列車が“停車できない”というアイデアが秀逸

 

評価:★★★★★


 

NETFLIXで草彅剛主演、樋口真嗣監督でリメイクが決定した「新幹線大爆破」。

キアヌ・リーヴス主演の「スピード」が公開された時に“スピードを落とすと爆発する”という爆弾のアイデアの元ネタが、この映画なのではないか?として話題になった。本作の短縮版がフランスで公開されて大ヒットしているので、「スピード」を作った関係者がこれを見ていた可能性は十分にありえる。

 
 

<ストーリー>

ひかり109号博多行に爆弾を仕掛けたという電話が入った。この爆弾はスピードが80キロ以下に減速されると爆発するしかけになっていた。

犯人グループの倒産した工場の元経営者・沖田哲男(高倉健)、工員の大城浩(織田あきら)、元過激派の闘士・古賀勝(山本圭)らは500万ドルを国鉄本社に要求した。

運転指令長の倉持(宇津井健)は、警察庁の須永刑事部長(丹波哲郎)、公安本部長の宮下(渡辺文雄)と共に対策を練る。

はたして爆発を回避することはできるのか?

 

 

鉄道には自動列車制御装置(ATC)という非常時に列車を停止させ安全を確保するためのシステムがあるのだが、この映画の場合は緊急停止すれば爆発するため、安全のためのACTが逆にリスクになるという優れたアイデア。

公開当時はこのATCの安全神話を揺るがす内容に国鉄が難色を示し、撮影の協力が得られなかったため、スペクタクルな部分が貧相な新幹線のミニチュアで、この部分が残念だった。


 

 

ちょっと残念な出来のミニチュア

 

 

宇津井健の「新幹線の科学技術や管理方法が本物かどうか試されている」というセリフがあったが、このセリフがあってあの結末なら国鉄が協力してもよさそうだが、やはり安全神話のATCの扱いが引っかかったんであろう。

 

 

終点の博多についたら停止せざるを得ないので何もしなければ確実に爆発してしまうのだが、列車の速度の増減で多少タイムリミットが伸縮するところもサスペンスとして良い。

 

 

東京駅出発から博多駅到着までのわずか10時間足らずの話だが、通常の娯楽映画の5本分ぐらいのサスペンスが

詰め込まれている。 


以下、印象的なエピソード

・冒頭の夕張の機関車爆破シーンは実写で本物の迫力。


 

 

・下り列車を上りの線路に入れるためにATCが作動し停止してしまわないよう高速で分岐点を通過する場面の緊張感。

 

・渓流での現金受け渡しや山本圭を追い詰める線路内でのアクション。

 

・非常にアイデアが練られていた高速での現金受け渡し。

 
 

 

高速道路で受けとった現金を下の一般道に移動して運び去る

 

 

素人の柔道部員に犯人逮捕をお願いしてしまって犯人を追い詰められない無能な警察とか、図面を置いた直後のあのタイミングで喫茶店が偶然火事とかありえないのだが、矢継ぎ早の展開で見ている最中は気にならない。


 


素人の柔道部員に「捕まえろ!」(笑)

 

 

 よりにもよってこのタイミングで爆弾の図面を置いた喫茶店が火災発生

 

 

しかし、日本映画のいつも悪い癖でクライマックスに近づいたいい所で入る犯人の背景や過去の回想場面に時間を割いてしまう

そして、乗客たちのお経をあげる、叫ぶ、狂う、病人が出るとヒステリックな過剰反応が類型的で、変な熱演に恥ずかしくなってしまう。 

 

恥ずかしくて暑苦しいオーバーアクトの乗客たち

 

 

主演は犯人側の高倉健、国鉄側の宇津井健、と2人の健さん。

 
 

 

高倉健は東映が実録路線へ舵を切ったことにより居場所が無くなり「ゴルゴ13」「宿無」「ザ・ヤクザ」など迷走中だったが、ここでは哀愁漂う中年男を演じて絶品。高倉健がこのキャラクターを演じることで観客は犯人側に感情移入することが出来る。

宇津井健は東映カラーではなく、映画界のスターでもはないので意外だったが、新幹線の停止を命じる場面や犯人逮捕のために嘘の情報がテレビに流されている時の憤りの演技は、普段の暑苦しい正義感ぶりが逆にこのキャラクターに合っていた。

 

運転手役の千葉真一は運転席で汗まみれで大げさに叫びながらカチャカチャとレバーを動かしているだけで、アクションは少なめ、皆が「タワーリング・インフェルノ」のスティーブ・マックィーンのような活躍を期待していたのに。

 

           

 

そして高倉健の相棒役には、当時、左寄りインテリ役と言えばこの人しかいない、山本圭。一見、水と油のようで、なかなか名コンビでした。

 
 

長めの髪にサングラスにジーンズでいかにも全共闘くずれ風

最後の爆死もいかにも“らしい”死に方

 

 

他に列車内の乗客に、何故か「女医の秋山です」という変な自己紹介で登場する藤田弓子、護送中犯人の郷英治、通りすがりの岩城滉一。


 


 


 

鉄道公安官に竜雷太

 
 

犯人捜査を担う国鉄と警察側は志村喬、鈴木瑞穂、丹波哲郎、渡辺文雄など。


 


 


 

ゲスト出演に北大路欣也、志穂美悦子、多岐川裕美、田中邦衛、川地民夫。しかし多くは出番がワンカットのみで役柄も印象に残らない。


 


 


 


 


 


当時のパニック映画ブームに便乗しただけかと思ったが、これだけの考え込まれた脚本は日本映画では珍しい。

佐藤純弥監督はこの後、大いに期待したが、大作を任されては今ひとつという状態が続きながら、ついには「北京原人」で到達点にいたる。「新幹線大爆破」と「北京原人」が同じ監督によって撮られたなんて誰が信じるだろう。

 

 

EUREKAのブルーレイには佐藤純彌監督のインタビューなど特典が満載。

インタビューされている佐藤純彌監督

 

 

【鑑賞方法】ブルーレイ EUREKA

【英題】SUPER EXPRESS 109 / BULLET TRAIN

カラー153

 

【制作会社】東映

【配給】東映

 

【監督】佐藤純彌

【脚本】佐藤純弥 小野竜之介

【原案】加藤阿礼

【制作】天尾完次 坂上順

【撮影】飯村雅彦

【音楽】青山八郎

【編集】田中修

【美術】中村修一郎


【出演】

高倉健:沖田哲男

山本圭:古賀勝

田中邦衛:古賀の兄

織田あきら:大城浩

郷えい治:藤尾信次

宇津井健:倉持

千葉真一:青木

小林稔侍:森本

志村喬:国鉄総裁

永井智雄:新幹線総局長

志穂美悦子:東京駅電話交換嬢

渡辺文雄:宮下

竜雷太:菊池

丹波哲郎:須永

鈴木瑞穂:花村

青木義朗:千田

北大路欣也:刑事

川地民夫:佐藤

山内明:官房長官

多岐川裕美:SASの係員

宇津宮雅代:靖子

藤田弓子:医師

風見章子:靖子の母

岩城滉一:東郷あきら

横山あきお:あかね荘管理人

福田豊土:田代車掌長(ひかり109号)

田中浩:堤刑事

田島義文:佐々木刑事

田坂都:平尾和子(妊婦)