集団抗争時代劇第3弾は
「十三人の刺客」の続編的な作品
評価:★★★★☆
工藤栄一監督の集団抗争時代劇は世評に高い「十三人の刺客(63)」の翌年、「大殺陣(1964)」という傑作がもう1本あるが、4年後に作られたこの作品は設定、登場人物、ストーリーなどが「十三人の刺客」とよく似ている。
<ストーリー>
将軍の弟にあたる館林藩藩主松平齊厚(菅貫太郎)の短気から、隣国の忍藩の主阿部正由が殺された。
忍藩次席家老榊原帯刀(南原宏治)は訴状を老中水野越前守(佐藤慶)に届け出た。しかし、齊厚の暴虐と知りつつも、水野は忍藩の非とした。
このままでは、藩は取潰しにされると、帯刀は仙石隼人(夏八木勲)に齊厚暗殺を命じた。隼人は同志と江戸に向い、暗殺計画を綿密に練った。
齊厚は館林藩家老秋吉刑部(大友柳太朗)の率いる五十人の騎馬隊に守られ、帰藩するために日光街道をひた走っていった。
それを隼人らが待ちうけていたが、水野に踊らされた帯刀は計画中止を命令、隼人らは成功を目前にして涙をのんだ。
しかし、それは水野が刑部と仕組んだ謀略だった。
真相を直ぐに知った帯刀は腹を切って隼人たちに詫び、怒った隼人は、すぐさま行列を追い、 館林領の手前の房川で焚火をして休憩していた 齊厚一行を襲撃し凄惨な死闘が繰り展げられた。
「十三人の刺客」との類似点は
①事件の発端が馬鹿殿の傍若無人なふるまい
②「十三人刺客」に続いて菅貫太郎が馬鹿殿を演じている(待ってました!)
③馬鹿殿の有能な家臣(今回は時代劇の大御所の大友柳太朗)
④里見浩太郎、西村晃、汐路章の再登場
⑤馬の蹄の音ともに霧の中から現れる
「十三人の刺客」との相違点は
①唯一の女性として「キーハンター」の大川栄子が参加。
紅一点の大川栄子
②幕府の依頼ではなく、藩側の幕府への反逆
③戦闘に参加しない重要人物(南原宏治)と老中(佐藤慶)の駆け引き
④グロな描写と火薬を使った派手なアクション
今回の侍側のリーダーは夏八木勲扮する仙石隼人(左)サポートする家老役の南原宏冶(右)
その他のメンバーは、西村晃、里見浩太郎、汐路章、大川栄子。
対する幕府側の老中佐藤慶、館林藩家老の大友柳太朗のコンビ。
忍藩家老の南原宏治と幕府側の冷静な佐藤慶のやりとりがいい。
この二人は戦闘には参加せず、頭脳戦の南原宏治vs佐藤慶、チャンバラの夏八木勲vs大友柳太朗という構図。
中盤で侍側が林道を見下ろす斜面で大筒を準備し、待ち伏せしていたところに、襲撃が中止の命令が下るのだが、ここで襲撃のイメージシーンが出てくる。
見せ場をもう一つ作るためかもしれないが、必要無いように思う。
そのまま襲撃中止のままでよかったのではないか。
実際にはこの森での襲撃はない(あくまでイメージ)
その後、帰路を急ぐ、松平斉厚一行と追う仙石隼人。そして豪雨の中の肉弾戦。ここからの斬合いが大迫力で、殺陣の場面だけなら集団抗争時代劇3作中最も面白いかも。
夏八木勲はついに齋厚を討つが大友柳太朗とは相討ち
大友柳太郎は四角い大きい顔と体格で時代劇向きだが、滑舌の悪さが難点。
しかし当時55歳だが馬の扱いや雨中の殺陣が素晴らしい。
尺は100分ほどで3部作中最も短いが、中盤の隼人と恋女房のエピソードが長すぎる。ここの絡みで若き日の近藤正臣も顔を見せる。
そして汐路章・・・、インパクトありすぎ
刀が苦手な経理係という設定や、最後の戦いで手ぬぐいほっかむり姿、最後の最後、ヨダレ垂らしての刀振り回してバッタリも汐路章か?
加藤泰や工藤栄一の作品群や「仁義なき戦い 代理戦争」の教え子をやくざに就職させる教師など、脇役なのにいつもいい意味で目立ちすぎ。
一人手拭いをほっかむりして闘う
よだれを垂らして息絶える
シネフィルで有名な俳優斉藤工のお気に入り作品らしい。
最後の決戦は迫力があったが、作品全体の出来は「十三人の刺客」の方が良い。
モノクロ100分
【鑑賞方法】DVD 東映
【原題・英題】ELEVEN SAMURAI
【制作会社】東映京都
【配給会社】東映
【監督】工藤栄一
【脚本】田坂啓 国弘威雄 鈴木則文
【撮影】吉田貞次
【音楽】伊福部昭
【編集】神田忠男
【美術】塚本隆治
【出演】
夏八木勲:仙石隼人
里見浩太朗:三田村健四郎
岩尾正隆:荒金五郎兵衛
青木義朗:保科久之進
汐路章:市橋弥次郎
大川栄子:県ぬい
西村晃:井戸大十郎
南原宏治:榊原帯刀
宮園純子:織江
近藤正臣:伊奈喬之助
大友柳太朗:秋吉刑部
菅貫太郎:松平齊厚
佐藤慶:水野越前守