昭和ゴジラシリーズ第7弾。
邦画の斜陽期に入りつつある1966年制作の本作「ゴジラ・エビラ・モスラ 南海の大決闘」がいろんな意味でこのシリーズの分岐点だろうか?
<ストーリー>
南太平洋で遭難した兄の弥太(伊吹徹)を探すため、良太(渡辺徹)はヤーレン号というヨットで出航した。ヨットには学生の市野(当銀長次郎)と仁田(砂塚秀夫)、そして金庫破りの吉村(宝田明)が乗っていたが、出航後一カ月目に大嵐にあい、ヨットは転覆し、四人は海上に投げ出されてしまった。
4人は椰子の生い繁る孤島に流れ着いた。そこには世界制覇を目ざして原水爆を製造する「赤い竹」の基地があった。
4人はインファント島から労働力として連れてこられた娘ダヨ(水野久美)と一緒になった。インファント島では連れ去られた島民を連れ戻すためモスラを覚醒させようとしていた。
また島の洞窟の地下にはゴジラが眠っていたが「赤い竹」から追われている吉村らは雷を利用してゴジラを覚醒させた。
エビラとゴジラは凄じい決闘を展開し、インファント島で覚醒したモスラも島へ向かった。
ゴジラのキャラクターの変化と、本多猪四郎と伊福部昭の退場
昭和ゴジラシリーズ第4作の「モスラ対ゴジラ」まではゴジラは完全に悪役だった、
第5作の「三大怪獣地球最大の決戦」と第6作の「怪獣大戦争」で“キングギドラ”という超悪役の登場でゴジラの立ち位置は“人類にとっての脅威”ではなくなった。
同時に怪獣同士のコミュニケーションやシェ―のポーズまで披露して徐々にシリアスな面が消えていった。
そして、本作。
監督は本多猪四郎でなく福田純。
音楽は伊福部昭ではなく佐藤勝。
若大将シリーズの監督が多かった福田純に敬意を表してか安っぽいエレキギター風音楽が多く残念。
ある意味斬新な“そのまんま”デザイン
新登場の怪獣はデザインがそのまま過ぎるエビラ。
この後はクモンガ、カマキラスなど既存の小動物や昆虫のサイズが巨大化しただけのセンスも工夫もないデザインの怪獣が多くなる。(モスラも蛾だし、ラドンも鳥なのだが、“そのまま”ではなくデザインにひと工夫があったと思う)
舞台は都市ではなく南海の孤島 ミニチュアワークが物足りない
特撮は円谷英二なのだが、南海の孤島が舞台なので、特撮ではいつもの精巧なミニチュアワークによる都市部の破壊のシーンが無く残念。
大がかりなミニチュアセットはこの基地のみ
この桟橋の模型は見事(上が実写、下がミニチュア)
ひたすら寝ているゴジラとモスラ
開始から中盤まではエビラが数回登場するだけでゴジラもモスラもひたすら就寝中。
怪獣映画としては物足りないが、怪獣バトルでない宝田明や水野久美と「赤い竹」との闘いの部分が意外に面白かった。
開始から50分経過したところでやっとゴジラが覚醒。
ゴジラの覚醒のために持っていた武器の刀と水野久美が敵の武器貯蔵庫からアクセサリーとして持ってきた銅線を使うのはグッドアイデア。
武器の件と組み合わせて雷を利用してゴジラを覚醒させる
エビラが海の怪獣なので基本的に水の中でゴジラと闘う。
これは着ぐるみでは大変だっただろう。
岩のキャッチボールの闘い
その後、大きな鳥との闘いに勝利し「赤い竹」の戦闘機とのバトルではエレキのチープな音楽で踊っているような動きのゴジラで哀しい。
エビラとの最終対決は誰もが想像した通り両手ハサミ抜去で決着。
通りすがりのモスラ
そして、タイトルに名前が入っているにも関わらず、インファント島の住民が散々唄って踊っても、なかなか覚醒しないモスラ。
意地でも覚醒しないのは、「三大怪獣地球最大の決戦」でゴジラ、ラドンの説得に疲れ、怪獣バトルで働くのが嫌になったのか?
(一体全体何日間踊れば覚醒すのか?)
残り時間10分を切ったところでやっと覚醒。
しかし島民の救出に向かうだけで、ゴジラとは途中ですれ違う程度の登場で拍子抜け。
(やっと覚醒)
(島に向かう)
(このアングルは好き)
(ゴジラとすれ違って「さようなら~」)
この後のゴジラシリーズも、予算の関係からか怪獣映画は主に島を舞台とした作品が多くなり、出演者のグレードもさがり、本多猪四郎や伊福部昭もスポット的に復帰するが、円谷英二も病に倒れて映画から離れていって60年代後半で昭和ゴジラは完全なお子様向けの怪獣プロレスショーになってしまう。
まだ一般映画のスターも出演していたが小美人の変更が残念
主演は宝田明。鍵開けが得意な銀行強盗役。基地のあらゆる扉が宝田明の持っている針金1本であっという間に開いてしまうチープなセキュリティは笑っちゃうしかない。
そのほかは平田昭彦、田崎潤、天本英世、伊藤久哉、中北千枝子、沢村いき雄など、東宝特撮映画でおなじみの面々。
平田昭彦、田崎潤、天本英世
「赤い竹」はコスチュームといい、天本英世(死神博士!)の登場といいどう考えても仮面ライダーのショッカーの原型か。
伊藤久哉
(あまり出番なし)
中北千枝子
沢村いき雄
(またもや原住民!)
そして、インファント島の原住民役は東宝の娯楽映画では毎回のように我々観客を楽しませてくれる水野久美!
全編ビキニ姿で肌の露出度多し。褐色のドーランを縫ってもアイメイクがバッチリ。しかも、日本語ペラペラ、なぜか原住民同士の会話でも日本語使用。
しかし、小美人姉妹がザ・ピーナッツでないのが残念。歌詞が日本語なのも安っぽい。だからモスラが覚醒しないのか?
福田純監督は特撮映画以外の東宝娯楽映画では「100発100中」「吼えろ脱獄囚」「血とダイアモンド」「のら犬作戦」「怒涛一万浬」など傑作が目白押しなのに、特撮映画では昭和後期のゴジラシリーズ、「エスパイ」「惑星大戦争」など駄作連発の不思議な監督。
1966年 日本 カラー87分
【鑑賞方法】ブルーレイ CRITERION COLLECTION
【英題・原題】 GODZILLA VS THE SEA MONSTER
【制作会社】東宝
【配給会社】東宝
【監督】福田純
【脚本】関沢新一
【制作】田中友幸
【撮影】山田一夫
【音楽】佐藤勝
【編集】藤井良平
【美術】北猛夫
【特撮】円谷英二
【出演】
宝田明: 吉村(金庫破り)
水野久美: ダヨ(インファント島の娘)
砂塚秀夫: 仁田(大学生)
当銀長太郎:市野(大学生)
渡辺徹:良太
伊吹徹:弥太
ペア・バンビ:小美人
平田昭彦:警備隊長
田崎潤:基地司令官
天本英世:船長
伊藤久哉:白衣の男
中北千枝子:カネ
沢村いき雄:インファント島民