$R40 無名バンド NYへ行く



 日本のライブハウスにはチケットノルマという制度がある。

 音楽をやっていない人のために説明すると、日本のライブハウスのステージに立っているミュージシャンは、お店からチケットを20枚とか30枚とか(金額と枚数は店の規模と知名度などによる)の購入を義務付けられている場合がほとんどだ。

 ミュージシャンはそのチケットを自ら手売りして客を呼ぶという仕組みなのだが。裏を返せば、客はゼロでもお店側の最低限の収入は保証されているというなんとも都合の良いシステムである。

 ミュージシャン諸君。耳をダンボにして聞いて頂きたい。


 これは、日本独自のシステムだ。


 一応、これはオレの知る限りということになるのだが、少なくともアメリカのライブハウスの人間に「チケットノルマはいくらですか?」と聞けば、「それって何?」と言われるのは確実だ。

 信じられない人もいるかもしれないが間違いない。なぜならオレたちはライブをやった2件の店には払ってないし、そもそもメール交渉の時点でそんな話は一切出てこない。(あえてこっちからも聞かなかった)

 ここを読んでNYライブをやろうと思っている人は、店の人に「ノルマ」のことは言わないようにしましょう。「お、そのシステムいいね……」ということになり、広まってしまえば、アナタはアメリカ中のミュージシャンに狙われることになるかもしれない。

 が反面、いくら客が入ってもバックはない。

 ※日本のライブハウスは、ノルマ枚数を越える集客があったとき、チケット料金の何割かずつをミュージシャンにバックする。

 なので、アナタたちのツアーの予算にチケット代というのは含まなくてよい。というか、NYのインディーバンドのライブハウスにチケットというもの自体が存在しない。店の前でチャージ(5~10$)をドアマンに払えば、手にスタンプを押されて「はい、どうぞ」って感じなのだ。

※注1 店を貸しきってイベント等を企画する場合はお金の交渉が必要でしょう。
※注2 メジャーアーティストやインディーでもかなり集客のあるバンドのライブではチケットがあります。



<なぜ日本はチケットノルマ制なのか?>

 NYのライブハウスのチャージは5$から10$(約500円~1000円)といったところ、15$以上だとそこそこ集客のあるアーティストだ。

 それに対し日本は1000円~2500円、差は明白である。

 例えば7~8$(実際、これくらいのところが多い)なら、目当てのアーティストがいなくとも、ある程度ライブハウスのカラーがわかっていれば軽い気持ちで入ることが出来るだろう。
 一方、日本だとそうはいかない。どんなヤツが演奏してるかもわからないのに1500円とか2000円払うのはあまりにもリスクが高い。一見の客がほとんどいない。それが日本のライブハウスの実状だ。

 最初、オレは日本(東京)の店の家賃が高いからか?と考えたが、そうではない。NYも東京と同等、いやそれ以上に家賃は高いし、日本の地方のライブハウスでもチケットが700~800円というところはまれだろう。

 日本のライブハウス業界は良くないループの上に成り立っている。

チャージが高い → 客が入らない → 店が運営出来ない → ノルマ制にするしかない

という図式だ。アメリカはこの逆、チャージが安いから客が入り、それで運営が成り立つ。

 かといって日本のライブハウスが勇気をだしてチャージをNY並みに下げたとしよう。
 店の運営は成り立つか?

 個人的な見解だが、「運営は成り立たない」と思う。

 理由は2つ、

 1.日本人はアメリカ人ほど酒を飲まない。(飲めない)
 2.日本人の音楽嗜好はメディアに頼る比重が高い。

 1はアメリカのBARやライブハウスに一歩でも足を踏み入れれば一目瞭然。男も女も飲むわ飲むわ食うわ食うわ、そりゃ太るよってこっちの具合が悪くなりそうになる。
 アメリカのライブハウスはBARやレストランを兼ねているところが多い。店の奥がライブスペースで、もれる演奏の音をBGMとして食事を楽しむことが出来る。もちろん食事やBARだけの利用客も大勢いる。演奏を見たい人は「ライブスペース前のドアマンにお金払ってね」というシステム。店の収益はライブチャージだけに頼らなくてもよいのだ。

 2については異論がある方もいるかもしれない。当初のオレの考えは、単純に「アメリカ人は日本人より音楽が好き」というものだったが、今ではそうではないと思っている。日本人だって音楽は好きである。街中にあらゆる音楽が24時間流れてるし、これほど外出時のヘッドフォン使用率が高い国民は他にいない。

 例えば、日本人は生の演奏を軽い気持ちで見る(演奏する)機会があまりなかったのだと思う。今でこそ駅前などに弾き語りのミュージシャンを目にするが、不快に思った人が通報すればすぐに警察が止めにくる。
 土地の狭さの問題もあるだろう。家で演奏しても隣人に怒られる。スタジオ代もバカにならない。自己表現にはお金がかかる。

 生の音楽に触れる機会が少ないのだから、必然とメディアの影響の率が上がる。新しい発見は常にTV、ラジオから、自分から店に足を運んでいろんなアーティストを発掘するなんて思いもつかない。生演奏のパワーを知らない。ライブは良く知っているアーティストのみ、たまに高いお金を払って見に行くものという図式が出来上がっている。


 オレと同じ考えに至ってる人は多いと思う。いやきっとこれに立ち向かうべく今現在も戦っている偉人は少なくないだろう。
 しかしながら、オレの目の前には今のところ成功例は現れていない。それほどに国民に根ざしている文化というのはやっかいなものだ。

 もし宝くじで3億当たったら(こんな話をしてるのは、子供か酔っ払いくらいだ)オレはNY式のライブハウスを作りたい。

 赤字経営は必死なのだろうが。