80年以上経過した現在でも同じようなことが繰り返されている!

 

 

評価:★★★☆☆

 

 

20222月のロシアのウクライナ侵攻から2年以上が経過したが、とても終息の気配が見えない。

侵攻の当初、民間人の大量虐殺が問題となっており、ジェノサイド(集団殺害)ではないかと言われていたが、ソ連は虐殺の事実を認めていない。

そして、202310月から始まったガザ地区の戦闘でも多くの民間人が亡くなっている。

 

この二つの戦争の報道を見て思い出したのが、この「カティンの森」という映画だった。

 

 

“カティンの森事件”は第二次世界大戦中に2万人以上のポーランド軍将校がソ連軍によって大量に殺害された事件で、当初、ソ連はドイツ軍の仕業としていた。

ソ連が非を認め正式にポーランドに謝罪したのが1990年。しかしソ連崩壊後2005年、ロシアで「カティンの森事件はジェノサイドにはあたらない」という声明が出され、2010年、ポーランドを訪れたプーチン首相はソ連の責任は認めたものの、「ロシア国民に罪を被せるのは間違っている」とも主張し、謝罪はしなかった。ソ連およびロシアの捜査によって責任を追及されたり、訴追されたものは一人も存在しない。(Wikipediaより)

 

カティンの森でころされたのは民間人ではなく将校たちであったが、無抵抗の捕虜を容赦なく殺害する行為の本質は民間人への虐殺と変わらないのではないか。

 

このカティンの森の虐殺事件を映画化したのは名作「灰とダイヤモンド」のアンジェイ・ワイダ監督。ワイダ監督の父親はこのカティンの森事件で殺害されている。

 

 

<ストーリー>

19399月、クラクフのアンナ(マヤ・オスタシェフスカ)は娘を連れ、夫のアンジェイ大尉(アルトゥル・ジミイェフスキ)を探しに行く。一方、東から来た大将夫人(ダヌタ・ステンカ)はクラクフに向かう。

アンジェイや仲間のイェジ(アンジェイ・ヒラ)たちは、ソ連軍の捕虜となっていた。アンジェイは、見たことすべてを手帳に書き留める決意をする。

アンジェイはイェジから借りたセーターを着て、イェジと別の収容所に移送される。

19434月、ドイツは一時的に占領したソ連領カティンで、多数のポーランド人将校の遺体を発見したと発表する。犠牲者リストには大将、イェジの名前が記され、アンジェイの名前はなかった。

大将夫人はドイツ総督府で夫の遺品を受け取り、ドイツによるカティンの記録映画を見る。

19451月、クラクフはドイツから解放され、イェジはソ連が編成したポーランド軍の将校となり、アンナにリストの間違いを伝える。殺害されたのはイェジのセーターを着ていたアンジェイだった。

イェジの依頼を受けていた法医学研究所の助手はアンナに、アンジェイの手帳を届けた。

 

 

 

 

ストーリーの前半は夫のアンジェイ大尉を探すアンナを主軸に描かれるが、中盤から大将とその妻と娘、そしてさらに後半にはアンナの写真館の客の姉妹、アンナの甥でパルチザンの若者(大将の娘と知り合いになる)、アンジェイ大尉と仲が良く、別の収容所に送られて虐殺を逃れたイェジ少佐などが、ストーリーに絡んでくる。

しかし、この戦後のエピソードは登場人物が多くなり、それぞれの接点が偶然に頼りすぎていて、散漫な印象で映画全体の評価は傑作というわけではない。

 

 

夫のアンジェイ大尉を探すアンナと娘

 

つかの間の再会後、大尉は列車でどこかに移送されてしまう


 

 

 

もっとも印象的だったのは大将とその家族のエピソードだった。

前半、収容所で捕虜にされたポーランド軍将校たちに対して大将が行った演説の内容が印象深い。

「軍務の目的は勝利をおさめることだけではない。敗北も兵士の運命だ」

「武器は自分の前に置く、敵の前ではない。」

「兵士か敗者か、それは諸君次第で決まる」

「(学者や教師など徴兵されて兵士になった者に対し)生き延びてくれ、君たちなしで自由な祖国はありえない」

「無事の生還を家族との再会を祈る」

 

 

そして大将婦人の毅然とした美しさ。ドイツ軍に虐殺の記録フィルムを見せられている時の毅然とした表情。

 

この記録フィルムはモノクロだが目を背けたくなる

 

戦後、大将の家の家政婦が市長婦人になって運転手付きで訪ねてくる部分は「安城家の舞踏会」の、没落貴族の元運転手が金持ちになって訪ねてくるエピソードを想い出させる

 

 

 

最後、ひたすら銃殺し、死骸を埋めて処理し、床の血を洗い流す鬼畜のような“作業”の光景が凄まじく、脳裏に焼き付いて離れない。

この虐殺シーンは比較的長く続き、多くの観客は見ているのが辛くなるだろう。

 

 


 

 

 

 

 

 

画面が暗転し1分間の暗黒の後にクレジットが流れる

 

 


 

80歳を過ぎて自分の父親が殺害された事件を撮ったワイダ監督の熱意には脱帽する。ワイダ監督は我々に忘れるな!と言いたいのだろう。

 

カティンの森の事件から80年以上の月日が経過し、愚かな人間はふたたび同じ所業を繰り返している。

 

今こそ必見の映画。

 

 

カラー122

 

【鑑賞方法】DVD(字幕)

【原題・英題】KATYN

【配給会社】アルバトロス・フィルム

 

【監督】アンジェイ・ワイダ

【脚本】アンジェイ・ワイダ

【原作】アンジェイ・ムラルチク アンジェイ・ワイダ ヴワディスワフ・パシコフスキ プジェミスワフ・ノヴァコフスキ

【制作】ミハウ・クフィェチンスキ

【撮影】パヴェウ・エデルマン

【音楽】クシシュトフ・ペンデレツキ

【編集】ミレニャ・フィドレル ラファウ・リストパト

【美術】マグダレナ・ディポント

【衣装】マグダレナ・ビェドジツカ

 

【出演】

マヤ・オスタシェフスカ:Anna

アルトゥル・ジミイェフスキ:Andrzej

ヴィクトリャ・ゴンシェフスカ:Nika

マヤ・コモロフスカ:Andrzej’s Mother

ヴワディスワフ・コヴァルスキ:Jan Andrzej's Father

アンジェイ・ヒラ:Jerzy

ダヌタ・ステンカ:Roza General's Wife

ヤン・エングレルト:General

アグニェシュカ・グリンスカ:Irena

マグダレナ・チェレツカ:Agnieszka

パヴェウ・マワシンスキ:Piotr

アグニェシュカ・カヴョルスカ:Ewa

アントニ・パヴリツキ:Tadeusz(Tur)Anna'sNephew

アンナ・ラドヴァン:Elzbieta