「英国第一の詩人」といえば、その答えは


シェイクスピア


で、ほとんどの人の意見が一致しているのですが、


「では、第二の詩人は?」


と聞かれると、意見が割れるところです。


ミルトン、チョーサー、テニスン、、、、


かの国は偉大な詩人を多数排出しましたが、英国の詩人を語る上で


バイロン


の名前は欠かせません。シェイクスピアに次ぐ第二の英国の詩人としてバイロンを挙げる声も少なくはないのです。

バイロンの生涯


少年期



バイロンは1788年に生を受けました。バイロンは生誕時より跛(びっこ)であったと伝えられています。


キリスト教の伝説では、悪魔が天国を追放され地獄に堕ちたとき、足を痛め、それ以来悪魔は跛になったのだとか。


バイロンはその後、詩作によって同時代人から「悪魔」とも「天使」とも呼ばれるに至るわけですが...


いずれにせよ、バイロンは少年期、跛であることを非常に気にしました。跛が彼の精神に及ぼした影響は大きかったようです。


バイロンは母と共にスコットランドに移住し、そこで初等教育を受けました。


バイロン10歳のとき、彼は叔父より悪名高い「ロード・バイロン」の称号と財産を受け継ぎます。


その後、母とともにイングランドに帰郷したバイロンは、ヘンリー8世によりバイロン一家に寄贈された土地、ニューステッドで暮らし始めます。ニューステッドでの彼の家は廃墟のようで、少年バイロンはその景観を非常に気に入っていたとのことです。


ケンブリッジ時代



Harrow校での学校生活を終えた後、バイロンはケンブリッジへと進学します。


ケンブリッジ時代、バイロンはロンドンで派手な遊蕩に耽り、それが元で多額の借金を抱えます。1806年、彼はそれまで書き溜めた詩作を整理し、それらを「Fugitive Poems」と題し個人出版します。


またこの時期バイロンはケンブリッジでホッブハウスという親友を得ます。バイロンはホッブハウスから政治的影響を受けたとされています。この時期バイロンは遊蕩の限りを尽くし、健康上の危機に瀕するほどでした。


1809年、バイロンはホッブハウスとともにヨーロッパ大旅行に乗り出します。彼を一躍有名にした「チャイルド・ハロルドの巡礼」は、この大旅行の経験を元に書き上げられました。


このヨーロッパ大旅行中、バイロンにとりわけ強い印象を与えたのがギリシアでした。後にバイロンはギリシア独立戦争に身を投じることになります。それほどバイロンのギリシアへの思い入れは強かったということです。


1811年、ロンドンに帰ったバイロンは母の死を経験しますが、同時に政治への進出を果たします。この頃に出版された「チャイルド・ハロルドの巡礼」は欧州でベストセラーになり、「詩人バイロン」の名がヨーロッパに響きわたりました。


結婚、そして追放



美形で跛の、哀愁と情熱を併せ持つ若い詩人。


そんな彼は社交界の女性達の心を捉えてしまいます。


彼女達との色恋沙汰は詩人にインスピレーションを与えましたが、そんな嵐のような情事から逃れるように、バイロンは1815年、アンネという女性と結婚します。


しかし、結婚生活は順調ではありませんでした。ニューステッドの不動産売却の予定は遅れ、借金返済に苦しみ、やけ酒を飲むようになったバイロン。そんな荒廃した彼を異母姉弟のオーガスタが訪問します。

オーガスタ


ちなみに、このオーガスタは、バイロンが「理想の愛」を求めた相手でもありました。


異母姉弟でありながら、別々に育てられたバイロンとオーガスタは、お互いを姉弟のようには思えなかったようです。そして、彼らの間には実際に恋心が生まれていたようでした。


バイロンのオーガスタに対する愛慕の感情は、







という手紙から読み取ることができます。


バイロン夫婦に長女エイダが生まれますが、アンネはエイダを連れて親元へ帰り、バイロンに「帰宅するつもりはない」と伝えます。その理由は明白ではありませんが、バイロンとオーガスタの「関係」を示唆する噂が飛びかり、結局バイロンは離婚に踏み切ったのでした。


