
Ace of Clubs はCBGBのようにガイド本には載ってない店だ。つまり観光客は来ない。客はほとんどがNYの人間ということになる。
建物の1階はレストランの端にある階段を下ると、ライブスペースへの入口がある。
オレたちがまたしても早めに到着すると、すでにドアマンがいた。
「オレたちは出演者だ」と告げると、彼はロバート・デ・ニーロのように手を横に広げこう言った。
「Welcome NYC!」
CBGBに比べると店内は真新しい。広さはこちらの方が狭い。日本によくあるライブハウスと似た感じの作りだった。
PAと握手を交わし、片言の英語で打ち合わせをした。
心配だったのは、機材だ。CBGBのようにレンタルの手配はしていない。
「機材は大丈夫?」
オレはさっそくPAに確認する。
「おお、そうだったな。おおーい!」
彼はステージ上でセッティングしていたおそらくは1番目のバンドのギタリストに声をかけた。
「○×▲??……」
「Yeah I ●●×◆○???……」
「……◎、……、OK,OK」
早口のディスカッションが続いた。オレの語学力では何が何だかわからない。
「ベースのアンプだけダメだって……、演奏終わったらすぐ帰んなきゃいけないんだってよ」
「………」
ほーら、だからメールで言ったじゃんよーッ、ホントに大丈夫かってよってさぁ!!
がしかし、彼にひるむ様子はなかった。いたってケロッとしたもの。「No Problem」ただそれだけ。
結局、どうしたかというとベースはラインでつないだ。セッティングのときにステージを降りて聴いてみたが、べーアンを通したときの音となんの遜色もなかった。たぶんPA卓で歪みとかイコライザとかいろいろやっていたと思う。普段と異なる点は、ステージ上にベーアンが見当たらないというだけ。
おそらくこんなことはよくあることなのだろう。PAも慣れたものだった。本当に「No Problem」だった。
この日の出演は3バンド。オレたちの出順は2番目だった。一番目はVoだけが女性で、彼女はボンデージ風の服を着ていた。音はグランジよりのR&Rというところ。
ここで心配事が一つ……。
なんと演奏が始まった時点で客が2、3人しかいなかったのである。
NYで、いやいや日本でも無名のオレたちに集客能力などあるはずもない。この店に楽屋は無かったので(ステージ横の通路が荷物の置き場所だった)オレは客席で彼女らの演奏を見ていたわけだが、正直演奏どうこうよりも、客がもっと来ないかと、入口の方ばかりが気になっていた。