多数の有名俳優が出演しているが、
フジコ・ヘミングの自然体な姿が一番、魅力的だった

 

 

評価:★★★☆☆

 

 

先日、市川準監督の「大阪物語」を鑑賞した直後にピアニストのフジコ・ヘミングの訃報を知った。

クラシック音楽やピアノに関しては全くの素人なのでピアニストとしての評価は自分にはわからないが、この「ざわざわ下北沢」に出演している彼女はよかった。

 

 

<ストーリー>

KARASSというカフェでバイトしている20歳の有希(北川智子)が暮らす下北沢という町は、老若男女や古い物と新しい物がざわざわとひしめき合って共存する不思議な街だ。

カフェの常連客・九四郎(原田芳雄)は、ザ・スズナリという劇場で十年以上も定期芝居を続ける俺言座の座長兼看板役者で、カフェのママ・陽子(りりぃ)とは古い付き合いである。彼は最近、別れた女房・福子(田中裕子)と再会を果たした。

有希の叔母のフジ子(フジコ・ヘミング)さんは、ピアノを弾きながら19歳にもなる猫と一緒に暮らしている。

有希の彼氏である達也(小沢征悦)はカメラマンになるという夢を持っている。だが、そんな達也に年上の恋人(鈴木京香)がいたことが発覚した。有希は、達也との関係を見直す為、そして自分自身の成長の為、少しの間、下北沢のぬるま湯的な暖かさから離れて暮らすことを決意し、ひとり、愛する街を後にするのであった…。(映画・COMより)

 

 

下北沢に暮らす人々をスケッチ風に描いた本作は多くの有名俳優が出演しており、オールスター映画として見ればそれなりに楽しいが、全体に少し雑然とした印象を受けた。

 

楽曲の印税で儲けた女性のエピソードは前後にまったく繋がらないわりに長くて不要だと思うし、“お守り”の存在も効果的に人と人の間を行き来しておらず、途中で立ち消えになってから最後に突然出てきて各エピソードの串の役割をうまく果たしていない。


ストーリーにうまく絡まななかったお守り
 

主人公の弟のナレーションも所々にしか出てこないし、そもそも弟の存在感が薄いので、こちらもうまく機能していない感じがする。


 

とりとめのない会話、わかりにくい(説明のない)人間関係、手振れのカメラ、粒子の荒い画像。遠景では俳優の顔の判別も難しい。

 

同じ街を主題にした映画なら「大阪物語」の方が、ゲスト出演も芸人関係に絞られていて、出過ぎた感じなく、主人公の池脇千鶴のひと夏の成長の物語にうまく大阪の街の風景がなじんでいたように思う。

 

もっとも致命的なのは北川智子の成長が上手く描かれておらず、単に彼氏の浮気が原因で街を出ていくような感じの終わり方になってしまっていることだと思う。


主人公の北川智子は悪くなかったと思うが、北川とその恋人の小澤征悦の若いコンビよりも、小劇場の役者の原田芳雄とカフェの店主のりりぃの中年コンビの方が魅力的だった。

 

主役の4人 北川智子 小澤征悦 原田芳雄 りりぃ
 

ラフな格好で飲み屋で煙草を吸い、下駄で街を闊歩する原田芳雄は何歳になってもサマになっている。

 

以下、大量のゲスト出演者たち。

芸術家の柄本明

柄本明の実生活でもこの映画でも妻役の角替和枝

原田芳雄ファンの樹木希林

警察に言われる謎の男:渡辺謙

追う刑事:岸部一徳と松重豊

チラシを置きに来て役者になることを勧められる作家:豊川悦史

車いすを押している女性:田中麗奈

ピアノを弾きながら老齢の猫と暮らすフジコ・ヘミング

ATMから出てくるカウボーイハットの男:テリー伊藤

スナックのママで小澤征悦の二股相手:鈴木京香。

フリーマーケットの若い店主:広末涼子。

飲み屋の客(バイト代を払わない男):高橋克実

酒屋の跡継ぎ:大森南朋

大森南朋の友人:阿部サダヲ

喫茶店の店主:綾田俊樹

居酒屋の店主:ねじめ正一

原田芳雄の元妻:田中裕子

北川智子の父:平田満

初見でエンドクレジットまでわからなかったのは、ビリヤード店長の松尾スズキとビデオレンタル店長の田中要次の二人。

また、映画監督の矢口史靖、犬童一心、鈴木卓爾も出演している。

 