それからバイロンは再び英国を去り、二度と故郷の土を再び踏むことはありませんでした。


その後、ギリシア革命に身を投じ、そこで命を落とすまで、バイロンは欧州の各地を周り、シェリーなど当時の詩人達と交友しました。


作品紹介



バイロンの作品のなかに「Hebrew Melodies」という旧約聖書を題材にした作品があります。ここではその中から


When Coldness Wraps This Suffering Clay


という詩を紹介したいと思います。


「情熱の詩人」として知られるバイロンですが、「Hebrew Melodies」は静かな印象の作品です。バイロンという詩人の幅の広さを感じさせてくれます。


バイロンの代表作を一つ選ぶのであれば、おそらくもっと適切なものがあるはず。あえてこの作品を選んだのは、正直なところ完全に自己満足のためです。汗


英詩の翻訳は困難を極めますが、頭に大量の汗をかき、頑張って訳を付けてみました。


一風変わった内容の詩ですが、たまにはこういうのもいいんじゃないでしょうか。



When Coldness Wraps This Suffering Clay


   When coldness wraps this suffering clay,

                  Ah! whither strays the immortal mind?

          It cannot die, it cannot stay,

                  But leaves its darken’d dust behind.

          Then, unembodied, doth it trace

                  By steps each planet’s heavenly way?

          Or fill at once the realms of space,

                  A thing of eyes, that all survey?



          Eternal, boundless, undecay’d,

                  A thought unseen, but seeing all,

          All, all in earth or skies display’d,

                  Shall it survey, shall it recall:

          Each fainter trace that memory holds

                  So darkly of departed years,

          In one broad glance the soul beholds,

                  And all, that was, at once appears.



          Before Creation peopled earth,

                  Its eye shall roll through chaos back;

          And where the farthest heaven had birth,

                  The spirit trace its rising track.

          And where the future mars or makes,

                  Its glance dilate o’er all to be,

          While sun is quench’d or system breaks,

                  Fix’d in its own eternity.



          Above or Love, Hope, Hate, or Fear,

                  It lives all passionless and pure:

          An age shall fleet like earthly year;

                  Its years as moments shall endure.

          Away, away, without a wing,

                  O’er all, through all, its thought shall fly,

          A nameless and eternal thing,

                  Forgetting what it was to die.



Lord Byron




『この肉体を死が冷たく包むとき』


この肉体を死が冷たく包むとき

ああ!不死の魂はどこへ彷徨うのだろう?


魂は死ねず、留まれず、

暗くなった灰をあとに残して旅立つ。


肉体を失った魂は、

あらゆる天体の軌道を辿るのであろうか?


それとも、全てを見渡す目となり、

宇宙空間を瞬時に把握するのか?


永遠に、縛られることなく、朽ちず、

見えないが、全てを見つめる精神となり、

魂は天地の森羅万象を見つめ、想起するであろう。


ただかすかに思い出される遠い歳月の記憶。

魂はその全てを一瞥のうちに見る。

過去に存在した全てが一瞬のうちに出現するのだ。


創造主が地上を生物で満たす前、

その「混沌」を魂の瞳は遡るだろう。


そして、宇宙の遥か彼方で生まれた天体の軌道を

魂は巡るであろう。


未来に生まれ、そして滅びるもの、

その全てを魂の瞳は見るであろう。


太陽が燃え尽きても、宇宙の秩序が崩壊しても、

魂は永遠に変わることなく。


愛を超え、希望を超え、憎しみを超え、恐怖を超え、

魂は生き続ける、心動かされることなく、純粋に。


時代は一年のように過ぎ去り、

その歳月は瞬間のよう。


遠くへ、遠くへ、

翼はないが、全ての上を、全てのなかを、

死を忘れ、魂の想いは飛ぶ。

名も無き永遠の存在。