邦画には珍しい傑作エンターテインメント

 

 

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この映画の公開当時(1979年)の邦画界は陰湿で暗い実録犯罪映画が主流で、長谷川和彦のデビュー作である前作「青春の殺人者」も陰性の映画だった。

2作目である「太陽を盗んだ男」はめずらしく陽性のパワーを持った傑作娯楽映画の誕生だったが、残念ながら公開当時は予想外の不入りだった。

しかし、作品の評価は高く、各映画賞でベストワンを「復讐するは我にあり」と争い、その後も時が経つにつれて評価はうなぎのぼりで、現在では邦画のオールタイムベストテンに入ることも多い。

 

 

 

<ストーリー>

東海村の原子力発電所からプルトニウムが盗まれた。盗んだのは学校の理科の教師の木戸誠(沢田研二)。彼は自分一人で原爆を完成させるが製造途中で被爆してしまう。

政府への交渉の相手として選んだのは山下警部(菅原文太)。山下はかつて木戸が生徒と共にバスジャックにあった時に事件を解決した刑事だった。

原爆は完成したもの何を要求していいか判らない木戸はまず、プロ野球のナイター中継を試合終了まで放送するように要求するが、次の要求が浮かばずラジオDJのゼロ(池上季実子)の番組で要求を募集する。

現金5億円を要求した木戸は渋谷に表れたところを電話の逆探知で場所を特定されて追い詰められてしまい、原爆は一度は山下に回収されてしまうが木戸は再び奪還。

壮絶なカーチェイスの後、車に同乗していたゼロは事故で死んでしまう。

ゼロのアイデアから木戸が要求したローリング・ストーンズ日本公演の会場で山下と木戸は初めて正面切って対峙する。

 

 

 

 

邦画の娯楽映画や犯罪映画で一番困るのはクライマックスで過去の回想シーンや家族の描写で進行が停滞してしまうことが多いことだ。

この映画の優れた点は、主人公の過去の回想や家族関係の描写がなくても、沢田研二が演じる木戸誠のいら立ちや虚無感などが十分に観客が彼の行動に共感できることだ。

 

普通に生徒に混じって遅刻する沢田研二

 

 

誰も製造方法など知らず、何をやっているのかサッパリわからない原爆製造過程を延々と丁寧に描いている前半の1時間が意外に面白い。

 

原爆が完成して踊り狂うシーン

 

 

 

後半は渋谷のメーデーの群衆の中での大捕り物やヘリコプターまで使ったカーチェイス、そして終盤の菅原文太の不死身ぶりなど、これまでの邦画にはなかった濃密なアクションシーンの連続でまったく飽きさせない。

 

メーデーの渋谷でビルの屋上から大量の札を撒かれ大混乱

 

首都高のからのカーチェイスも迫力があった

 

車の爆発後はヘリコプターから追撃する菅原文太

 

 

 

プルトニウム強奪シーンでの東海村の施設への侵入や脱出が簡単すぎることや、監督自身がメイキングで「あのロープはどこから出てきたか謎だね」言っていたターザンになって原爆を奪還するシーンなど“ありえない”場面も多いのだが強引な力技で押し切ってしまう。あれだけ派手なカーチェイスで、池上季実子が死んだ後、大包囲網のはずなのに走って逃げ切れるのも違和感があるが・・・。

 

 

手で簡単に抜けるプルトニウム容器、一人で脱出できてしまうぐらい弱いザル警備

 

 

「あ~あ~あ~」どこからやって来たのかわからないターザン

 

 

東海村襲撃の場面に当時大流行したインベーダーゲームの音を使用したのは安易で座年。

 

 

 

 

当時、アイドル歌手として絶頂期の沢田研二だが、安い背広を着てボロアパートに住みハイライトを吸っている姿が意外にさまになっていた。

 

冒頭の満員電車で顔がまでに押し付けられて姿もインパクト大。

 

国会議事堂へ入るジュリーの女装も違和感なし。

 

もちろんこの国会議事堂に入るシーンはゲリラ撮影

 

 

そして、菅原文太!後半のターミネーターばりの不死身ぶり、撃たれまくっても起き上がり絶命しながら沢田研二と一緒に落下

 

 

「俺は9番、9の次は0なんだ」ということでご指名の池上季実子のDJはちょっと出番が多すぎて流れが停滞することもあった。菅原文太とは謎のラブシーン。

風間杜夫も顔を見せる

 

 

警察の屋上で職員食堂の定食を食べながら謎のラブシーンに発展する

 

 

冒頭のバスジャック事件で犯人を演じる伊藤雄之助も名演。バスが皇居に突っ込むシーンも当然、無許可のゲリラ撮影。

 

政府側の役人には北村和夫、佐藤慶、神山繫とこの手のキャスティングではおなじみの面々

 

 

その他に水谷豊と西田敏行も短い出番ながら顔を見せている。

 

 

 

長谷川和彦はこの作品以後40年以上、作品を撮っていない。

次回作と噂されていた「連合赤軍」も実現せず、若松孝二の「実録・連合赤軍 あさま山荘への道程」がある程度の高評価を得てしまった現在は、もう制作される可能性はないだろう。

40年以上、作品を撮っていない長谷川和彦の肩書はいまでも映画監督なんだろうか?

 

カメオ出演の長谷川和彦(座席で新聞を読んでいる残グラスの男)

 

 

 

2枚組のDVDには特典でメイキングや、長谷川和彦×樋口真嗣×永瀬正敏の対談などが入っている。

 

長谷川和彦監督

 

髪が長い相米真二(左)

 

制作進行の黒沢清

 

永瀬正敏×樋口真嗣×長谷川和彦の対談

 

カラー147分

 

【鑑賞方法】DVD アミューズ

【原題・英題】THE MAN WHO STOLE THE SUN

【制作会社】キティフィルム・コーポレーション

【配給会社】東宝

 

【監督】長谷川和彦

【脚本】長谷川和彦 レナード・シュレイダー

【原案】レナード・シュレイダー

【制作】山本又一郎

【撮影】鈴木達夫

【音楽】井上堯之

【編集】鈴木晄

【美術】横尾嘉良

【助監督】相米慎二

【制作進行】黒沢清

 

【出演】

沢田研二:木戸誠

菅原文太:山下満州男警部

池上季実子:沢井零子(ゼロ)

北村和夫:田中警視庁長官

神山繫:仲山総理大臣秘書

佐藤慶:市川博士

風間杜夫:ラジオのプロデューサー浅井

小松方正:サラ金屋のおやじ

汐路章:水島刑事

市川好郎:里見刑事

戸川京子:木戸のクラスの生徒

水谷豊:交番の警官

西田敏行:サラ金の取り立て屋

伊藤雄之助:バスジャック犯