 

豪華なゲスト出演者たち1

柄本明と角替和枝、樹木希林、渡辺謙、岸部一徳と松重豊

豊川悦史、田中麗奈、テリー伊藤、鈴木京香


豪華なゲスト出演者たち2

広末涼子、高橋克実、大森南朋、阿部サダヲ

綾田俊樹、ねじめ正一、田中裕子、平田満


自分がわからなかったゲスト

田中要次、松尾スズキ、映画監督の鈴木卓爾、犬童一心、矢口史靖

 


 

これだけ多くの有名俳優が出演しているが、皆、いい意味でオーラや演技性を感じさせない、だらだらした日常感で街に溶け込んでいる姿がよかった。ただ大森南朋と樹木希林の二人は役者としては上手い俳優だが、少し“演技している”感が出すぎているように思った。

 
 

出演者のなかでは自然体のフジコ・ヘミングが圧倒的に素晴らしかった。
 

街に自然に溶け込んでいるのがいい


くわえタバコでAMAZING GRACEを弾き歌う姿や含蓄もあるセリフの数々。


 

フリーマーケットで広末涼子から悲しい思い出のある100円の品をお札で買って、「今の話にカンパします。悲しい思い出をなくしてください。」

北川智子が下北沢から離れる時にかける言葉。「やっと始まるという顔をしている」「期待しただけがっかりもするもんだけど、でもいいじゃない、がっかりより夢の方が一つ多ければ」

 

名だたる有名俳優たちに混じって一歩も引けを取らない存在感が見事。

母親の下北沢の屋敷を残すために帰国して、その後もずっと下北沢に住んでいたらしいから、映画に出てくる家は本当の彼女の住居なのだろうか?


 

 

 

25年前の作品、小田急線の地下化に伴う再開発で映画に出てくる下北沢の風景は姿を消している場所も多いので懐かしさはあるが、下北沢の街自体の魅力が十分に描き切れてないように思う。


 

街の全景


 

地上の駅と線


ホームが見えるビリヤード店


 

雑多な路街の賑わい


 

劇場(ザ・スズナリ)

 

 

傑作とは言えないが一見の価値はあり。

 

 

カラー105

 

【鑑賞方法】配信 U-NEXT

【制作会社】PUG POINT作品

【配給会社】シネマ下北沢

 

【監督】市川準

【脚本】佐藤信介

【原案】市川準

【制作】岩谷浩 松村龍一

【撮影】蔦井孝洋

【音楽】清水一登 れいち

【編集】三條知生

【美術】原田満生

【衣装】宮本まさ江

 

【出演】

原田芳雄:九四郎、ベテランの舞台役者

北川智子:有希、KARASSのバイト

小澤征悦:達也、カメラマン

イングリッド・フジ子・ヘミング:フジ子、ピアニスト

有吉康平:有吉、ミュージシャン

りりィ:陽子、KARASSのママ

岸部一徳:私服刑事A

柄本明:造形作家・豊橋

角替和枝:豊橋の妻

樹木希林:九四郎のファンの女性

渡辺謙:石田、KARASSの常連客、警察に追われる身

鈴木京香:麻耶、達也の年上の恋人、スナックのママ

豊川悦司:チラシを置きにくる演劇青年、劇作家

田中麗奈:令子

広末涼子:フリーマーケットの若い女性

田中裕子:福子、九四郎のかつての恋人

テリー伊藤:ATMの客

平田満:有希の父

松重豊:私服刑事B

綾田俊樹:根本、喫茶ノラネコの店主

高橋克実:桜、レコード屋ムーズビルの店主

松尾スズキ:ビリヤード場の店長

ねじめ正一:岸田、とある居酒屋の店主

大森南朋:高藤、酒屋の跡取り息子

阿部サダヲ:高藤の友人

田中要次:岡村、レンタルビデオ屋の店主

鈴木卓爾:達也の友人

矢口史靖:達也の友人

犬童一心:達也の友人