昭和の名優たちの共演

 

 

★★★☆☆

 

劇場公開時に鑑賞。大画面で見る厳しい自然の描写に圧倒された。

 

<ストーリー>

日露戦争開戦を前にした明治34年、第四旅団司令部では来るべきロシアとの戦争に向けて寒地訓練を行うことになった。

神田大尉(北大路欣也)率いる青森4連隊と徳島大尉(高倉健)率いる弘前31連隊が双方から出発し八甲田山系ですれ違うというスケジュールになった。

雪中行軍訓練を提案される徳島大尉(高倉健)と神田大尉(北大路欣也)

 

弘前31連隊は少数精鋭で10日間240kmを迂回して進み、青森5連隊は210名の大人数で3日間の予定であった。

大人数で出発する青森5連隊

 

青森5連隊は随行のはずだった大隊本部の山田少佐(三國連太郎)が案内人を拒否し命令を下したため指揮系統が混乱、さらに悪天候が重なり道に迷い多数の遭難者を出した。

案内人を拒否する山田少佐

 

そり隊に遅れが出始める

 

 

 

渓谷に迷い込み崖を登るが落下者が続出し多数の犠牲者が出る

 

発狂して裸になる兵士

 

吹雪の中、次々と倒れる5連隊の兵士

 

 

弘前31連隊は難所の犬吠峠では案内人(秋吉久美子)を雇い、徐々に寒さに慣らしながら、いよいよ八甲田へと入っていった。

 

 

 

 

 

 

公開当時、話題になっていたリーダー論は興味深かった。
 
主役の4人のキャラクターの描きわけが見事だった。
◉時には上官の要求をはねつけてまで自分の計画を通すが、案内人には温情を示す理想の上司:徳島大尉(高倉健)
◉誠実だが上官に逆らえず隊を遭難させてしまう哀れな中間管理職:神田大尉(北大路欣也)
◉序盤から命令に口を挟むパワハラ上司:山田少佐(三國連太郎)
◉中盤から頼れる兄貴のような名サポートを発揮する倉田大尉(加山雄三)

 

 

 

しかし、鑑賞後に新田次郎の原作を読んだら高倉健が演じる徳島大尉の印象が映画とは少し異なっていた。

 

映画の中で感動を呼ぶエピソードとして難所の犬吠峠を踏破するために雇った案内人さわ(秋吉久美子)に対して、徳島大尉が案内終了後も先頭に立たせて行軍したり、別れる際には“頭、右”で敬礼する場面がある。

 

案内人さわを先頭に置いたまま村に入る

 

案内人殿に対し、頭~。右。

 

きょとんとするさわ

 

しかし、原作の徳島大尉は案内終了後にさわを最後尾につけている。また他の案内人に対しても厳しい態度で接し、劇場公開版ではカットされたが、「完全版」では八甲田山の案内人の山谷初男や丹古母鬼馬二の案内人にも「八甲田で見たことは一切口外してはならぬ」と厳命し、わずかな案内料で追い払っているシーンもあった。

「八甲田で見たことは一切口外してはならぬ」

 

原作の徳島大尉は冷酷で厳しい軍人であり、行軍が成功した一因のように思えるが、劇場公開版ではこの厳しさが薄まってしまっているように感じる。

もちろん、遭難の原因はリーダーシップ以外にも天候の悪さや準備不足など複合的な要因あるだろう。

劇場公開版でも上官に対して自己主張を曲げない信念を持った一面も描かれていたので、脚色としては許容範囲内だと思うが、高倉健が主演なので、厳しい一辺倒ではなく人情味あふれる上官にしたのだろうか。

 

 

また31連隊の前田吟が5連隊で遭難した弟にピンポイントで遭遇するシーンも感動的ではあるが、あり得ないだろう

弟に雪中行軍の不参加を助言する斉藤伍長

 

宝くじに当たるぐらいのピンポイントの確率で弟を発見(ありえん)

 

 

また、橋本忍の脚本は、やたらと字幕による説明が多いのが気になった。

 

 

 

ラストシーン以外の字幕は不要なような気もするが・・・。

 

 

 

 

4K修復版のブルーレイで鑑賞したが、やはり雪のシーンでは俳優の顔の判別が難しいが、時折、はさまれる冬以外の季節美しい映像もアクセントになっており長時間あきさせなかった。

 

 

 

 

八甲田山の自然の厳しさや美しさをカメラに納めた木村大作の撮影が見事。

 

 

 

 

 

 

 

「月の砂漠」をモチーフにした芥川也寸志のテーマ音楽も耳に残る。

 

 

 

 

そして、何といっても、この映画の魅力は昭和の名優たちが適材適所で見せる名演技だろう。

 

◉高倉健

主役の徳島大尉を演じるには少し年齢が高すぎるような気がするが、このレベルの大作の主役はオーラのあるスターでないと務まらない。

前述のようにキャラクターが原作からやや変更されているが、“黙って耐える”姿は任侠映画の健さんのイメージと重なる。

ちょっと老けすぎかな

 

神田大尉の遺体と対面し涙を流す名シーン

 

 

 

