観客のリアクションを映さないという英断
評価:★★★★★
1970年代~1980年代に青春を過ごした者にとって、トーキング・ヘッズは、いわゆるメジャーなアメリカのポップ・ミュージックのバンドとは一線を画すオシャレで個性的なバンドだった。(なのでUSA for Africaなどには参加しないと思ったらNETFLIXの“ポップスが最高に輝いた夜”を観たら一応声をかけたけどスケジュールが合わなかっただけみたい)
映画でいえばスピルバーグやルーカスや「バック・トゥ・ザ・フューチャー」の王道路線ではなく、ロバート・アルトマンやブライアン・デ・パルマ、デイヴィッド・リンチのような個性的な監督たちの作品に相当するのだろうか。
(ちなみにこれらのミュージシャンや映画監督は2010年になくなったおしゃれな評論家の今野雄二のお気に入りでした。)
「羊たちの沈黙」のジョナサン・デミが監督したこの「ストップ・メイキング・センス」は、これまで自分が見た音楽関連の映画の中では最高のライブ・パフォーマンス映画。
デヴィッド・バーンが一人で登場しギター1本(とカセットテープ)で「Psycho Killer」を演奏、その後は一曲ごとにメンバーが増えていく構成。メンバーが増えるごとに黒子の衣装を着たスタッフが舞台を作り上げてゆく。
シンプルなセットと絶妙なライティング。
デヴィッド・バーンはステージ上を走りまわり、独特の痙攣パフォーマンスを披露。
ラストまで観客席の反応をほとんど映さない手法が斬新だった。
観客席が写れば「このライブを見ていた人は楽しそうだな」と思ってしまうが一体感は薄れてしまう。
ステージを集中的に写せば鑑賞している我々はあの会場にいた観客と同様に「このライブは楽しい」と感じることが出来る。
安易に観客のノリを写す平凡なライブ映像がつまらなく見える。
全16曲。
①Psychho Killer サイコ・キラー
カセットテープデッキ1台を持ってデヴィッド・バーンが登場。ギター1本で歌う。
② ヘヴン Heaven
美人ベーシストのティナ・ウェイマス登場。
③ サンキュー・フォー・センディング・ミー・アン・エンジェル Thenak you for Sending Me An Angel
黒子がドラムセットの乗った台を設置してドラムのクリス・フランツ(ティナ・ウェイマスの御主人)参加。
④ファウンド・ア・ジョブFound A Job
ジェリー・ハリスンが加わりトーキング・ヘッズのオリジナルメンバーが勢揃い。
⑤Slippery Peopleスリッパリー・ピープル
ノリのいい女性コーラス
⑥Burning Down The Houseバーニング・ダウン・ザ・ハウス
さらにサポートのキーボードとギターが加わりこれでフルメンバー
⑦ライフ・デュアリング・ウォータイム Life During Wartime
クネクネした独特のパフォーマンス。普通の人がクラブでこの動きをしたら周りが引きそうだが、デヴィッド・バーンがやるとなぜか超クール。後半はステージを所狭しと走りまわるデヴィッド・バーン
曲の終わりにデヴィッド・バーンが言った有名な「ありがとう 何か質問ある?」というセリフは後入れらしい、実際には「ちょっと休憩」といったらしい。
⑧メイキング・フリッピー・フラッピーMaking Flippy Floppy
「ちょっと、休憩」後、ひと汗かいたので、髪をきっちりなでつけて、ティナはスカートに着替える
ステージの後ろに3つの単語からなる文が浮かび上がる
⑨スワンプSwamp
真っ赤なバック。この辺からライティングが神がかり。
⑩What A Day That Wasホワット・ア・デイ・ザット・ワズ
バックの壁にメンバーの影が映る
⑪This Must Be The Placeジス・マスト・ビ―・ザ・プレイス
電気スタンドの下に集まって歌う
⑫ワンス・オン・ア・ライフタイム Once On A Lifetime
眼鏡をかけて痙攣パフォーマンス絶好調
⑬ジーニアス・オブ・ラヴGenius Of Love
ベースのティナ・ウェイマスとドラムのクリス・フランツのユニット“トムトムクラブ”の曲。ティナの魅力爆発。
⑭ガールフレンド・イズ・ベターGirlfriend Is Better
ビッグスーツ登場
⑮Take Me To The Riverテイク・ミー・トゥ・ザ・リヴァー
⑯クロスアイド・アンド・ペインレスCrosseyed And Painless
このラストナンバーの後半で初めて観客席のショットが入り最後はスタッフ総登場でトーキングヘッズ、スタッフ、観客が一体となったところでステージ側から幕が降りる所で幕切れという素晴らしさ
最後はスタッフ総出で幕が下りる
幕が降りていくシーンをステージ側から撮っているのもいい。
ーンは映画「トゥルー・ストーリー」をつくり、この映画のサントラにも「Love for Sale」「Wild Wild Life」といった名曲が生まれているが、バンドは1991年に解散している。
2021年、スパイク・リーが監督したデヴィッド・バーンのライブ・パフォーマンス映画「アメリカン・ユートピア」が話題になった。
この映画も傑作だった。
カラー88分
【鑑賞方法】ブルーレイ(字幕)
【原題・英題】STOP MAKING SENSE
【制作会社】トーキング・ヘッズ・プロ
【配給会社】KUZUI
【監督】ジョナサン・デミ
【制作】ゲイリー・ゴーツマン
【撮影】ジョーダン・クローネンウェス
【編集】リサ・デイ
【出演】
デヴィッド・バーン(ヴォーカル、ギター)
クリス・フランツ(ドラム)
ジェリー・ハリソン(ギター、キーボード)
ティナ・ウェイマン(ベース)
エドナ・ホルト(バックアップ ヴォーカル)
リン・モーブリー(バックアップ ヴォーカル)
アレックス・ウエイナー(ギター)
バーニー・ウォーレル(キーボード)
スティーヴ・スケールズ(パーカッション)