オリジナルに匹敵する出来栄え

 

 

評価:★★★★★

 

「フレンチ・コネクション」「エクソシスト」の連続ヒットで飛ぶ鳥落とす勢いだったウィリアム・フリードキン監督がフランス映画の傑作をリメイク。

しかし、公開当時は批評家からは低評価で興行収入も惨敗だった。

監督としてのフリードキンもこの作品以降は低迷してしまう。

フリードキンだけではなく、1970年代前半に傑作を連発し大活躍したディレクターズ・カンパニーの3人(フランシス・フォード・コッポラ、ウィリアム・フリードキン、ピーター・ボグダノビッチ)は、最初の3~4作品は傑作揃いだったのに、1980年以降はいずれも大きく低迷してしまったのが残念。

自分は封切り時に劇場で鑑賞。ガラガラの劇場で見たが手に汗を握る展開で面白かった。当時でも不評が信じられなかった。

 

自分が劇場で見たのはカットされた短縮版で、後に完全版があることを知ったが、なかなかソフト化されず、2019年になってやっとキングレコードが完全版を国内で発売。

早速購入し鑑賞。

 

 

大傑作

 

クルーゾー監督のオリジナル版もその後に鑑賞したが、こちらも傑作で甲乙つけがたい。


 

 

完全版の大きな変更点は主人公4人が吹き溜まりの街へ逃げてくる前のエピソードに時間を割いている所だが、やはりここは長く感じてしまう。特にブルーノ・クレメルのエピソードが判りにくかった。イスラエルの爆破シーンやロイ・シャイダーの車の事故のシーンなどは迫力があった。

 

イスラエルの爆破シーン


 

過去にすねに傷を持つ男たちの南米の底辺の暮しぶりの描写はよかった。フリードキン監督は「フレンチ・コネクション」でのニューヨークや「エクソシスト」の北イラクの発掘現場や、この作品の南米の吹き溜まりのような街の描写などのロケーション撮影が上手い。


 

ここのどん底の生活の描写があってこそ、4人が命がけでニトログリセリンを運びこの苦境から脱出しようとする彼らの必死の心情が理解できる。


過去の傷を背負って吹き溜まりのような街で暮らす4人

 

ある日、油田で火災が発生し、爆風を使って消火をするためにニトログリセリンをトラックで運ぶことになるのだが、この油田火災の場面も大がかり迫力満点。

 

それにしてもトラックがボロボロすぎる! 

油田火災で負傷者を運んできたトラックはまともだったので、会社が“もうちょっといい車両を用意できるのでは?”と思ってしまった。

 

ボロボロのトラック

 

 

いざトラックが出発すると、崩れ落ちそうな木の足場、有名な豪雨の吊り橋、大木の爆破など、サスペンスあふれる場面の連続で息つく暇もない。トラックがジャングルの中を行く場面、望遠でとらえた山の頂を走っていく姿、後半のSf映画に出てくるような寒々とした荒野を走るトラックの姿はまるで生き物のよう。


ぐずぐずに木が腐ってる足場

 

 

 

そして、何といっても、あの“吊り橋”のシーン。

CGのない時代にどうやって撮影したのか。当然本物のボロトラックを走らせたのだろうが、今にも川に落下しそう。一部トラッが傾きすぎて、いくらなんでもこれでニトロの箱が動かないのはおかしいと思う場面もあるが、このシーンだけでも見る価値がある。

 

 

その後の大木の爆破シーンも迫力があった。


ニトロを使って大木を爆破

 

そして、オリジナル版では爆風(タバコの葉が吹き飛ぶ)のみで表現されていた先行するトラックの爆発もフリードキン版ではタイヤのパンクから崖に落ちて爆発するまでを描写している。

 

  
 

 

 

 

ラストシーンもオリジナルと異なる。

 

ラストはオリジナルではイブ・モンタンのトラックが帰り道に転落して死ぬまで描かれているが、本作では無事に町まで帰って居酒屋で踊るロイ・シャイダーを居場所を探し当てたギャングが訪ねて来るところで終わる。

ロイ・シャイダーの絶望的なその後を暗示して終わる本作の余韻の方が忘れ難い。

 

 



 

出演者はロイ・シャイダー以外は有名スターは出ていないが、ブルーレイの特典映像でのフリードキンへのインタビューによれば当初は主役の4人はスティーブ・マックィーン、マルチェロ・マストロヤンニ、リノ・ヴァンチュラ、アミドゥが予定されており、マックィーンは脚本を読んで出演を希望したがアリ・マックグロウを置いて撮影に参加することを嫌がり、アリの役を追加するかアリが制作に名を連ねる、またはアメリカでの撮影を要求したが、フリードキンが却下し、ロイ・シャイダーに変更された。マストロヤンニも当時のパートナーのカトリーヌ・ドヌーヴが国外の長期ロケに承知せずお流れ、リノ・ヴァンチュラはロイ・シャイダーよりも低いギャラに納得せず、結局オリジナルのキャスティングが残ったのは最も無名なアミドゥのみとなった。


 

タンジェリン・ドリームの音楽も印象的。


 

 

【鑑賞方法】ブルーレイ(吹替)キングレコード

【原題】SORCERER

カラー オリジナル完全版121分(劇場公開版92分)

 

【制作会社】CIC

【配給】CIC

 

【監督】ウィリアム・フリードキン

【脚本】ウォロン・グリーン

【原作】ジョルジュ・アルノー

【制作】ウィリアム・フリードキン

【撮影】ディック・ブッシュ ジョン・M・スティーヴンス

【音楽】タンジェリン・ドリーム

【編集】バッド・スミス ロバート・K・ランバート

【美術】ロイ・ウォーカー ジョン・ボックス

【衣装】アンソニー・パウエル

 

【出演】

ロイ・シャイダー(ドミンゲス)

ブルーノ・クレメル(セラーノ)

フランシスコ・ラバル(ニーロ)

アミドウ(カッセム)

ラモン・ビエリ(コーレット)