那珂・鹿島の3つの火力発電所が停止中、という事ですが、鹿島が4月中に復旧見込みという事で、広野と常陸の故障が問題になっているようだ。

今現在、東電のこの2つの発電所に対する見解は、「復旧の目処が立たないほど壊れている 」といったもので、電力としては480万キロワットのマイナスになる。

(広野→5基セットでないと稼働不能) ニューノーマルの理


で、東電は今現在、「夏場の供給可能電力が4650万キロワット、需要電力が5500万キロワット」という予想を立てており、差し引き「900万キロワットの不足」という見解を出しているわけですが、その一方で「国民の節電努力で今現在、2割ほど需給電力が下がっている」とも言われており、それを考えると数字的にはカバーできる計算になる。(供給4650万キロワット/需要4400万キロワット)


ただ、需給関係が均衡しているという事を考えれば、やはり広野と常陸那珂の復旧は必須条件になる。 しかしながら東電は今現在、2つの発電所に関して「共に復旧の目処が立たない」としている。

立地的に、この2つの火力発電所が破損するのは当然のように思える訳ですが、この2ヵ所の電力が国民生活に直結する事を考えれば、復旧に関して全力で挑まなくてはならない状況にある訳で、「復旧できないほど壊れている」というのが仮に本当だとすれば、その説明責任があって然るべきだと言える。


それではこの2つの発電所に関してどういう説明が成されているのかと言うと、広野火力発電所に関しては「避難指示圏内なので復旧作業が困難」、としており、常陸那珂に関してはハッキリした状況説明はなされないまま「復旧困難」となっている。

これは言い換えると、「広野には近付く事ができない」という事であって、「復旧できないほど壊れている」という言い分がどこから出てきているのか分からない。

実際のところは、「近付いていないのでどこまで修復可能なのか分からない」といったところになるのだろう。 常陸那珂に関しても、説明が無いところを見ると本当に修復不可能なのかどうかよく分からない。


で、どちらにしても東電発表の数字では、需給量が均衡しているように思える訳ですが、冒頭で言及したIEAの見解 はというと、以下のようになっている。(以下ロイター)


東日本大震災に伴う原発事故を受けて、国際エネルギー機関(IEA)は15日、日本は原子力発電の不足分を補うだけの十分な石油火力発電による余剰能力を有している、との見解を示した。


IEAは月次報告書で「実際には、液化天然ガス(LNG)および石炭も使用することで需要に対応できる可能性が高いが、LNG、石炭の両セクターにおいては余剰発電能力がより限定的であるようだ」と指摘している。


IEAの推計によると、日本は2009年に石油火力発電能力の30%しか使用しておらず、平均で日量36万バレルの原油・燃料油を使用し、100テラワット時余りの電力を生産した。 IEAは「60テラワット時の不足分すべてを石油火力発電で補った場合、石油消費量は年間ベースで日量約20万バレル増加する見通し」としている。 (以上ロイター)

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簡単に言うと、「LNGと石炭を燃料とした火力発電では生産能力が限定的。石油火力発電であれば、原発停止による電力不足を十分補える」というIEAの見解になる。


新しく出てきたテラワットという単位ですが、「1テラワット=1兆ワット」という事で、これで計算すると東電が夏に足りないとしている900万キロワットは、わずか0.009テラワットという事になる。 

 ニューノーマルの理

仮にIEAの言う、「09年には石油火力発電能力の30%しか使用せず100テラワット」というのが本当なのであれば、電力需要に対する電力供給には何の問題も無いように思える。 

しかし、このIEAと東電の「隔たりある数値」に関し、公表数値の根拠を調べる事は、一般人には到底不可能なので、実際の真偽を測る事は難しい。

ただ普通に考えると、IEAのような由緒ある国際機関が、何の根拠もなく他国の政策にわざわざケチを付けるような事はしないだろう。 


どちらにしても、東電に求められるのは、広野と常陸の火力発電所がネック、と発表しているのであれば、その破損した2カ所の火力発電所に関する情報を、もっと国民向けに発信しなくてはならないし、国民としてもその辺りは、東電及び政府に対して徹底追及しなくてはならない。



ロシアリスク


ちなみに、(IEAの言う)生産能力が限定的というLNGに関してですが、ロシアが事故直後から積極的に供給を申し出てきている事に関して「友好的」だと感じた人はけっこう多かったのではないだろうか?

これに関しては、日本政府が事故を受けて、ロシアにLNG供給増を要請した、といった報道 もあった。


 ニューノーマルの理 しかしながら、エネルギーを巡るロシアとEUの過去を見れば、ロシアがエネルギーを政治的な武器として利用してくる事が(将来的に)予想される訳であって、さらには原発の代替エネルギーが今後、一層注目される事を考えると、今回の日本の事故はロシアにとっては絶好のビジネスチャンスという事になる。 

日本としてはサハリン2 の苦々しい過去等もあり、ロシアに対するエネルギー依存を高めるならば、ロシアによる権益譲渡だのLNG価格ハネ上げ等の、将来的なリスクを考えなくてはいけなくなる。


一旦はロシアに供給増を要請した、という日本政府ですが、その直後に計画停電に踏み切り、その後、ロシアからの一方的な報道しか目にする事は無い。 ひょっとすると日本政府は、将来的なロシアリスクを踏まえた上で、ロシアへのエネルギー依存を躊躇しているのではないだろうか? ロシアが何かと「ゴネてくる」事は想像するに難しくない。 (個人的見解です)