◉北大路欣也

もう一方の主役である神田大尉の配役は、春日太一の「鬼の筆」によると当初は片岡孝夫(現:片岡仁左衛門)が想定されており、北大路は加藤剛、高橋英樹、中村吉右衛門などと並び次候補の一人だったようだ。

北大路欣也は今では大御所だが、東映時代劇の看板スター・市川歌右衛門の息子で、プリンス的な存在だったので、70年代の実録やくざ映画の主役たちのような荒々しさがなく、この当時は線が細い印象だった。

個人的には高倉健と対等に張り合う重量感がなく、残念なキャスティングだったが、押しの弱い中間管理職としては適役だったかも。

ただし、高倉健の家を訪ねる時に家で羽織を着る何気ない所作や、冒頭の旅団司令部に乗馬で向かう時に馬の上下動にうまく合わせているのはさすがプリンス。

どうしても健さんには負けてしまう

 

着物の着こなしが自然でよい

 

超有名なセリフ「天は我々を見放した」

 

 

◉三國連太郎

この憎まれ上司役の山田少佐を演じられる大物俳優は三國連太郎以外にはいないだろう。怪優の名を欲しいままにエキセントリックな悪役をやらせたらピカイチで、多くの出演者がスポーツ刈り程度の短髪なのに三國連太郎だけが五厘刈りに近い丸坊主だった。

頭髪も気合が入り五厘刈り

 

「青森湾だ」

 

 

◉加山雄三

倉田大尉はこの映画でもっとも美味しい儲け役。途中まではセリfがなく、中盤に5連隊がピンチになってから彼の決断や助言が隊の運命を左右し神田大尉以上の活躍を見せる。

最初に劇場で見た時は途中からいきなり登場の感がしたが、再見するとセリフが無いだけで、前半にも結構、顔が映っていた。

雪山に強い頼れる兄貴のような存在は、スポーツ万能な若大将の加山雄三にピッタリ。

行軍の出発前にも出てました(ただし気配消し中)

 

ピンチの時に頼れる兄貴

 

 

◉秋吉久美子

短い出番ながら強烈な印象を残す、犬吠峠の案内人さわを演じるのは、シラケ世代(死語)で現代っ子(これも死語)の秋吉久美子。

意外に和服姿が似合っていた。

 

 

◉加賀まりこ

徳島大尉の妻を演じ、近年のバラエティに出演している時のきついキャラクターは封印し、出番は少ないが和服の落ち着いた雰囲気で好演。このころから「泥の河」までの加賀まりこは美しい。

 

 

◉栗原小巻

神田大尉の妻を演じる夫や従卒の長谷部と絡み出番も多い。

純和風な顔立ちが美しい

「カイロの炭は5~6日分にしてくれ」

 

◉冒頭、数分間にわたっての状況説明をする大滝秀治。

 

 

 

◉唯一目的地に到達した緒形拳。一緒に行動する下条アトム。

 

 

◉最初の犠牲者になるそり隊の大竹まこと。

多分中央が大竹まこと

 

多分左端が大竹まこと

 

最初の犠牲も多分大竹まこと

 

 

◉軍の幹部には丹波哲郎、藤岡琢也、小林桂樹、神山繫、島田正吾などおなじみの面々

弘前31連隊の丹波&藤岡コンビ

 

青森5連隊の小林桂樹&神山繫コンビ

 

旅団長の島田正吾

 

 

◉70年代の大作映画に必ず出ていた加藤嘉と花沢徳衛

加藤嘉

 

花沢徳衛

 

 

 

 

 

カラー169分

 

【鑑賞方法】ブルーレイ 東宝

【原題・英題】Mt. HAKKODA

【制作会社】橋本プロ/シナノ企画/東宝

【配給会社】東宝

 

【監督】森谷司郎

【脚本】橋本忍

【原作】新田次郎「八甲田山 死の彷徨」

【制作】田中友幸 橋本忍 野村芳太郎

【撮影】木村大作

【音楽】芥川也寸志

【編集】池田美千子 竹村重吾

【美術】阿久根巌

 

 

 

【出演】

高倉健:徳島大尉

丹波哲郎:児玉大佐

藤岡琢也:門間少佐

前田吟:斉藤伍長

浜田晃:田辺少尉

加藤健一:高畑少尉

江幡連:船山見習い士官

樋浦勉:佐藤一等卒

北大路欣也:神田大尉

三國連太郎:山田少佐

加山雄三:倉田大尉

小林桂樹:津村中佐

神山繫:本宮少佐

森田健作:三上少尉

東野英心:伊東中尉

新克利:江藤伍長

下条アトム:平山一等卒

竜崎勝:永野軍医

江角英明:進藤特務曹長

佐久間宏則:長谷部一等卒

伊藤敏孝:花田伍長

緒形拳:村山伍長

島田正吾:友田少将

大滝秀治:中林大佐

栗原小巻:神田はつ子

加賀まりこ:徳島妙子

秋吉久美子:滝口さわ

加藤嘉:佐右衛門

花沢徳衛:滝口伝蔵

山谷初男:沢中吉平

丹古母鬼馬二:福沢鉄太郎

菅井きん:斉藤の伯母

田崎潤:鈴木貞雄

浜村純:中里村の老人