ジュリエット・ルイスの過剰な色気と
スコセッシのハッタリの効いた演出で
B級キワモノ間丸出しの娯楽大作映画
★★★★☆
1962年のJ・リー・トンプソン監督の「恐怖の岬」のリメイク。
<ストーリー>
レイプ罪により14年間の獄中生活を終えたばかりのマックス・ケイディ(ロバート・デ・ニーロ)は、自分を敗訴に導いた弁護士サム・ボーデン(ニック・ノルティ)に対する復讐を誓い、サムばかりか妻の霊(ジェシカ・ラング)や娘ダニエル(ジュリエット・ルイス)の前にも姿を現すようになった。
愛犬を殺され、サムの愛人ローリー(イレーナ・ダグラス)が襲われるが、マックスの犯行とは認められない。サムは私立探偵カーセック(ジョー・ドン・ベイカー)を雇いチンピラにマックスを襲わせて、町から追い出そうとするが、鍛え抜かれた肉体を持つマックスには通用せず、逆に暴行罪で告訴されてしまう。
焦るサムはマックスを自宅へおびき寄せるが、またもや逆襲にあい、せっぱつまった一家は、密かに町を離れハウスボートのあるケープフィアーに向かった。しかしマックスは、執拗に追い続け、岸を離れた一家を襲撃。嵐の中、悪夢のような復讐劇が繰り広げられる。(KINENOTEより抜粋)
新旧の配役を比較(上段が1962年の「恐怖の岬」、下段が1991年ん「ケープフィアー」)
マックス・キャディ:ロバート・ミッチャム➡ロバート・デ・ニーロ
サム・ボーデン:グレゴリー・ペック➡ニック・ノルティ
ボーデンの妻レイ:ポリー・バーゲン➡ジェシカ・ラング
ボーデンの娘ダニエル:ロリ・マーティン➡ジュリエット・ルイス
私立探偵カーセック:テリー・サヴァラス➡ジョー・ドン・ベイカー
警察署長:マーティン・バルサム➡ロバート・ミッチャム
となっており、「恐怖の岬」に出演していたロバート・ミッチャム、グレゴリー・ペック、マーティン・バルサムの3人が「ケープ・フィアー」にゲスト出演している。
グレゴリー・ペック(デ・ニーロの弁護士役)
マーティン・バルサム(裁判官役)
「恐怖の岬」のロバート・ミッチャムは分厚い胸板に独特のスリーピング・アイで不気味な存在感だった。ヘイズ・コードもあった時代に主役級のスターがこのような変質者っぽい犯罪者を演じることは珍しい。
西部劇や戦争映画のヒーローを演じていることが多かったミッチャムにとっては「狩人の夜」と本作が代表作だろう。
いくら演技派のロバート・デ・ニーロでも、このミッチャムの存在感にはかなわないと判断したのか、筋骨隆々、刺青だらけのビジュアル的なインパクトとオーバーアクトで対抗する。
体にお絵描きしすぎ
怪しい雲行の中で出所したマックスのカメラへの超接近や、花火をバックに塀の上にいる姿、いかにも男根風の葉巻に下品な女体のライターで火をつけるといった具合。
顔近すぎ
花火をバックのノルティの家を見つめる
男根風な葉巻に女体のライター
今回のリメイクでは弁護士ボーデン一家のキャラクターも大幅に変更されている。
「恐怖の岬」ではグレゴリー・ペックが真面目な弁護士、ポリー・バーゲンが従順な妻、ロリ・マーティンが素直な娘、という家族だったが、今回はニック・ノルティ演じる弁護士はマックスに有利になる証言を握りつぶしたり、前作ではペックが実行をためらったチンピラによるマックスへの襲撃を実行したり、浮気をしたりと必ずしも品行方正ではない弁護士、妻のジェシカ・ラングもタバコを吸いながらデザインの仕事をするやり手、そして娘のジュリエット・ルイスも反抗期に入りつつあり、家族同士の信頼関係も微妙。
1990年代にリメイクするならこの設定の変更はやむを得ないのだろうが、「恐怖の岬」の弁護士一家にたいする復讐の理不尽さが薄れてしまうのが残念。
愛人と楽しむノルティ
タバコを吸いながらデザインをするおしゃれなジェシカ・ラング
ボーデン一家の中で、特に娘のダニエルのキャラクターが異なり、ストーリー上でも大きな比重を占めている。
「恐怖の岬」では単に逃げ回る純粋無垢で素直な子供だったが、「ケープ・フィアー」のダニエルは、自ら積極的にマックス(デ・ニーロ)に接近し、キスまでしてしまう。思春期から大人の女性へと変化していく微妙な心理と、この年齢で過剰な性的要素を感じさせるキャラクターをネチネチと演じているジュリエット・ルイスの不気味さが見事。
過剰な色気
自らデ・ニーロに接近しキスまでしてしまう
ちょっと、違法すれすれの仕事をする私立探偵には「突破口!」の殺し屋役が印象的だったジョー・ドン・ベイカー、ニック・ノルティの愛人役は顔のパーツの一つ一つが派手目なイレーネ・ダクラス(名優・メルヴィン・ダクラスの孫)、そして一時はアメリカ大統領候補になり自身も弁護士であるフレッド・トンプソンがノルティの同僚役で出演している。
顔の作りが派手なイレーネ・ダグラス
一時は大統領候補までなったフレッド・トンプソン
デ・ニーロ扮するマックスは前半ではボーデン一家を心理戦で追い詰め巧妙に自分が罪にならないようにふるまい直接的な手出しはしない。しかし、ニック・ノルティの愛人を襲撃してからの後半は完全に体力勝負の実力行使に出る。
最初は嫌がらせの心理戦
顔を嚙み切られるノルティの愛人
何も罪がない家政婦も殺される
私立探偵も殺される
ケープフィアーではボーデン一家を直接襲撃
それにしても、いくら復讐のためとはいえ、ニック・ノルティ以外の私立探偵や家政婦まで殺害するのはやりすぎではないか?
