
ライブのプレッシャーから開放されたことにより、オレはようやく酒で気持ちよくなれるようになっていた。しかも、思っていた以上にライブが盛り上がってしまったのでたいそうご満悦であった。
オレたちは、ドラマーKの友人に教えてもらった映画で有名なコヨーテアグリーというBARの前にいた。(これまた、たまたま宿から歩いていける距離にあった)
映画を見た方ならお分かりであろう。カウンンターの上に女性が上って踊る(脱がない)あのコヨーテアグリーのモデルとなった店だ。これまた偶然、オレはこの映画が大好きであった。なにより主役の女性がとてもキュートだ。
オレは勇んで入口のドアに手をかけた。
「Hey, Checking ID!」
大男はドアの前を手でふさいでそう言った。
IDとは日本人旅行者にとってのパスポートのこと。オレは自分の全てのポケットをまさぐった。
無い……。
……そうだ。宿に楽器などをいったん置きに行った際、オレはポケットの物を全てテーブルに出した。そこにたしかパスポートもあった。酒も回り、ライブも終わった開放感から、「近所だから持っていかなくていいか、落としたら困るし……」などとオレは考えたのであった。
義務付けられているかどうかは知らないが、日本人が海外をうろつく際はパスポートを常に携帯しておくよう言われている。
オレは回れ右し、駆け出した。
オレのこんな振り向きざまダッシュを見たのは今も昔もこのときだけだと、当バンドのギタリストは言う。
映画の影響もあり、コヨーテアグリーは軽く観光スポットになっている。かといって地元民が寄りつかないということもなく、なかなかの混みようだった。しかしながら、映画のように足場もないほどの客が入っていたり、水を注文するとビールシャワーを浴びせられることもない。
カウンター上のダンスは名物だけにしっかりとやっている。アナタが希望するならばだが、最前列で彼女たちを見上げていれば、テキーラのショットを飲ませてもらうことも可能だろう。ただし、わかっているとは思うけれど、映画に出ているほどの美人ばかりとは限らないので注意。
翌日帰国のため7時には宿を出なければならない。しこたま飲んだオレたちは宿に向かって歩いた。
その角を曲がれば宿、というところで、レンガの壁のシブイBARを見つけてしまった。
せっかくだから……、今回観光らしいことほとんどやってないし……。などと理由をつけつつ、誰も拒む者もいなく、オレたちは吸い寄せられるように喧騒の中に埋もれた。
総じて、NYのBARにいわゆるボッタクリ店のようなところはない。大抵のBARは建物の1階にあり、外から様子が伺えるようになっている。客が誰もいなかったり、明らかに雰囲気が悪いところに思えれば入らなければいい。
個人的には東京の新宿や渋谷で知らないBARに入る方がリスキーに思える。
※NYのBARやCLUBはID提示が必須なので、飲むに行くときはパスポートを携帯しましょう。
結局、宿に帰ったのは2時とか3時だったと思う。
即効、布団に入るも時差ボケのため眠りが浅く、案の定、翌日は最悪の朝となった。
ニュージャージー空港の受付カウンターでのこと。
荷物を預けた際、担当したお姉さんというかオバさんがとてもフレンドリーな人で、「旅は楽しかった?」「また来てね」など少しばかり会話した。
挨拶をし、オレたち4人が出発ゲートに向かおうとしたとき、最後に彼女はこう言った。
「You are Brother?」
<訳>あなたたち兄弟なの?
……絶対、似てないと思うんですけどねぇ。。
ブリトニー・スピアーズとクリスティーナ・アギレラを見分けられないオレが言うのもなんだけどね。