異様な空間で繰り広げられる異常な愛憎劇

 

 

評価:★★★★☆
 

 

一流のスタッフ、キャストで作られた超変態映画。

 
 

「め〇ら」「きち〇い」といった放送禁止用語連発のため、地上波での放送は未来永劫できないだろうし、現在の映画界では企画すら通らないのではないか。

 


 

<ストーリー>

盲目の彫刻家の男(船越英二)とその母親(千石規子)はファッションモデルのアキ(緑魔子)を彫刻のモデルとして誘拐しアトリエに監禁する.

 

アキは何度か脱出のチャンスをうかがうが失敗してしまう。

やがて男と母親が異常なまでに強く結ばれていることに気づいたアキは意識的に男に接近し、母親はその姿に嫉妬しアキを追いだそうとしたが、阻止しようとした男ともみ合いのすえ転倒し、頭をぶつけて死んでしまう。

 

二人きりになった男とアキは肉体関係を結び、アキは次第に男に愛情を持つようになり、やがて二人はセックス三昧の日々を過ごすようになる。


 

暗闇の中、次第にアキの視力も低下していく。目が見えなくなった二人は触覚による快楽を求め、さらに強い刺激を求めるようになっていく。

お互いの肉体をむさぼり、触覚の楽しみがエスカレートして傷つけ合いようになり、噛む、叩く、ナイフで切る、と徐々に痛覚に刺激を求めるようになる。

 

 

 

 

 

1969年、大映としては経営難が表面化し断末魔の状態であり、低予算でエログロ的なカルト作品が数多く作られており、このような混沌とした状況の際には、時として本作のようなカルト的な傑作も生まれるかもしれない。

 

冒頭からモノクロの全裸で鎖と絡む緑魔子の画像。これらは写真家の個展の会場に飾られている写真だが、中央に置かれている裸像の彫刻を執拗に触りまくる船越英二。


 

 

 

映画の舞台のほとんどが彫刻家のアトリエ内に限定されているが、このアトリエ内の美術セットが凄い。

中央に女性の全身の大きなオブジェがあり、周囲の壁には目、鼻、唇、乳房、手、足などのパーツが飾られている。

 

目が見えない男にとっては、触ってわかるオブジェがそこら中にある方が安心できるのだろうが、目が見える我々にとっては、この室内の光景の視覚的なインパクトは強烈。

 

この異様なアトリエ内で繰り広げられる盲目の彫刻家の男と、その母親、そして誘拐監禁されたモデルのアキの3人だけの息が詰まるような人間ドラマ。

 

 

男の母親が死に、二人だけになった彫刻家の男とアキは触覚から痛覚へと快楽の要求がエスカレートしていくなか、やがて死にいたるであろうことは容易に想像がつく。

傷付けられる緑魔子の叫び声に歪む彫刻の演出、ナイフで肉体を切る効果音、腕や足のパーツを切り落とすごとに崩れ落ちる彫刻の手足。


 

そして、ラストの暗闇に薄く光る死んだ緑魔子の眼が印象的。

 

 


 

主役の3人の演技が素晴らしい.

アキ役は増村保造監督作品のミューズである若尾文子ではなく、東映から緑魔子を招いている。

彼女の小悪魔的な個性が中盤から終盤にかけてのアキが囚われている立場から、親子に心理戦を仕掛け、最後には彫刻家の男と触覚による快楽をむさぼるようになってやがて死へと突き進んでいく強烈なキャラクターにピッタリだった。

若尾文子に出演のオファーがあったのかどうかはわからないが、「赤い天使」に出たぐらいだからもしオファーがあれば出演していたかも?

 
 

盲目の彫刻家の男には船越英二。

誘拐されてすぐにアトリエ内で緑魔子と船越英二が追いかけっこする場面があるがこの時の船越英二の盲目の演技が凄い。目線が目標を見ずにアトリエ内を走り回る。

 

スコップで頭を殴られ血を流しても平気で立っている姿もインパクト大。

 
 

この翌年にはテレビの「時間ですよ」の銭湯の人のいい御主人を演じ、その後も「熱中時代」の温厚な校長先生役の印象に強かったので、こんな役を演じていたとは知らなかった。


「熱中時代」の校長先生 

 

 

テレビドラマでの人のいいおばあさん役が多かった千石規子がここまで激しいキャラクターを演じているのも意外だった。

 

音楽も効果的。

 

 

 

カラー84

 

【鑑賞方法】ブルーレイ ARROW

【原題・英題】BLIND BEAST

【制作会社】大映

【配給会社】大映

 

【監督】増村保造

【脚本】白坂依志夫

【原作】江戸川乱歩

【撮影】小林節雄

【音楽】林光

【編集】中静達治

【美術】間野重雄

 

 

【出演】

船越英二:蘇父道夫

緑魔子:島アキ

千石規子:蘇父道夫の母 しの