集団抗争時代劇第2弾
決戦の舞台は大掃除中の吉原
評価:★★★★☆
前作「十三人の刺客」で集団抗争時代劇という新しい時代劇のパターンを創った工藤栄一による第2弾。
この数年後の「十一人の侍」と併せて、後に“集団抗争時代劇三部作”と呼ばれるが、この3作はどれも傑作。
<ストーリー>
四代将軍家綱が危篤に陥入り、大老酒井忠清(大友柳太朗)は将軍継嗣に弟の甲府宰相綱重(可知靖之)を立てようとしていた。
一方、軍学者の山鹿素行(安部徹)はすさんだ政道を正すために仲間を集めて決起した。素行以下の一党の顔ぶれは、星野友之丞(大阪志郎)、別所隼人(河原崎長一郎)、神保平四郎(里見浩太朗)、日下仙之助(山本麟一)、助七(砂塚秀男)、渡海八兵衛(稲葉義男)、素行の姪みや(宗像奈美)の七人であった。
「十三人の刺客」が幕府の命令で残虐非道なバカ殿を討つというストーリーだったが、今回は幕府へのテロ行為をテーマにしている。
襲撃も戦闘用に要塞化した村ではなく、吉原の街中で行われる。
「十三人の刺客」では刺客側の人数が多すぎて片岡千恵蔵、嵐勘寿郎、里見浩太朗、山城新伍、西村晃、らのキャラクターは丁寧に描かれていたが、それ以外は“その他大勢”の扱いになってしまっていたのが残念だった。
今回の襲撃側は10人以下で里見浩太朗、大坂志郎、山本麟一、河原崎長一郎、稲葉義男、砂塚秀夫、安部徹など、それぞれ個性的なメンバー。
左から宗方奈美、稲葉義男、山本麟一、安部徹(後姿)、里見浩太朗、河原崎長一郎、大坂志郎、砂塚秀夫
なかでも大きな企てに加わりながらひょうひょうとして、傘貼りを続ける子沢山の人の良い親父の大阪志郎がいい。元気に騒ぐ子供たちをにこやかに見つめて「怒るな」と女房(赤木春恵!)にいい、決行の朝、残しても不幸な将来しかないであろう家族全員を手にかけて家を去る姿が哀しい。
襲撃前日の最後の晩餐
家族全員を手にかけてから吉原に向かう
名作「七人の侍」で名参謀を演じ、この作品でも途中までは重要なメンバーと思わせながらクライマックスに向けてどんどん弱腰になり最後は情けない退場の稲葉義男。
志を持ち気骨のある同士と思いきや単にエロ坊主の山本麟一。
唯一、紅一点の山鹿みや役の女優(宗方奈美)が無名で魅力がなかった所が残念。比較的重要な役なはずなのに、ただひたすらに同士に体を提供しているだけのような存在になってしまったのも勿体ない。
そして今回の敵側は東映時代劇の重鎮・大友柳太朗と後に任侠映画を名脇役として支えた大木実という強敵コンビ。この2人の大物感がいい。
今回の襲撃のターゲットの殿様は普通の人でした
準備万端、いよいよ決行の日がやって来る。
土手で甲府宰相の行列に暴走する裸馬を放つ。
裸馬の群れを避けて怒涛のように吉原になだれ込む甲府宰相一行。10頭以上の裸馬の暴走シーンは迫力があった
裸馬の暴走で大混乱で吉原になだれ込む行列
そしていよいよラストの大殺陣!
吉原は、当日は大掃除の最中で畳を叩く音が聞こえる。
「十三人の刺客」「十一人の侍」と異なり一般市民を巻き込む形で戦闘が行われる
手落ちカメラでブレブレ、川の中の殺陣は凄まじい迫力でカメラのレンズに水滴が付き誰が誰だか判らない。
頭から血を流しながら何度も切りつけられてボロ雑巾のような最後の里見浩太朗。昔の正統派東映時代劇の主役だったらあり得ない扱い。
神保らによる暗殺は失敗し、甲府宰相は吉原を出る
すぐに移動をためらう甲府に対して酒井は
“同じ土地に、同じ日に二度の暗殺などありえない”と諭す
襲撃失敗と思いきや、偶然、吉原に来ていた神保をかくまっていた遊び人の平幹二朗によって目的は達成され、唖然と見守る安部徹演じる山鹿素行。
神保の手から折れた刀を取る
決起メンバーとは全く関係ない遊び人によって目的が達成される
全てが終わった後の大友柳太朗の発狂演技は見もの。
安部徹と大木実が並んで歩く姿と、室内から伺う稲葉義男を障子越しにとらえた移動撮影も影をうまく使っていて見事だった。
モノクロ118分
【鑑賞方法】DVD 東映
【原題・英題】THE GREAT DUEL
【制作会社】東映京都
【配給会社】東映
【監督】工藤栄一
【脚本】池上金男
【撮影】古谷伸
【音楽】鈴木静一
【編集】堀池幸三
【美術】富田治郎
【出演】
里見浩太朗:神保平四郎
大坂志郎:星野友之丞
山本麟一:日下仙之助
河原崎長一郎:別所隼人
稲葉義男:渡海八兵衛
砂塚秀夫:助七
平幹二朗:浅利又之進
成瀬昌彦:岡部源十郎
安部徹:山鹿素行
宗方奈美:山鹿みや
大木実:北条氏長
大友柳太朗:酒井忠清
可知靖之:徳川綱重
原田甲子郎:堀田正俊
加賀邦男:林甚兵衛
三島ゆり子:神保加代
尾形伸之 :中島外記
春日俊二:小出治兵衛
堀正夫:新見但馬守
園佳也子:立田川
赤木春恵:星野たよ