化粧品の価格と暗示効果 | 外資系 戦略コンサルタントの着眼点

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先日は日経新聞をもとに、価格設定が行動に与える影響について書きました。
(その記事はこちら 。)

こうした価格の影響は、化粧品のような心理的な効果が強い商品で見ることができます。

化粧品は価格のわりに原料費は小さく、その10-20%ぐらいです。
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万円の化粧水や美容液であれば、だいたい原材料費は1000-1500円程度と考えれば、そんなに大差ありません。

たとえば化粧水の原材料を見ると、水、グリセリン、BG9割を超えます。
グリセリン、BGはしっとり感を出すための溶液ですが、原価は数十円ぐらいで、ここにコラーゲン、ヒアルロン酸、セラミドなどを入れて完成です。

価格と10-20
%の原料費の差分は、容器代、美容部員人件費、マーケティング費用+一部研究開発費に充てられています。

一般的な消費財では1,000円のものを1万円以上で購入するということは普通はなく、価格はある程度減価で規定されますが、化粧品の場合は価格自体が心理的な効果を持つため、こうした価格であっても受け入れられます
(実際に原価を知っている消費者は少ないですが、薄々は気づいています。ですのでちふれのようなブランドも出てくるわけです)

日経新聞の記事でも紹介したダン・アリエリーは、こうした価格自体の効果について興味深い実験をしています。

ペーパーテストを受けるグループにまったく同じ栄養ドリンクをあるグループには定価で、他のグループには1/3の価格で提供する実験をしましたが、その結果、定価で飲用したグループからは疲れが少ないと報告があっただけでなく、その後受けたテストの結果も実際に良くなりました。

また同様の実験を痛み止めでもしたところ、やはり価格の高い薬を飲んだグループが痛み止めの効果があると答えています。

要は価格には自己暗示効果があり、それがテストの点数さえも左右する程の力を持っているということです。

これは化粧品でも同じことが言え、たとえ同じ原料を使っていても、より高価な容器で高い価格で提供すれば、それだけ効果があるという暗示効果を持ち、良いものだと消費者は感じるわけです

そうだとすれば、価格が低いことが必ずしもいいわけではなく、高いことにも価値があると言えます。これを逆手にとりすぎると詐欺と呼ばれますが。 

だからこそ、あれだけ“ちふれ”が「適性価格で化粧品を提供する」と約束していても、同じ成分のより高い基礎化粧品が購入されるわけです。

高級ブランドの場合、このような効果に加え商品が自己表現と自己実現の意味合いも持つため、さらに価格の意味合いが増すと言えます。
(これについては、以前、アメックスの例で書きました。その時の記事①記事②

たまに高級な化粧品は価格と成分が見合っていないのでは?という声も聞きますが、単純に原料と提供価格を比べればそう言えるかもしれません。
ただ、その高い価格自体が持つ効果も含めて価値だと捉えれば、価値と見合った価格で提供しているのではないでしょうか。

ここに価格設定の難しさと面白さがあります。