仮にニック・ノルティが14年前の事件でデ・ニーロに有利になる被害女性の乱交癖を法廷で言及したとしても刑期が何年か短くなる程度ではないか?刑務所でおかまを掘られた恨みを言っていたが多少、刑期が短くなっても同じ目に会っていた可能性もある。前作「恐怖の岬」では弁護士が事件の目撃者として通報しているので、この通報がなければ事件は闇に葬られマックスは刑務所に入らなかったもしれないので恨みの“強さ”が観客にも理解できたのだが・・・。
この強烈な復讐心こそがマックス(デ・ニーロ)の異常性なのかもしれないが、後半は「ターミネーター」ばりの不死身ぶり。
発煙筒も素手でへっちゃら
顔面が炎に包まれてもへっちゃら
そして前作「恐怖の岬」の凄さはラストでボーデンがマックスを殺さずにもう一度、マックスがつらい目にあった刑務所に“終身刑”で送るという幕切れにあったのだが、今回のマックスの死で終わるエンディングは逆にちょっと弱い気がする。
ニック・ノルティがチンピラにデ・ニーロを襲撃させる時にわざわざ警告に行って墓穴を掘ったり、デ・ニーロが殺した家政婦に変装する時にかぶったかつらはいったいどこからでてきたのか?など細かい粗がないわけでもないが、何かあると雷鳴轟き、部屋のブラインドや鍵を閉めまくるアップ、嵐にもまれるヨットなど大げさでケレンミたっぷりのスコセッシの演出は娯楽映画に徹していて微笑ましい。
わざわざデ・ニーロに警告に行き墓穴を掘るノルティ
このカツラは一体どこから?(持参?)
雷鳴轟くケープフィアー
ただの戸締りなのに異常に派手な演出
波にもまれるボート
水にゆらぐタイトルデザインはソウル・バス
音楽はエルマー・バーンスタインが担当しているが、バーナード。ハーマンによる前作「恐怖の岬」の素晴らしいスコアを使用している。
カラー127分
【鑑賞方法】ブルーレイ(吹替)ユニバーサル
【原題・英題】CAPR FEAR
【制作会社】アンブリン・エンターテインメント/キャパ・フィルムズ/トライベッカ・プロダクション
【配給会社】UIP
【監督】マーティン・スコセッシ
【脚本】ウェズリー・ストリック
【原作】ジョン・D・マクドナルド ジェームズ・R・ウェッブ
【制作】キャスリーン・ケネディ フランク・マーシャル
【撮影】フレディ・フランシス
【音楽】エルマー・バーンスタイン バーナード・ハーマン
【編集】セルマ・スクーンメイカー
【美術】ヘンリー・バムステッド
【タイトル・デザイン】ソウル・バス
【出演】
ロバート・デ・ニーロ:マックス・ケイディ
ニック・ノルティ:サム・ボーデン
ジェシカ・ラング:レイ・ボーデン
ジュリエット・ルイス:ダニエル・ボーデン
ジョー・ドン・ベイカー:カーセック
マーティン・バルサム:裁判長
イリアナ・ダグラス:ロリー・デイヴィス
グレゴリー・ペック:リー・ヘラー
ロバート・ミッチャム:エドガード署長
フレッド・トンプソン:トム・ブレードベンド