死体の不気味なアート感が妙に美しい
評価:★★★★☆
実在したシリアルキラーのヘンリー・ルーカスをモデルにした映画。完成後4年間お蔵入り。
<ストーリー>
ヘンリー(マイケル・ルーカー)は娼婦の母親を殺害して以来、常習的に殺人を犯すようになった。
ヘンリーはオーティス(トム・トールズ)という男と同居していた。
ある日、オーティスの妹のベッキー(トレーシー・アーノルド)が亭主から逃げてきて、2人の共同生活に加わった。
いつしか、オーティスもヘンリーと一緒に殺人を犯すようになり、二人は幾度となく殺人を重ねる。
やがて、ベッキーがヘンリーに好意を持ち始め、3人の生活にも破局の時がくるが・・・。
前半は直接的な殺しの場面は描かかず、ヘンリーの日常の行動と並行して様々な死体と、背後で殺されている時の悲鳴や話し声が聞こえるのみ。この死体の状況のアート感が不気味。それぞれの死体の損傷具合や置かれている場所、そして移動しながらその死体をゆっくり捉えるカメラ。ブルーレイに入っている削除シーンではもっと多くの死体のシーンが撮影されている。
カメラワークは独特で、ヘンリーとオーティスの妹ベッキーとの二人きりの会話の長い場面の緊張感のあるカメラワークや、殺人の後ヘンリーとオーティスが二人でいる時のゆっくり回り込むカメラワークなども印象に残る。
中盤のオーティスと衝動的に売春婦を殺してからは直接的な殺害のシーンが描かれる。特にテレビを買いに行った店の店長の殺害やビデオで撮影された一家殺害のシーンは凄まじい。
快楽的に殺人を重ねていくオーティスと対称的に、淡々と無表情に殺人を日常のルーティーンのようにこなしていくヘンリー。
ヘンリーが唯一、心を通わせることが出来る相手はベッキーだけだったが・・・。
ベッキーと一緒に旅にでたが、途中からヘンリー一人。捨てられた血痕のついたバッグの中身は・・・。
殺人の動機は全く分からない。背景には劣悪な家庭環境があるのかもしれないが、親殺しの話も使用した凶器の話も二転三転しハッキリしない。
安易な動機の解明がないことがこの映画を傑作にしている。
シリアルキラーを扱った映画としては「ありふれた事件」と並ぶ傑作。
ジョン・マクノートン監督、これがデビュー作とは思えない素晴らしい出来。
メイキングやインタビューではこの監督は黒澤やフェリーニ、ジョン・フォードなど極めてオーソドックスな巨匠たちの映画を見ているのが意外だった。
「クリフハンガー」「JFK」「ウォーキング・デッド」のマイケル・ルーカーにとってもデビュー作。
ブルーレイで鑑賞 特典多数
【鑑賞方法】ブルーレイ(字幕)キングレコード
【原題】HENRY: PORTRAIT OF A SERIAL KILLER
カラー83分
【制作会社】マルジャック・プロ作品
【配給】ケーブルホーグ
【監督】ジョン・マクノートン
【脚本】ジョン・マクノートン リチャード・ファイア
【制作】ジョン・マクノートン リサ・デドモンド スティーヴン・A・ジョーンズ
【撮影】チャーリー・リーバーマン
【音楽】ロバート・マクノートン ケン・ハル スティーヴン・A・ジョーンズ
【編集】エレナ・マガニーニ
【美術】リック・パウル
【衣装】パトリシア・ハート
【出演】
マイケル・ルーカー:Henry
トム・トールズ:Otis
トレーシー・アーノルド:Becky