1960年代前半に実際に起こったボストン絞殺魔事件の映画化。

シリアルキラーを題材にした映画化では「血を吸うカメラ」「ヘンリー」「羊たちの沈黙」に並ぶ傑作。

 

 

“シリアルキラー”という単語が世間に広く知られるようになった現在とは異なり、この当時はこの題材扱うこと自体がセンセーショナルだったであろう。

 

 
 

冒頭、暗闇にテレビの画面のみが写っている画面の中では有人宇宙飛行成功のニュースを放映している。その後明るくなると部屋の全景が見えて、男が室内を物色している姿が見える。

 

 

 

 

 

  分割画面を多用した演出

 

ここから映画の前半は分割画面を多用しての絞殺魔事件の経過と警察側の捜査を追っていく、分割画面が3画面以上でそれぞれが入れ替わるとちょっと鬱陶しく感じることもあるが、同じアングルを倍率を変えて描いたり、犯人側と被害者の行動が同時進行で描かれたり、同じ場所を複数の視点から見た構図や、野次馬の一人一人の表情を写したり、時には鉄柵の枠が分割の枠組みに移行するような凝った演出もあり、非常に効果的に使われている

 

3分割

5分割

 

被害者(左)と犯人の視点(右)

 

同じアングルの倍率を変えて


 

部屋の中と外で


 

門の柵をフレームとして使って

 

 

 


 

 

捜査はジョージ・ケネディとマーレ―・ハミルトンを中心に行われるが途中からヘンリー・フォンダが加わる

ジョージ・ケネディ(左)とマーレ―・ハミルトン(中央)


ヘンリー・フォンダ

 

 

捜査の方は多数の異常者を検挙してもなかなか犯人逮捕に至らず、ついに超能力探偵に協力を依頼するがこれも空振りに終わる。

 

怪しげな超能力者

 


 

そして映画が1時間経過したころでトニー・カーティスが登場。

 

ここからは犯人側の視点で犯行の様子と逮捕に至るまでが描かれ分割画面が減っていき、逮捕後の後半は全くトーンの異なる演出になる。

 

 

 

  後半も様々な映像テクニックを駆使して犯人の深層心理に迫る

 

トニー・カーティスとヘンリー・フォンダの尋問の場面では殺風景な部屋でマジックミラーに映った2人の姿も入れた構図にトニー・カーティスのアップとフラッシュバックが入り徐々に犯人の深層に様迫っていく。

 

 

 

ここでもトニー・カーティスの顔の輪郭のシルエットに被害者の映像がはいったり、回想の中にヘンリー・フォンダが登場したり、面会に来た奥さんが異常に部屋の遠くにいるようにみえたり、ありとあらゆる映像技術を駆使して観客を飽きさせない。

 

顔のシルエットの中に被害者が立っている


 

回想シーンに現れるヘンリー・フォンダ

 

 

 

面会に来た奥さんが部屋の向こうに遠ざかる

 

 

 

 

  明るいイメージのトニー・カーティスのシリアスな名演技

 

殺人の記憶を取り戻していく過程でのトニー・カーティスの演技が見事だった。精神的に追い詰められて涙を流す瞬間をワンカットで撮影。


 

涙を流すシーンをワンカットで撮影している
 

 

自らが犯した殺害の全てを認識したトニー・カーティスの人格が崩壊し、部屋の隅に無表情に立って真っ白な壁に吸い込まれるように立ち、息遣いのみが聞こえるラストが印象的。

 

 

後半のトニー・カーティスの演技がすばらしく、「お熱いのがお好き」などコメディ映画に出ている明るい二枚目のカーティスと別人のよう。

 

 

捜査側の冷静新着なヘンリー・フォンダ、個性を強く出しすぎていないジョージ・ケネディも好感が持てる。さらに捜査員役で「ジョーズ」の市長のマーレイ・ハミルトン、唯一命が助かった被害女性は「マッシュ」のサリー・ケラマン、途中の変質者の弁護士で「スティング」のFBI捜査官役のダナ・エルカーなどが出ている。

 

殺害が未遂に終わった被害者役でサリー・ケラマンが出演している。

 

左の弁護士は「スティング」のFBI捜査官だった人

 

途中の超能力者の登場場面が浮いている感じなのが残念。

 

 

 

 

  実在のデザルボは異常性欲者だった

 

実在の犯人のアルバート・デザルボは異常に性欲が強く、夫婦生活では1日に6回のセックスを妻に要求していたとされ、また殺害した女性の多くは性器を露出した格好で発見されている。

逮捕後、デサルボは精神異常と診断されたが、終身刑となった。

服役中の1973年に刑務所内で何者かに刺殺されている。

 

 

 

 

 

  何故か大作を撮ると駄作になってしまうフライシャー監督

 

リチャード・フライシャー監督は本作のほかに「恐怖の土曜日」「「10番街の殺人」、「見えない恐怖」などのノアール的な名作や「マンディンゴ」「ソイレント・グリーン」などの傑作を多く作っていながら大作映画を撮らせると「海底二万哩」「ドリトル先生不思議な旅」「ミクロの決死圏」「アシャンティ」などの比較的大味な凡作が多いという不思議な監督である。

 

 

 

DVDで鑑賞 広川太一郎(トニー・カーティス)、小山田宗徳(ヘンリー・フォンダ)の吹替え入り。

 


 

1968年 アメリカ カラー119分

 

【鑑賞方法】DVD(吹替)

【原題・英題】 THE BOSTON STRANGLER

【制作会社】リチャード・フライシャー・プロ

【配給会社】20世紀FOX

 

【監督】リチャード・フライシャー

【脚本】エドワード・アンハルト

【原作】ジェロルド・フランク

【制作】ロバート・フライアー

【撮影】リチャード・H・クライン

【音楽】ライオネル・ニューマン

【編集】マリオン・ロスマン

【特撮】L・B・アボット

 

【出演】

トニー・カーティス:Albert DeSalvo

ヘンリー・フォンダ:John S Bottmly

ジョージ・ケネディ:Phil DiNatale

マイク・ケリン:Julian Soshnick

ハード・ハットフィールド:Terence Huntley

マーレイ・ハミルトン:Frank McAfee

ジェフ・コーリー:John Asgeirsson

サリー・ケラーマン:Dianne Cluny