黒澤映画は娯楽時代劇が面白い

 

 

★★★★★

 

 

黒澤明の時代劇映画は「羅生門」「蜘蛛巣城」などの芸術性が高い作品、後期の「影武者」「乱」などの絵画的な美しさの作品群もあるが、自分にとっては「七人の侍」「隠し砦の三悪人」「用心棒」「椿三十郎」など娯楽性の高い作品の方が面白い。

 

 

 

<ストーリー>

ある宿場の跡目をめぐって、自分の息子に跡目を継がせようとする馬目の清兵衛(河津清三郎)と清兵衛の一の子分だった丑寅(山茶花究)が対立していた。

清兵衛にはやり手の女房(山田五十鈴)が、丑寅には暴れん坊の亥之吉(加東大介)と拳銃を持って帰ってきた卯之助(仲代達矢)がおり、どちらも多くの用心棒を雇って斬り合い宿場は閑散としていた。

そこに桑畑三十郎(三船敏郎)がやってくる。三十郎は権爺(東野栄次郎)の居酒屋に居座って、両方に自分を売りこみ、どちらも潰してしまおうと画策するが・・・。

 

 

 

 

「七人の侍」では時代劇のリアルを追及したが、本作は徹底的に面白さを追求している。

この映画が優れている点は、今までの時代劇にないオリジナリティと三船敏郎のアクションにあると思う。

 

 

 

オープニングの肩をゆすって歩く三十郎にかぶるダイナミックでバタ臭い音楽。

 

 

 

さびれて人通りのない宿場に到着したとたんに登場する手首を加えた犬。

 

そしてその後も、斬られて落ちる腕、人の肉を切る音、とどめを刺すための二度斬り

顔面ボコボコの三十郎

 

 

過去の様式美のチャンバラ映画とは完全に一線を画す泥臭い活劇。

マカロニ・ウェスタン(「荒野の用心棒」)が飛びつくわけだ

 

 

 

ラストの決斗もありきたりな刀対刀ではなく、拳銃対包丁というのもユニーク

 

 

 

 

 

 

 

仲代達矢のマフラーのように適度にリアリティがないのも、娯楽映画に徹していて、むしろ好ましい。

 

 

 

そして三船の豪快さ、殺陣のスピードが尋常ではない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

脇の登場人物のキャラクター、そして演じる俳優たちも素晴らしい

 

 

◉三十郎のライバルの卯之助(仲代達矢)のニヒルな切れ者ぶり

 仲代達矢は「七人の侍」でセリフなしの通りすがりの浪人役で散々黒澤監督にしごかれた嫌な思いでから最初は出演を断ったそうだが、抜群の存在感でこの後、黒沢組の常連になる

マフラーがポイント

 

卯之助と三十郎の初めての出会い

 

 

 

◉暴れん坊の亥之吉(加東大介)

 やりすぎメイクと、ちょっととろいキャラクター。加東大介は「七人の侍」で演じた勘兵衛の右腕:七郎次とはまったく異なるキャラクターを演じられる加東大介はある意味天才か?

 

 

◉出入りの前に逃げ出す本間先生(藤田進)

 出演シーンは少ないが塀の上でにっこり笑う藤田進は、「隠し砦の三悪人」の“裏切りご免!”の田所兵衛とならぶおいしい役

用心棒料の違いにすねる本間先生

 

出入り前にそそくさ逃亡

 

 

◉情けない十手持ちの番屋の半助(沢村いき雄)

 東宝の名脇役の沢村いき雄は、多くの映画ではワンシーンのみの出演だが、この映画では冒頭から最後まで出ずっぱりで大活躍(役柄はなさけないけど)

 

絵にかいたようなお調子者

 

 

 

 

◉丑寅(山茶花究)とその子分たち、加藤武、西村晃、ジェリー藤尾、夏木陽介

丑寅(山茶花究)

 

丑寅一家

 

酔っぱらって余計なことをしゃべってしまう二人組。(加藤武と西村晃)

 

中谷一郎(左)、一人おいて、ジェリー藤尾(右)

 

巨大なかんぬき(羅生門綱五郎)

 

水のみ百姓の息子:夏木陽介

 

 

 

◉清兵衛(河津清三郎)と女房のおりん(山田五十鈴)、そして誰もが“こいつが跡目は無理じゃないの“と思う情けない息子(太刀川寛)

清兵衛(河津清三郎)

 

清兵衛一家

 

山田五十鈴(右)河津清三郎(中央)、そして情けない息子の大刀川寛。

 

清兵衛一家の四天王 天本英世(左から2番目)、佐田豊(左から3番目)の顔も見える

 

 

◉三十郎を補佐する居酒屋の権爺(東野英治郎:左)と棺桶屋(渡辺篤:右)

 

 

◉黒澤映画の常連 名主に藤原釜足、造酒屋に志村喬

藤原釜足

 

志村喬

 

 

◉佐藤優のドラマチックな音楽に乗せて司葉子が初めて顔をあげるショットの息をのみ美しさも忘れがたい。

 

 

 

モノクロ110分

 

【鑑賞方法】ブルーレイ CRITERION COLLECTION

【原題・英題】YOJIMBO

【制作会社】東宝/黒澤プロダクション

【配給会社】東宝

 

【監督】黒澤明

【脚本】黒澤明 菊島隆三

【制作】田中友幸 菊島隆三

【撮影】宮川一夫

【音楽】佐藤勝

【美術】村木与四郎

【記録】野上照代

【助監督】森谷司郎 出目昌伸

 

【出演】

三船敏郎:桑畑三十郎

河津清三郎:清兵衛

山田五十鈴:清兵衛の女房 おりん

太刀川寛:清兵衛の倅 与一郎

藤田進:本間先生

清水元:孫太郎

天本英世:弥八

佐田豊:松吉

山茶花究:丑寅

仲代達矢:卯之助

加東大介:亥之吉

西村晃:熊

加藤武:瘤八

羅生門綱五郎:かんぬき

ジェリー藤尾:賽の目の六

夏木陽介:百姓の倅

志村喬:造酒屋徳右衛門

藤原釜足:名主多左衛門

東野栄次郎:権爺

渡辺篤:棺桶屋

土屋嘉男:小平

司葉子:ぬい

沢村いき雄:番屋の半助