> 普通に考えたら入試レベルの文章を読むことができれば小説くらい楽に読めるはずなんですけどね。

 

学習指導要領によると、中学と高校あわせて3000語程度の単語を学習することになっています。平成16-28年に実施されたセンター試験の英語問題では約4900個のユニークな単語が使用されていたそうです。過去12年間のセンター試験の英語を「必死で勉強して合格した人」は、シャーロック・ホームズとワトスンが初めて出会う推理小説「緋色の研究」を楽に読めるでしょうか?

 

以下に記した英単語はA Study In Scarlet(by Arthur Conan Doyle)に出てきますが、11000ワードファミリー以上の難語(低頻度語)です。センター試験でほぼ満点を取った高校卒業生でも、これらの単語の意味はおろか、見たことすら無いと思います。念のために書いておきますが、ホームズが活躍する探偵小説は純文学ではありませんよね(笑)。これらの単語を知らなくても本を読めますが、「入試レベルの文章を読むことができれば小説くらい楽に読めるはずなんです」という考えが的外れである例として挙げてみました。

 

accost, accursed, adieu, affectation, alkaloid, altercation, aneurism, aortic, appertain, apropos, bade, baleful, bandy, bated, belladonna, bespeak, bier, billet, bloodhound, bodkin, broadcloth, brougham, buckshot, buckwheat, bullock, bumptious, cabby, cavalcade, cesspool, chaparral, circlet, commiseratingly, commissionaire, corpuscle, cravat, crone, cudgel, curtsey, decamp, decrepit, defile, delirium, demeanour, desultory, deuce, dexterity, diffidently, disarrange, disconsolate, disquisition, disreputable, distend, domicile, droves, dunderhead, effusion, eke, emaciate, enteric, entreaty, epileptic, epitaph, expostulation, fain, flaxen, florid, forelock, gout, grizzle, haggard, halcyon, hansom, haunch, headstrong, heifer, imbed, inarticulate, incredulity, indefatigable, indomitable, ineffable, infantile, inimitable, irretrievably, janitor, kith, larch, lath, lieder, livid, lode, lynx, malcontent, marchioness, menial, mete, mew, mica, mildew, minatory, misdeed, necromancer, neigh, nigh, nondescript, omnipotent, omniscient, paroxysm, peal, pedlar, pensively, personage, pinafore, pined, pinion, piquant, portmanteau, prattle, precipice, presentiment, privation, puerile, quadrangle, querulously, rascal, remonstrance, remonstrate, roan, ruse, rusticate, rutted, sallow, scoundrel, scrunch, sententious, sere, showy, shrivel, skein, skulk, slush, sombre, sonorous, spry, stolidly, sup, surety, taciturn, thence, tiding, torpor, tress, tussle, twaddle, typhoid, ungodly, unkempt, velveteen, visage, vouch, waif, warder, whither

 

2020年度から始まる新学習指導要領では、高校卒業までに指導する英語の語彙数が現在の3000語程度から4000~5000語程度に増えるそうです。それでも、ネイティブが普段読む本の語彙レベルには遥かに及びません。

 

論文集「高専教育」第30号(2007.3)の表2によると、豊田工業高等専門学校の標準的な学生は3年間で~40万語に相当する読書をしていますが、その難易度YLは1.0~2.0です(見出し語は300~600語)。多読で有名な豊田高専の「標準的な学生」が楽に読めるのはネイティブ向けの大衆小説ではなく、英語学習者のために語彙を制限したグレイディッド・リーダーです。

 

> 普通に考えたら入試レベルの文章を読むことができれば小説くらい楽に読めるはずなんですけどね。
普通に考えたら、入試レベルの文章を読むことができる英語が得意な高校生でも、楽に読めるのはPearson's Graded Readersのレベル4ぐらいまでだと思います。違いますか、鈴木さん?

 

Average English native speaker vocabulary by age(all participants)というグラフによると、英語を母国語とする9歳児は12398語のボキャブラリーを身につけています。高校を卒業して大学1年生になった日本の18歳が持つ語彙数は、ネイティブ9歳児の半分以下です。ですから、普通に考えたら、大衆小説といえどもなかなか「楽には読めない」のです。Chick litやbeach readsなどネイティブにとって気楽に読める本でも、日本人にはなかなか楽には読めません。

 

大衆小説には句動詞や熟語・慣用表現などが多く使用されていますが、今日のブログ記事ではそれを考慮していません。さらに、現行の学習指導要領で3000語程度を学習すると言っても、英単語が持つ複数の意味をすべて学ぶわけではなく、各単語あたり1つか2つでしょう。Receptive vocabularyが数千語であっても、ネイティブと日本人では、その知識の深さに大きな差があります。高校生に多読指導している英語教員なら、普通に考えたらこんなことは常識だと思いますけどね