$R40 無名バンド NYへ行く



 オレたちは別に初めてライブをするわけではなかったので、セッティングに手間取ることもなかったし、難しい英語も必要としなかった。楽器を出して、アンプにシールドさして、各々ヴォリュームを調整するだけ。あとはPA様にゆだねますって感じだった。


 オレはモニターをとるのが苦手なのでいつも耳栓をしてライブをする。だから、ライブ中に聞こえるのは自分の声とフィルターがかったメンバーの演奏の音だけ、曲間でも客の歓声とか拍手はあまり聞こえない。

 しかしながら、目の前の光景はこれまでとは明らかに違って新鮮なものだった。客数は20~30人というところだろうか? 当たり前だが、全て外国人。日本人はおろかアジア人すら目につかない。お世辞にも満員とは言えない状態ではあるが何かが違う。オレは演奏中ずっと、逆光の照明の隙間にその答えを探そうとした。

 答えをみつけたのは演奏を全て終えて耳栓をはずしたときだ。日本のライブハウスの20~30人の拍手とは明らかにヴォリュームが違う。口笛、歓声(罵声かも)、両手を天井に向かって突き上げる者、1人1人のリアクションが大きいのだ。しかもそれらは、そもそもオレたち目当てで来た客のものではないのだ。こんなにアマバンド冥利につきることはない。

 ステージを降りた後は当然汗だく。旅疲れも含んでのことだろう、オレは楽屋でへたり込んだ。なんとかタオルで濡れた頭を拭った。

 ふと顔を上げるとトイレにでも行くのだろう、通路を歩く女性と目があった。彼女は超がつくほど魅惑的な目でオレを見ていた。普段、顔で売っているわけではないオレは日本でそんな視線など浴びたことがない。このときほど、日常会話程度レベルに達していない自分の英語力を悔いたことはない。



 片言の英語ではあるものの、メンバー中で一番抵抗なくアメリカ人とコミュニケーションをとっていたのはギターのTだ。
 彼は客の一人のカナダ人男性と話していた。オレも加わったところ、彼は日本のロック(特にギターウルフ)が好きとのこと。英語の練習がてらオレも
 いろいろと話をしたが、そのときすでに、しこたまビールを飲んでいたオレは内容のほとんどを覚えていない。

 何人かにハグもされたな。(全て男)トイレで髭面のスパニッシュ系にハグられたときは幾分危機感を抱いてしまったが。


 店にCDやグッズの手売りスペースがない場合は、メンバーの仲間がライブ後に手売りしている。
 オレたちもデモCDを用意していた。しかしそれは売るためではなく、フリーで配ろうとして持参したもの。ライブ後、何人か適当に目についた客に「ディス イズ フリー プリーズ」と言ってばら撒いた。それを見た別の客が「あ、オレにもくれよ」と寄ってくるのとてもうれしかった。ベタな言い方だが、本当に音楽に国境はないとオレが実感した瞬間だった。



 心残りがひとつ。

 帰国後に知ったことだが、当時、CBGBはライブを生でストリーミング配信していたのだ。
 今回のツアーにはメンバー以外の帯同者は0名。早朝とはいえネット環境があればリアルタイムでライブを見ることが出来たのである。

 というわけでツアー後、オレは何人かの熱心に応援してくれている友人らに怒られた。